村尾祐美子,2008,「韓国におけるきょうだい構成と教育達成」,『東洋大学社会学部紀要』,46(1),165−179.
http://jairo.nii.ac.jp/0236/00000535
松元雅和,2011,「応用政治哲学の一試論 —分析的平等論と教育政策への示唆—」,『島根大学教育学部紀要』,45,83-93.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110008895462
西出崇,2012a,「地方部の若年層における居住地選択行動の規定要因─基本的属性および家族的要因の影響─」,『政策科学』,19(3),403-424.
http://jairo.nii.ac.jp/0026/00004282/en
西出崇,2012b,「地方部の若年層における居住意向の規定要因─小学生・中学生・高校生における 基本的属性および家族的要因の影響─」,『政策科学』,20(1),89-109.
http://jairo.nii.ac.jp/0026/00003577/en
村尾論文
村尾(2008)は韓国のパネル調査データを用いて,少子化の影響を社会政策との関連ではなく,個人に与えた生活経験という視点から考察する.具体的には,きょうだい数及びきょうだい構成が教育達成に影響を合計特殊出生率の変化を踏まえ,サンプルを四つのコーホートに分割して分析をしている.これによれば,韓国では少子化によるきょうだい数の減少が1959年から1964年コーホートと比較したときの1975年から1981年のコーホートの大学進学の確率を有意に上昇させたことが報告されているが,近藤(1996)が指摘するような「若いコーホートほど,きょうだい数が教育達成に及ぼす影響が強くなる」傾向までは見られなかった.ジェンダーに関しては,1970年から1974年コーホート以降の若い世代で,実態としては男女の大学進学率の差がなくなっているものの,全体サンプルの多変量解析からは,見かけ以上に女性が男性に比べて進学機会が不利という平尾(2006)と同様の推定結果が出ている.
松元論文
松元はF. ハーシュによる「位置財」(positional goods)の概念を応用させて,政治哲学の視点から日本の教育自由化の議論を分析する.社会的側面から見たとき,教育には位置財としての側面と希少財としての側面の二つがある,位置財とは,「財の相対的所有がその絶対的価値に影響をもたらす」(松元 2011: 86)である.例えば,Aが大学進学をする一方で他の人々が進学しない場合から,全員が大学に進学する場合へ大学進学率が相対的に変化すると,Aが大学に進学する事実は変わらないにもかかわらず,Aにとっての大学進学自体の持つ価値は減少する.次に,教育には希少財としての側面もある.これは,教育が社会的選別の機能を持つ限り,全員が十分にはそれを持つことができないという希少性が伴うという意味だ.
もちろん,教育には個人に内在する価値もあるため,位置財の考え方を応用させて,恵まれるものが持つ財を減少させることで,恵まれないものの不利を是正することには慎重になるべきなのだが,この概念を応用させたA. スウィフトは,イギリス社会における公立校と私立校の高等教育への進学機会の格差から,私立校の廃止を訴える.日本はイギリスほどには私立校と公立校との間に高等教育への進学機会の格差は存在しないとする松元は,むしろ近年議論に上がっている公教育の自由化による公立校間の格差拡大に警鐘を鳴らす.
西出論文
西出(2012a)及び西出(2012b)は福井県若狭町に住む小中高,さらに高校卒業後から23歳時までの若年層を対象にした地域調査データから,彼らの居住意向ないし居住地選択行動の規定要因を考察している.若狭町には町内に高等教育機関が存在せず,進学するものの多くが地域の外にある学校に通うため転出する.そのため,高校卒業後の「学生・社会人調査」における若年層に関しては,帰省を見込んで夏休み期間中に中学卒業時の卒業名簿に記載してあった住所に調査票を郵送する形で調査をするという問題はあるものの.長子であることが将来の居住意向と有意に結びついていることが指摘されている(西出 2012b).その一方で,学校に調査票を配った小中高調査では,長子であることの居住意向への影響は小学生調査においてのみ観察されている(西出 2012a).これに関して,西出は高校卒業後に社会に出て自立することで「長子」であることを意識するという解釈をしているが,単に帰省しやすい若者ほど長子であり,将来の居住意向があるのかもしれない.このような疑問点は残るものの,若年層の居住地選択行動に関してはほとんど研究がなされていないため,貴重な知見の一つだろう.社会学の教科書を読むと,社会移動(Social Mobility)には垂直移動と水平移動,すなわち階層移動と地域移動の二つがあると書いてあるが,前者に比して後者が研究されてこなかったのには,人々は階層上昇を目指して都市に移動するという前提があったのかも知れない.
感想
村尾論文は変数がやたら多くて分析結果をクリアに示せていない印象を受けた(コーホートを五年ごとに分けるのってどうなんだろうか).分析結果は日本の先行研究を比較して,そこまで少子化が与える影響や男女差については言えなかったという感じらしい.個人的には,韓国社会の特徴を考慮した分析枠組みを設定してほしかったが,紀要なのでしょうがないのか.データは面白そうだと思った.
松元論文はとても勉強になった.位置財の概念も分かったし(ちなみに,松元は教育は一財であるが故に希少財としているが,投票権は位置財だが希少財ではないので,両者は独立だろう),平等主義と優先主義の違いもよくわかった(結果の不平等を伴う機会の不平等を是正するのが優先主義で,機会の不平等ならなんでも是正するのが平等主義という考えもできそう).ただ,松元の主張は教育の自由化による公立学校間格差の拡大への反対であり,私立校と公立校との格差はイギリス社会ほど深くないという理由からこれを退けているのはやや疑問に思った.個人的には,日本の私立校には,公立校の機能を補完するような残余的なものと,中高私立一貫校のような公立校とは比較できないアドバンテージを持ったものの二種類があると思う.男子中高一貫校(azb)出身の松元からすると,この主張はややラディカルだろうか。
西出論文は色々問題があるし,これで雑誌に載るのかっていう印象も持ったが,データは非常に面白い.それに,社会学の教科書を読むと社会移動には階層と地域の二つがあると書いてあるのに,どうして前者しか社会移動としか言わないのだろうとは前々から疑問に思っていたこともあって,この論文は面白かった.これからは地域移動も考えていった方が良いのだろう,限界集落とかが仮に社会学的なトピックだとすると.長子の役割期待の内面化は解釈が難しそうだと思った.こういう調査ではむしろ,親に長子に対する特別な期待があるかどうかを聞いてほしい.
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