April 29, 2016

諸々更新。

8ヶ月ぶりにCV、Academia.edu、Slideshareなどを更新しました。締め切りが多くて忙しいです。

April 26, 2016

職業的序列(Occupational Standing)について

ある職業が別の職業に比べて高い地位にある、であったり尊敬されるべきだと我々が考えているとき、職業には序列があるといえる。いくつかの論争を通じて社会学ではこの職業的な序列(Occupational Standing)の理論的な立場や尺度化に発展が見られている。ひとまず、文献のメモをしながら概観。


1. 職業威信(Occupational Prestige)の研究群
職業威信にも評価される側(職業)の要因を重視する立場と、評価する側(評定者)の要因を重視する立場があり、Treimanなどは職業に必要とされている技能を重視するが、Goldhtorpe and Hopeなどは評価者が職業に関して持つ知識の側面に焦点を当てる(直井 1979)。アメリカの職業威信スコアの算出にはNORC(National Opinion Research Center)によるGSS調査が用いられ、Nakao and Treas(1994)によって1989年GSS調査院基づいた職業威信スコアが求められている。

Treiman Constantに至る研究
Hodge, Robert W., Paul Siegel, and Peter H. Rossi. 1964. "Occupational Prestige in the United States, 1925-63." American Journal of Sociology 70:286-302.
Siegel, Paul M. 1971. Prestige in the American Occupational Structure. Doctoral dissertation. University of Chicago, Department of Sociology.
Treiman, D. J. (1977). Occupational prestige in comparative perspective. Academic Pr.
Hodge, R. W. (1981). The measurement of occupational status. Social Science Research, 10(4), 396-415.
Nakao, K., & Treas, J. (1994). Updating Occupational Prestige and Socioeconomic Scores: How the New Measures Measure up. Sociological Methodology, 24, 1–72.

イギリスにおける職業威信研究
Goldthorpe, J. H., & Hope, K. (1972). Occupational grading and occupational prestige. Social Science Information/sur les sciences sociales.
Goldthorpe, J. H., & Hope, K. (1974). The social grading of occupations: A new approach and scale (pp. 134-143). Oxford: Clarendon Press.

2. 社会経済的尺度(SEI, Socio Economic Index)の研究群
Duncan以降のSEIは(1)職業威信の評価で「高い(excellent)」「やや高い(good)」と評した人の比率を職業ごとに算出し、これを従属変数とした上で(2)当該職業に従事している人のうち所得が3500ドル以上の人の比率と高校卒業以上の学歴を持つ筆の比率を独立変数として回帰分析を行い、(3)推定式から求まったスコアを全ての死職業に与えるという方法をとっており、いわゆる職業評価の客観的方法と主観的方法の中間を取っていることから、Grusky and Rompaey (2003)によってPrestige-Based Socioecnomic Scalesと呼ばれている。EdwardsやNam and Powersはむしろ威信尺度を用いずに、職業従事者の所得と教育程度で職業の社会経済的地位を測定しようとする。日本では、国勢調査レベルで職業ごとの所得が分からないため、このアプローチは少ないとされる(近藤 2006)。

また、アメリカ(とオーストラリア)においては、地位達成モデルに対しては職業威信スコアよりもダンカンのSEIスコアの方が説明力が高いことが指摘されている(Featherman and Hauser 1976)。職業威信の質問があればSEIは求まるので、Nakao and Treas (1994)では1989年GSSで用いられた職業威信の質問と1980年代国勢調査を使用してSEIもアップデートしている。

Edwards, Alba M., 1943. Comparative Occupation Statistics for the United States: 1870-1940. Washington, D.C.: Government Printing Office.
Nam, Charles B., Mary G. Powers, and Paul C. Glick. 1964. "Socioeconomic Characteristics of the Population: 1960." Current Population Report Series. Washington, D.C.: Government Printing Office.
Duncan, Otis Dudley. 1961. “A Socioeconomic Index for All Occupations.” In Occupations and Social Status, edited by Albert J. Reiss, Jr., 109–38. New York: Free Press.
Blau, Peter M., and Otis Dudley Duncan. 1967. The American Occupational Structure. New York: Wiley.
Featherman, David L., F. Lancaster Jones, and Robert M. Hauser. 1975. “Assumptions of Social Mobility Research in the U.S.: The Case of Occupational Status.” Social Science Research 4:329–60.
Featherman, David L., and Robert M. Hauser. 1976. “Prestige or Socioeconomic Scales in the Study of Occupational Achievement?” Sociological Methods and Research 4:403–22.
Sorensen, Aage B. 1979. "A Model and a Metric for the Analysis of the Intragenerational Status Attainment Process." American Journal of Sociology 85:361-84.
Featherman, David L., and Gillian Stevens. 1982. "A Revised Socioeconomic Index of Occupational Status: Application in Analysis of Sex Differences in Attainment." Pp. 83-127 in Measures of Socioeconomic Status, edited by Mary G. Powers, Boulder, Colo.: Westview.
Nakao, K., & Treas, J. (1992). The 1989 socioeconomic index of occupations: Construction from the 1989 occupational prestige scores.
Nakao, K., & Treas, J. (1994). Updating Occupational Prestige and Socioeconomic Scores: How the New Measures Measure up. Sociological Methodology, 24, 1–72.
Ganzeboom, H., & Treiman, D. J. (1996). Internationally comparable measures of occupational status for the 1988 International Standard Classification of Occupations. Social Science Research, 25(3), 201–239.

3. 社会ネットワーク尺度の研究群
以上の二つの地位尺度の測定方法は、職業のスコアが何らかの方法ですでに算出された上でデータに値を当てはめるという外挿的(extrapolative)なアプローチだが(Rytinaなどはこのアプロートをアドホックとして批判する)、よりデータ内在的にスコアを求める方法がネットワークアプローチである。
社会的距離の測定において、実際に紐帯を持つ他社の職業に注目したLaumannらの研究に依拠しながら、Prandyらケンブリッジ大学のグループは個人の友人や配偶者の職業と自身の職業の対応関係から尺度化を試みた。アメリカではこれとは別の流れでRytinaが親子の職業移動の対応関係から地位の尺度化を試みており、Grusky and Rompaey (2003)ではケンブリッジスケールと同じカテゴリに分類されている。

Laumann, E. O., and L. Guttman, 1966, “The relative associational contiguity of occupations in an urban setting,” American Sociological Review 31.
Stewart, A., K. Prandy, and R. M. Blackburn. 1980. Social Stratification and Occupations. New York: Holmes & Meier.

CAMSIS(ケンブリッジ・スケール)
Prandy, K. (1999). The social interaction approach to the measurement and analysis of social stratification. International Journal of Sociology and Social Policy, 19(9/10/11), 204-236.
Bottero, W., & Prandy, K. (2003). Social interaction distance and stratification. The British journal of sociology, 54(2), 177-197.
Prandy, K., & Lambert, P. (2003). Marriage, social distance and the social space: an alternative derivation and validation of the Cambridge Scale. Sociology, 37(3), 397-411.

SSIC
Rytina, Steven. 1992. "Scaling Intergenerational Continuity: Is Occupational Inheritance Ascriptive After All?" American Journal of Sociology 97(6):1658-88.
Rytina, Steven. 2000. "Is Occupational Mobility Declining in the U.S.?" Social Forces 78(3):1127-76.

以下の二論文はAJSにおけるRytina論文への批判(レビューとしても有用)
Hauser, Robert M. and John Allen Logan. 1992. "How Not to Measure Intergenerational Occupational Persistence." American Journal of Sociology 97(6):1689-1711.
Grusky, David B. and Stephen E. Van Rompaey. 1992. "The Vertical Scaling of Occupations: Some Cautionary Comments and Reflections." American Journal of Sociology 97(6):1712-1728.

日本語論文
直井優・鈴木達三,1977,「職業の社会的評価の分析――職業威信スコアの検討」『現代社会学』4(2): 115-56.
直井優(1979)「職業的地位尺度の構成」。富永健一編『日本の階層構造』東京大学出版会:434-472。
都築一治(編) (1998)『職業評価の構造と職業威信スコア 1995年SSM調査研究会SSM調査シリーズ5 科学研究費補助件特別推進研究(1)「現代日本の社会階層に関する全国調査」成果報告書』1-15
原純輔. (1999). 労働市場の変化と職業威信スコア. 日本労働研究雑誌, 41(10), 26-35.
近藤博之. (2006)「移動表による職業的地位尺度の構成一一オーディネーション技法の応用一一」『理論と方法』 21-2:313-32.
脇田彩, (2012), 「職業威信スコアのジェンダー中立性: 男女別職業評価調査に基づく一考察」『ソシオロジ』57 (2)社会学研究会: 3-18.

April 21, 2016

4月21日

前日筋トレで疲れて11時前に寝たので6時過ぎに起きてしまい、まあよく寝ました。
もともとは13時だったランチの予定が急遽12時になって、10時40分に家を出て、自転車で10分で吉祥寺駅について電車に乗り、阿佐ヶ谷で降りてロシア雑貨でロシプーノート買って、新宿で定期の更新して、四谷で乗り換えて飯田橋で降りて神楽坂の蕎麦屋に12時ぴったりにつきました。自分をちょっと褒めたいですね。最近家と研究室の往復(こくわがた経由)の毎日が10日くらい続いたので、今日阿佐ヶ谷の北口を歩いたり、神楽坂でランチしたり、それだけでもとても良い気分転換になっりました。阿佐ヶ谷って意外と(?)お寺が多いいんですね。お寺経営の幼稚園とかあって、小さな子供がいる世帯には住みやすそう。

その後大学に戻って、教務課に行って、ロシプーあげて、事務作業もろもろして411で書類書きでした。雨が降っていました。夜は食堂でシンガポールの留学生と話しながらカレー食べてたら、向かいのテーブルに座っていた一年生が突然こっちに向かって「我愛你」。あっちのテーブルでは中国人留学生に中国語を教えてもらおうとみんなで「我愛你」と笑いながら繰り返していた。なんというか、たった三文字でもあんなに笑えるのって若いなあと思いました、そういう日常の一コマ。

その後はダラダラしながらGleeみたりお風呂はいったり、久しぶりに日記を書く気にもなりました。徐々に前向きになっていきます。時間的には余裕があるのに、ここまで精神的に余裕がないのも珍しいんじゃないかなと、人生の中で、そう思うこの頃です。

April 19, 2016

Mary Brinton 1993 Women and the Economic Miracle: Gender and Work in Postwar Japan.

戦後日本経済における女性の役割について人的資本の観点から包括的に検討した本。

戦後、女性の労働市場への参加は日本でも増加している。しかし、先進国と比べて男女格差は様々な点で大きい。この一見すると矛盾に見える自体を解釈すると、強固な性分業が成立したことは日本の戦後経済発展の副産物(epiphenomenon)ではないのだろうか。女性の高い労働市場への参加と男女格差の維持という矛盾を生み出した制度的な背景を探るのが本書の目的となっている。Brintonの主張は、性分業システムは後発産業化の副産物ではなく、戦後日本の社会経済的発展と強く結びついたものであるという。ここでいう制度とは、日本的な文脈では労働市場における「終身雇用制」であったり、教育制度や家族との関連で言及される。

本書は、制度的な文脈が個人の(男女の)経済的な役割に制約を与えると考え、個人は制度的な制約の中で合理的に行為するアクターとして想定されている(p.3)。後発産業化諸国もアメリカや西欧諸国の様な制度的な発展の道をたどるという近代化論的な発想を批判しながら、Brintonは日本を含む東アジアの国々の資本主義が西欧諸国のそれとは異なる独自の発展を遂げているという研究を引用する(p.11)。こうした研究を背景に、本書では日本経済における女性の二重の役割に着目している。一つが年齢に強く規定される形での労働参加、もう一つが家庭において夫や息子の人的資本形成に寄与する役割である。筆者は、人的資本形成過程における女性の役割という観点から日本社会の発展を紐解く(p.12-13)。

第2章で女性の社会経済的地位や労働市場への進出といった観点から日米比較を行った後、本書のコアである人的資本形成システムについて第3章で解説している。ここでシステムが何を指すのかは明確に定義されていないが、本書を参考にすると男女間で異なる経済的な役割を再生産する「労働市場の構造、教育の構造、そして家族の構造」の三つである(p.72)。こうした複数の領域にわたる構造・制度の組み合わせからなる体型をシステムと考えているのだろう。

本書の関心である資本主義における男女格差、言い換えればジェンダー階層の理論は複数存在する。特に強い影響力を持つのがマルクス主義フェミニズムであり、この理論によれば家父長制や資本主義といった大きな構造がジェンダー階層を生み出すと考える。しかし、筆者はこの理論では、なぜジェンダー階層が異なる近代的な社会の間で異なるかについて説明できるないと批判する。社会学の地位達成理論や経済学の人的資本理論は個人的な要因に着目するものであり、これらもなぜ男女格差が同じ産業化諸国で差があるのかについて明らかにできない。筆者が重視するのは、個人の行為とこれを制約する社会構造の文脈を結びつけるミクローマクロ的な視点である。

例えば、日米間では教育制度が個人の行為に与える影響が異なる。日本では比較的早期に教育トラックが決定する傾向にありアメリカの様に再度異なるトラックに入ることは難しい。したがって、日本においては子供が幼少期の頃のトラッキングが重要であり、そのため親が教育決定に関与する余地が大きいと言える。また、日本の労働市場は企業間移動が少なく、経営者は潜在的に価値のある(=勤続が見込まれる)労働者に優先的にOJTを施す。こうした背景から、平均的に勤続年数が短い女性の場合、個人の能力よりも女性としての平均的な見込みから人事評価の対象にある(統計的差別)。最後に、家族内の交換関係では、日本の家族では女性よりも男性に対して心理的な投資が割かれる。この結果、まず男性よりも女性の方が高等教育を受ける機会が少ない。次に、女性は子供、特に息子の人的資本形成に寄与する役割が推奨される。このように、Brintonは本書で、人的資本形成に焦点を当てながらも、その社会的過程に潜む制度の機能に注目している。このような理論的な背景を整理した後、筆者は日本社会において、いかにジェンダー化された雇用システムや教育制度が成立したかを後の章で説明している。

改めて本書を読むと、Brintonは個人の合理的行為を認めつつ(人的資本形成への投資)、個人の行為を制約する制度的な文脈の存在を重視している。後者は比較を行う社会学者ならではの視点と言えるだろう。その上で、日本社会における人的資本形成システムと結果としての男女格差を生み出す制度を三つ提示している、すなわち労働市場、教育、そして家族であり、この三つが層になって日本の経済発展を支えつつ、男女格差を生み出したシステムであったと主張している。

アメリカの収入の不平等とその結末

Burtless, G., & Jencks, C. (2003). American inequality and its consequences. Henry J. Aaron, James M. Lindsay, and Pietro Nivola, eds., Agenda for the Nation, Washington: The Brookings Institution. 61-108.

アメリカの不平等は近年拡大しており、アメリカ国民の2/3はアメリカにおける収入の不平等は大きすぎると回答しているが、収入の不平等を削減する政策に関しては支持が集まらない。1940年以前には租税データを用いた分析になるが、アメリカの不平等は1950年代まで高いまま推移していたが、20世紀後半になって急速に減少した。しかし、70年代から徐々に上昇し、80年代に入って急に上昇した。不平等の推移はすべての所得階層で均一ではなく、どちらかというと上層と注意層の間の格差が拡大している。収入上位層の身長がアメリカの不平等の拡大を大きく説明しているが、分析結果はデータによっても異なる。例えば国勢調査では回答者が収入から資産文を引いて回答している可能性があり、素直に解釈することはできない。その国勢調査データを用いて1973年前後の二つの時期に分けて実質収入の上昇率を観察すると、73年以降は所得上位層での伸びが大きいことがわかる。

ただし、これまでの分析では、アメリカの世帯人員が減少していることを看過してきた。単身高齢者と若年単身者の未婚化傾向がこれを説明している。また、国勢調査では1979年以前まで租税前の収入を用いていた。そのため、給与税や収入以外の資産を考慮することができていなかった。これらを考慮するために、1979年以降の改善されたデータを用い、等価所得で分布を確認すると、この分析でも不平等が拡大していることが示唆される。これ以外にも、医療保険などを考慮する指標化も可能である。

それでは、なぜアメリカの不平等は拡大したのか?パーセンタイルごとの収入の不平等を男女別に見てみると、男性では下層で実質賃金が減少し、他の層との格差が拡大している。一方、男性に比べ女性は賃金の伸びが大きい。したがって、女性では下層で維持、中位層でやや上昇、上位層でかなり上昇している。このように賃金の不平等は拡大傾向にあるが、これだけを不平等の拡大要因とするのは早急である。47年から69年のように賃金格差が拡大しても世帯収入の不平等が減少している時期があるからだ。しかし、70年代になると賃金格差の拡大に伴い家族の不平等も拡大しつつある。学歴間・職業スキル間で格差は拡大しているものの、より重要なのは同一学歴・職業間で格差が拡大している点である。仕事に特有のスキルが重視されるようになったと考える経済学者もいれば、労働組合の衰退など労働市場の変容を訴える者もいる。

賃金格差の拡大に対しては二つの説が唱えられている。技術変化とグローバリゼーションである。多くの経済学者は新しい生産技術の導入に伴い雇用者の労働への需要が変化したと考えている。高スキルを持った労働者がますます重宝されるようになってきている。
経済学者ではない巷の議論で人気なのがグローバリゼーションの効果である。例えば、登場国との自由貿易の推進により、中産階級にた製造業者の地位が危うくなっているとする。国際貿易の研究に触れたことのある経済学者であればこの説には懐疑的であることが多い。

賃金格差の拡大とともに女性の労働市場への進出が生じている。男性の労働参加率は減少しており、男性における実質賃金は減少しているが、女性の賃金の上昇か労働時間の延長を通じて世帯の収入(生活水準)はキープされている。賃金の上昇が乏しい男性の妻が働くのはわかるが、高い所得を持つ男性の妻の労働参加も増加していることが興味深い。家族構成の変化も家族間の分配に影響を与えている。特に、ひとり親の増加は不平等に影響を与えているとされる。単にひとり親であることは二人親よりも収入が低いだけではなく、稼得労働者が職を失った時などのリスクに対処できるかも異なる。女性の労働市場への進出によってひとり親と二人親の間の格差は縮まると考えられるが、ひとり親の増加自体は不平等に寄与するとされる。政府の税制改革や福祉政策も不平等に影響する。全体として、全体として税金が引き下げられたあと、子供のいる低所得世帯向けの分配政策が実施され下層の世帯の実質的な税負担は減少した。しかし、その一方でミーンズテストや福祉政策の削減が行われ、結果としては相殺されている。また、移民が不平等に影響すると主張する研究も存在する。

不平等が経済成長並びに機会の平等に与える影響についてはどうだろうか?
経済成長の個展と知られるのはクズネッツカーブだが、クズネッツの理論では現代の不平等と経済成長を説明できない、すなわちOECD諸国のうちアメリカはルクセンブルクを除いて最も豊かな国であるが、不平等は最も大きいからだ。むしろ不平等とGDPは生の関係があり、クズネッツの説とは逆である(機能主義的な説明)。しかし、アメリカを抜くと平等と経済成長が比例する(?)。また、クズネッツ曲線は近年の不平等のトレンドも説明できない。経済学者の中には、雇用保険は格差を縮めるが労働者の勤労意欲を失わせるため不平等には寄与しないという主張も見られる。実際、社会保障への支出が大きな国では労働参加率は低い。第3の説は不平等が市民の人的、金銭的、身体的なションを減少、紛争を増加させることで政治制度へ悪影響を与え、結果として経済成長に負の影響があるとするものだ。median voterは格差が大きな社会では成長政策よりも再分配政策を支持する可能性が高い。機会の平等に関しては一見すると、親世代の不平等が拡大すると社会移動が難しくなると考えられるが実際には議論のあるところである。Mayerの分析によれば、高収入の家庭の子供はそうでない子どもに比べて成功している傾向にあるが、本当に収入が直接的な因果効果を持っているかは留保する必要があるとする。また、Mayerによれば収入よりも教育投資にかける学事態の重要性を主張する。国際比較の結果、アメリカの社会移動はイギリスや他の先進諸国と同じ程度には高いことが明らかになっており、これはアメリカ人のアメリカをland of opportunityと考える傾向とは矛盾している。収入の不平等化という「変化」が機械に影響を与えたかを見るのはまだ時間がかかるが、教育幾何についてはすでに検討できる。収入を4パーセンタイルに分けたときに、最も収入の高い層の子供の大学進学率は不平等の拡大期にあって上昇しているが、その一方で下層の子供の進学率は上昇していないことがわかる。この背景には、格差の拡大とともに高等教育の価値が上昇し、その結果として大学の授業料が上昇しているとする仮説もあれば、アスピレーションの階層差に言及するものもある。その他、寿命や政治的な影響の議論、最後に正義論との関連も言及される。

April 18, 2016

アメリカにおける2010年代の階層論主要文献

うまくまとまっているレビューがあればいいのですが、ひとまず目に付いたものをメモ。

 アメリカの格差拡大の要因として、引き続き労働市場における高等教育の収益増加、労働市場の変容、そして家族形成の変化という三つが議論されている。これ以外に、アメリカに特徴的な議論として近隣効果と不平等の関係があげられる。

(1)高等教育のリターン
高等教育のリターンの因果効果
Brand, J. E., & Xie, Y. (2010). Who benefits most from college? Evidence for negative selection in heterogeneous economic returns to higher education. American Sociological Review, 75(2), 273-302. (GSC: 279)
OEDモデルの再検討
Torche, F. (2011). Is a College Degree Still the Great Equalizer? Intergenerational Mobility across Levels of Schooling in the United States. American Journal of Sociology, 117(3), 763-807. (GSC: 103)

教育の社会経済的リターンについてのレビューとして、Hout, M. (2012). Social and economic returns to college education in the United States. Annual Review of Sociology, 38, 379-400.

(2)労働市場の変容と賃金格差の拡大
Western, B., & Rosenfeld, J. (2011). Unions, norms, and the rise in US wage inequality. American Sociological Review, 76(4), 513-537.(GSC: 269)
Lin, K. H., & Tomaskovic-Devey, D. (2013). Financialization and US Income Inequality, 1970–20081. American Journal of Sociology, 118(5), 1284-1329. (GSC: 113)
Kristal, T. (2013). The capitalist machine: Computerization, workers’ power, and the decline in labor’s share within US industries. American Sociological Review, 78(3), 361-389. (GSC: 63)

(3)階層化の過程における男女格差
DiPrete, thomas A., and claudia Buchmann. 2013. The rise of women. New York, NY: Russell Sage Foundation. (GSC: 140)
Legewie, J., & DiPrete, T. A. (2012). School context and the gender gap in educational achievement. American Sociological Review, 77(3), 463-485. (GSC: 124)
Cha, Y., & Weeden, K. A. (2014). Overwork and the slow convergence in the gender gap in wages. American Sociological Review. (GSC: 41)

(4)家族形成の変化と不平等の生成
 収入格差に関するレビュー(McCall and Percheski 2010)にて、家族形成の変化が不平等に影響を与える要因が(1)女性の労働市場への進出(2)家族構造の変化(3)学歴同類婚の増加の三つにまとめられている。

母親の重要性
Beller, E. (2009). Bringing intergenerational social mobility research into the twenty-first century: Why mothers matter. American Sociological Review, 74(4), 507-528. (GSC: 129)
家族構造の変化
Western, B., Bloome, D., & Percheski, C. (2008). Inequality among American families with children, 1975 to 2005. American Sociological Review, 73(6), 903-920.(GSC: 104)
McLanahan, S., and C. Percheski. 2008. “Family Structure and the Reproduction of Inequalities.” Annual Review of Sociology 34(1):257–76. (GSC: 375)
学歴同類婚の増加
Schwartz, C. R. (2010). Earnings inequality and the changing association between spouses’ earnings. AJS; American journal of sociology, 115(5), 1524–1557.  (GSC: 124)
Breen, Richard, and Leire Salazar. 2011. “Educational Assortative Mating and Earnings Inequality in the United States.” American Journal of Sociology 117(3): 808–843.(GSC: 37)
Schwartz, C. R. (2013). Trends and variation in assortative mating: Causes and consequences. Annual Review of Sociology, 39, 451-470.(GSC: 66)

(5)社会移動・不平等と文脈(近隣)効果
Sharkey, P. (2008). The Intergenerational Transmission of Context. American Journal of Sociology, 113(4), 931-969. (GSC: 172)
Chetty, R., Hendren, N., Kline, P., & Saez, E. (2014). Where is the land of opportunity? The geography of intergenerational mobility in the United States (No. w19843). National Bureau of Economic Research.  (GSC: 294)
Reardon, S. F., & Bischoff, K. (2011). Income inequality and income segregation1. American Journal of Sociology, 116(4), 1092-1153. (GSC: 227)
Duncan, G. J., & Murnane, R. J. (Eds.). (2011). Whither Opportunity?: Rising Inequality, Schools, and Children's Life Chances: Rising Inequality, Schools, and Children's Life Chances. Russell Sage Foundation.  (GSC: 228)

近隣効果のレビューとして Sharkey, P., & Faber, J. W. (2014). Where, when, why, and for whom do residential contexts matter? Moving away from the dichotomous understanding of neighborhood effects. Annual Review of Sociology, 40, 559-579.

(6)社会移動の長期的趨勢
 不平等の長期的な趨勢をたどることのできるデータが整備されたことを背景に、二世代間の社会移動を三世代に拡張したり、19世紀からの社会移動の趨勢を分析する研究が登場してきている。
Mare, R. D. (2011). A multigenerational view of inequality. Demography, 48(1), 1-23. (GSC: 108)
Long, J., & Ferrie, J. (2013). Intergenerational occupational mobility in Great Britain and the United States since 1850. The American Economic Review, 103(4), 1109-1137. (GSC: 107)
その他、Research in Social Stratification and Mobility Volume 35(2014)の特集 "Inequality Across Multiple Generations"など。

(7)不平等の蓄積過程の解明
 パネルデータの蓄積を背景に、不平等の蓄積過程(DiPrete and Eirich 2006)の研究が2000年代以降急速に発展している(印象)。パネルデータに関しては、Panel Study of Income Dynamics, National Longitudinal Surveys (以上アメリカ)、German Socio-Economic Panel (ドイツ) 、British Household Panel (イギリス)、Canadian Household Panel Survey (カナダ)、Swedish Level-of-living Surveys (スウェーデン)、China Family Panel Studies(中国)、Korea Labor and Income Panel Study(韓国)、Hong Kong Panel Study of Social Dynamics(香港)、Japanese Life Course Panel Surveys (日本)など、各国で整備され始めているため、今後はパネルデータを用いて不平等の蓄積過程に関する国際比較も可能になってくるかもしれない(e.g. DiPrete and McManus 2000)。

Cheng, S. (2014). A Life Course Trajectory Framework for Understanding the Intracohort Pattern of Wage Inequality1. American Journal of Sociology, 120(3), 633-700. (GSC: 4)
Cheng, S. (2015). The Accumulation of (Dis) advantage The Intersection of Gender and Race in the Long-Term Wage Effect of Marriage. American Sociological Review.

ライフコース研究の発展のレビューに関しては、Mayer, K. U. (2009). New directions in life course research. Annual review of sociology, 413-433.

コメント:
 いわゆる階層研究の第四世代(Treiman and Ganzeboom)の問題関心は階層化の過程における制度編成の効果に着目するものであり、これは「本質的に比較の問い」(ibid: 126)とされ、アメリカの不平等に注目する研究では、アメリカの制度編成を前提として議論が成り立ってしまう危険性がある。そのため、比較研究についてはISA RC28での研究活動を中心に、別途まとめる必要がある。

その他参照文献
DiPrete, Thomas A., and Gregory M. Eirich. "Cumulative advantage as a mechanism for inequality: A review of theoretical and empirical developments." Annual review of sociology (2006): 271-297. (GSC: 645)
DiPrete, T. A., & McManus, P. A. (2000). Family change, employment transitions, and the welfare state: Household income dynamics in the United States and Germany. American Sociological Review, 343-370. (GSC: 181)
Treiman, D. J., & Ganzeboom, H. B. (2000). The fourth generation of comparative stratification research. The international handbook of sociology, 122-150.(GSC: 138)
McCall, L., and C. Percheski. 2010. “Income Inequality: New Trends and Research Directions.” Annual Review of Sociology, 36, 329–347(GSC: 148)


April 14, 2016

社会階層論メモ

授業で扱う文献リストの備忘録としてつけておきます。最後のGSCはGoogle Scholar Citationの略です(2016年4月14日時点)。

第一回
Neckerman, K. M., & Torche, F. (2007). Inequality: Causes and consequences.Annual Review of Sociology.33, 335-357. (GSC: 234)
Hout, M., & DiPrete, T. A. (2006). What we have learned: RC28's contributions to knowledge about social stratification. Research in Social Stratification and Mobility24(1), 1-20. (GSC: 258)

第二回
Hauser, R. M., & Warren, J. R. (1997). Socioeconomic indexes for occupations: A review, update, and critique. Sociological methodology27(1), 177-298. (GSC: 756)
Prandy, K., & Jones, F. L. (2001). An international comparative analysis of marriage patterns and social stratification. International Journal of Sociology and Social Policy21(4/5/6), 165-183. (GSC: 30)

第三回
Nam, C. B., & Boyd, M. (2004). Occupational status in 2000; over a century of census-based measurement. Population Research and Policy Review23(4), 327-358. (GSC: 114)
Ganzeboom, H. B., De Graaf, P. M., & Treiman, D. J. (1992). A standard international socio-economic index of occupational status. Social science research21(1), 1-56. (GSC: 2017)
Chan, Tak Wing. (2010). "The Social Status Scale: its Construction and Properties." Pp. 28-56 in Chan, T. W. (Ed.). Social status and cultural consumption. Cambridge University Press. (GSC: 95)
Chan, Tak Wing, and John H. Goldthorpe. 2004. "Is there a status order in contemporary British society? Evidence from the occupational structure of friendship." European Sociological Review 20(5):383-401. (GSC: 150)

第四回
Sakamoto, Arthur and Daniel A. Powers. (1995) Education and the Dual Labor Market for Japanese Men “American Sociological Review.” 60(2):222-246. (GSC: 93)
Jackson, M., Goldthorpe, J. H., & Mills, C. (2005). Education, employers and class mobility. Research in Social Stratification and Mobility, 23, 3-33.(GSC: 158)

Sakamoto and Powers におけるPartial observability プロビットモデルの応用例として、小川さんの論文。

小川和孝, 2014, 「高卒者の初職地位達成における雇用主の選抜メカニズムに関する研究――学校経由の就職の効果についての再検討」『教育社会学研究』94: 195-215.

第五回
Breen, R. (1997). Risk, Recommodification and Stratification. Sociology, 31(3), 473-489. (GSC 301)
Brand, J. E., & Xie, Y. (2010). Who benefits most from college? Evidence for negative selection in heterogeneous economic returns to higher education. American Sociological Review, 75(2), 273-302. (GSC 284)

第六回
Wodtke, G. T., Elwert, F., & Harding, D. J. (2016). Neighborhood Effect Heterogeneity by Family Income and Developmental Period. American Journal of Sociology, 121(4), 1168-1222.
Choi, Y., & Park, H. (2016). Shadow Education and Educational Inequality in South Korea: Examining Effect Heterogeneity of Shadow Education on Middle School Seniors’ Achievement Test Scores. Research in Social Stratification and Mobility. ISO 690

第X回
Nee, Victor. 1998. "Sources of the New Institutionalism." Pp. 1-16 in The new institutionalism in sociology edited by Mary C. Brinton and Victor Nee.
Mayer, Susan E. (2002) The Influence of Parental Income on Children’s Outcomes. Knowledge Management Group, Ministry of Social Development. (GSC: 147)


April 4, 2016

今期の主な予定

6月24-27日 AAS in Asia
7月18-8月12日 ICPSR
8月19-22にASAがあるらしい。
8月27-28日 数理社会学会@金沢
9月10-11日 家族社会学会@早稲田
9月17-18日 教育社会学会@名古屋 (未定)
10月8-9日 日本社会学会@九州