March 21, 2022

DEI・就活・ビジットデイ

 すっかりブログを書かなくなってしまった。本を書くと決めてから、ブログを書くのに使っていた夜の時間を全て執筆に回してしまったからだった。

進捗で言うと、昨日、第二章を編集者の人に送ったところだ。しかし、正直に言うと、あまりよく書けていない。第一章の方が、個人的にはよく書けていると思う。第二章は、少しバランスが悪い気がしている。

なぜそうなのか、自分でもよくわからない。恐らく、と思うのは、二章の方が知らないことがまだ多いからだと思う。本を書いていると、構成上、触れざるを得ないが、自分はそこまで詳しくない、そんな箇所が浮き彫りになってくる。

第二章は、一章よりも、そういうところが多かったので、これが関係しているのかもしれない。一つの箇所に自信がなくなると、全体のバランスが崩れていく。もちろん、全てに等しく詳しくなることはできないので、校正を経てバランスを修正していかなくてはいけない。

そういうわけで、今日は久しぶりに本を書かなくてもいいかなと思える1日だった。だから、というのが半分、もう半分は、今日あった出来事が色々と興味深く、今思っていることをメモしておいた方がいいと考えたので、今日は久しぶりにブログを書くことにする。内容は三つ、DEI、就活事情、そしてビジットデイである。

【DEI training】

まず正午に、学部に所属する院生アソシエーションの主催で、DEI training workshopがあった。DEIというのはDiversity, equity, and inclusionの略で、ティーチングの場面では、異なるバックグラウンドを持つ人がハンデを背負うことなく、最大限学べる、居心地の良い環境づくりを目指す考え方である。日本でも似たような試みが最近広がっていると思う。アメリカの方が、歴史が長い分だけ、構造化されているかもしれない。また、学生の学びを最大限引き伸ばすというゴールが明確に設定されている分、一つ一つのステップがなぜ必要なのか正当化しやすい。そういう効率の良さも持っている。

色々と学ぶことはあった。まず透明性を高めること。課題にrubricを作ることはよくやられる手法だが、こうすることで、採点者の持つ暗黙のバイアスを除去することができる。オフィスアワーも、典型的にはシラバスに時間を書くだけのことが多いが、オフィスアワーで何を話せるのか、具体的に書くことで、誤解を解くことができる。オフィスアワーでは、別に授業に関係することだけ聞く必要はない、日頃の生活や、悩みなどを話してもらえれば、教える側も生徒のことがよくわかるし、授業についていけなくなっている時に、その背景を推し量ることもできる。これ以外にも、ミッドタームにフィードバックをすること、課題について今までの学生の成果を示しながら、こちらの要求水準を明確に示すことなどが紹介された。

次に、学生間のインタラクションを構造化すること。学生が授業についていけるかの重要なファクターは、同じ授業をとっている人との仲であるという。何も介入しないと、人は似たような人とつるむので、マイノリティの学生が孤立してしまう。そういうことを防ぐために、意図的に、しかし特定の属性をターゲットにせずに、多様性のあるグループを作ること。これが必要だという。

これ以外にも、DEIを確保するための、具体的なチップスを多く享受された。これらは多様性への配慮という側面もあるが、繰り返すようにDEIによって学生一人一人が最大限学べることに主眼があるので、非常に実用的でもある。とてもアメリカらしい。

【就活事情】

今日は人口学の授業が、一回まるまる就活の話になった。察するに、先生が授業準備をするのに疲れたのだと思う。今回は先生が経験してきたジョブマーケット事情を共有する形だったので、先生としては準備はかなり楽だったらしい。しかし皮肉なことに、学生にとっては今日の回が一番役に立つ授業になった。

就活上、役に立つことは、大抵は教科書に載っていない。Hidden curriculumというヤツだ。教科書に書けないことは、ここにも書けない。今日の話は、そういうものばかりだった。それは恐らく、就活はケースバイケースのことが多く、個人の事情を話すことはプライバシーに触れるからだと思う。だから見知った仲でしか、話がしにくいのだろう。

書ける範囲での感想に絞ると、以下のようになる。

今日の話は、基本的にアメリカのR1大学、特にトップ30の大学に焦点を当てていた。アメリカの大学は、アカデミア就活においては日本以上に大学のハイラーキーが意識されている。民間や非研究大学、或いは海外の大学を視野に置かないのは、狭い世界の話になってしまうデリメットがあると同時に、目標を設定しやすくなるメリットもある。

一旦どのような大学で働きたいかを決めたら、そこからオファーをもらえるよう、自分のCVを最適化していくことが重要になる。仮に研究大学をターゲットにすると、以下のような事態が生じる。

まず、ティーチングが「全く」重要ではなくなる。これはよく聞く話であるが、今日受けたDEIトレーニングは、ティーチングをどのように改善していくか、という話だったので、その落差にアカデミアの冷淡さというか、二枚舌を見た。

次に、トップジャーナルに論文を載せることが最優先になる。社会学・人口学では2-3本の査読つき論文があることが、AP獲得に重要であるとされる。しかし、そのうち1本はトップジャーナルでソロオーサー、ないし第一著者であることが望まれる。トップジャーナルに論文がないと、トップ30を初職に見据えるのは、不可能ではないが難しい。社会学のトップジャーナルはASR, AJS, SF、人口学だとDemographyとPDRになる。ある意味で、わかりやすい世界だ。

循環論法みたいになってしまうが、トップジャーナルに論文を載せることを優先すると、非トップ大学での就活では、逆に不利になる。なぜかというと、もし当該の大学に就職しても、すぐ他の大学に移ってしまうと思われるからである。トップジャーナルを出すことに自分の研究を最適化しすぎると、相手にされなくなる大学も増える。しかし、そうしないとトップ大学への就職も難しくなる。嫌な世界だ。

アドバイザーではないコミティメンバーとの付き合い方、オファーをもらった後のネゴの仕方、その他考慮すべき事項、色々教えてもらった。しかし、何よりも重要なのは、自分が働きたい大学(大学でなくてもいいのだが、アカデミアに話を絞る)をまず決めて、そこに就職できるように、或いはもっと具体的にそこでテニュアを取れるように、7-10年後を見据えて行動することなのだなと思った。

自分は今日の話を聞くまで、自分の今の業績を踏まえるとポスドクが妥当かなと考えていた。しかし、その質問をすると、先生が「もし君の立場だったら」と言った後に、トップ30の大学に出しつつ、時期的にはその後に来るポスドクをバックアップとしてアプライするのがいいと言ってくれた。

どの程度自分の具体的な状況を想像して話してくれたのかはわからない。しかし、この一言は自分にはとてもencouragingだった。現実的にはポスドクだと思うが、APポジションに出しておくことは後々のためにもなるので、今から2年後を見据えて頑張ろうと思った。

【ビジットデイ】

今週は、プリンストンの博士課程に受かった人がキャンパスに来るビジットデイの週だ。これも非常にアメリカらしいイベントである。コロナ禍で2回キャンセルがあったので、実に3年ぶりのビジットデイになる。今日は、所属する人口学研究所の博士課程の学生たちが来ていた。

今日は合格した学生とのディナーがあった。明日は、現役の学生の一人としてQ&Aに出る。木曜と金曜は、今度は社会学のプログラムに合格した学生たちが来て、同様にQ&Aで話す他、キャンパスツアーをオーガナイズしている。正直いうと、今週はこれでかなり忙しい。

それでも、自分がこのイベントに少しでも携わりたいと思うのは、自分のかなりしょっぱい移動の経験に基づいている。

ウィスコンシンからプリンストンに移るまで、自分には決断の時間が3日しかなかった。アプリケーションを出してから2週間後には、プリンストンにいた。正直、考える時間などなかった。考える時間があっても決断は変わらなかったと思うが、もっと時間があれば、もっと上手くプリンストンにランディングできたと思う。

自分にはどうしようもなかったが、今でもそういう後悔があるので、合格した学生には、自分の選択を迷いなきものにできるよう、少しでも役に立ちたいと思っている。