April 24, 2022

RC28 Spring Meeting 2022

 ロンドンのLSEで3日間にわたって行われたRC28の学会に参加してきました。対面での参加は、これが3度目(2018年のソウル、2019年のプリンストン)、昨年あったオンラインのものも含めると4度目になります。イギリス開催だったこともあり、今回はヨーロッパからの参加が多く、懐かしい再会も多数でした。いくつか学会に参加して思った感想をぽつぽつ書いておきます。

まず、コロナ前から起こっていたことではありますが、registry dataを使った分析が多かったです。社会学の階層研究はヨーロッパの研究者が比較的強い分野でもあり、もともと北欧の研究者の層は厚かったのですが、ビッグデータの波に乗って北欧の大学にいる研究者たちは基本registry dataを使って興味深い問いを検証していて、データのサイズ的には太刀打ちできないところがあります。今回で言うと、例えばデンマークの図書館の全履歴をとってきて、どのような本を借りたかを通じて文化資本を測定するといった研究がユニークでした。また、北欧以外でもオランダのtwin registry dataを使ったゲノムの分析や、イギリスに居住する外国籍の高所得者(non-doms)の税務データを使った富の分析など、いくつも面白い報告がありました。調査ベースでも、PSIDを使って親や祖父母だけではなく親族全てをclanと見做して、子ども世代の教育達成に与える影響を見てみるといった研究などがあり、この手の拡張路線と近しいところがあるかもしれません。

データの革命で言えば、20世紀前半のイングランド・ウェールズの国勢調査をリンクして社会移動を見るといった、歴史的アプローチを取る研究もちらほらありました。この手のビックデータ系の研究は社会階層研究でもかなり増えてきています。因果推論・機械学習などと合わせて、第五世代の社会階層研究は既存の研究パラダイムをデータサイエンスと一緒に拡張していくことになると予測する報告もありました。

こうしたデータやメソッドで押されると、翻ってRC28が大切にしてきたコンテクストを重視する比較の視点が、ややないがしろにされる懸念もあります。cutting edgeな研究の多さでいうと、やはりPAAの方が多かった気がしますが、RC28のよさは比較の視点にあると思うので、そこは忘れないで欲しいところです。

この点に関連して、日本からの報告が少なかったことは心配の種になっています。直前までコロナの事情が読み通せなかったことや、大学がまだ渡航を認めていない例も多いようですが、日本の大学から参加してきた方は2人、報告は1つだけでした。アメリカの大学にいる私のような研究者の報告を合わせても、4つに過ぎなかったです。対面での学会が再開するなかで、日本の研究者が国際学会で報告しにくくなるような状況にならないことを願っています。

私が参加したセッションは、社会移動とメソッド(x2)、遺伝、富、子育て、高等教育とジェンダー、同類婚などでしたが、その中で言えば富のセッションは、うまく既存研究を批判的に検討しつつ、経験的な知見のelaboration/applicationが進んでいる印象を受けました。社会ゲノミクスは階層研究でそれなりにみられるようになってはいますが、この分野が10年後、富の研究と似たような状況になっているかどうかは気になるところです。

これに対して、子育ての研究は、既存研究のマイナーチェンジといったものが多く、あまり感心しませんでした。同類婚の研究もいくつか面白い研究はありましたが、似たような気配を感じます。Rob Mareが生み出した遺産を食い潰す前に、同類婚の新しい研究が求められている気がしています。所得格差に限らない格差の帰結に関する研究や、同類婚と社会移動の関係などが候補にはありますが、これまでの研究の認識を変えるような研究が出てくるまでには、まだ時間がかかる印象です。

以上の感想は、同じ学会に複数参加してみるからこそ出てくるものでもあります。RC28には国際学会ならではの多様性もありつつ、比較的問題意識が共有されている点がユニークです。だからこそ、何度も参加してみることでトレンドの変化を見出すことができます。また、何度も参加することで、ネットワークが広がるところもあるので、日本から「常連」となるような人を連れてくることが、自分が今後やっていかなくてはいけないことなのかなと考えるようになりました。

April 12, 2022

結婚・出生への政府の介入

 Twitterで炎上しかけている内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」には、知り合いの研究者がたくさん入っているのですが、そのうちで小林先生の提出した資料で「壁ドン」を含めた恋愛・結婚支援の文脈で導入することが書いてあって、批判されています。軽率だと思いますし、研究会にいる先生もそう思ったのではないかと思います。

ただ、政府の出生・結婚支援策は基本的にpronatalistだと思うので、その意味では壁ドンと婚活パーティーも似たようなものに、個人的には見えます。出生・結婚支援策が研究者も入って進められている背景には、結婚・出産を希望している人と現実の間にギャップがあるからです。

個人的には、希望と現実の間に差があるとすんなり認めるよりは、個人的には希望のニュアンスを見た方がいいと思います。よく引用される社人研の出生動向基本調査の結婚希望ははい/いいえの二択ですが、他の調査だと一定数が「まだ考えていない」「どちらでもよい」と答えています(Raymo, Uchikoshi, and Yoda 2021)。聞き方によっては希望と現実のギャップも違って見えてくるので、二択の質問でpronatalistな政策を進めるのは、早計だと思っています。

April 10, 2022

PAA2022を終えて(文献メモ)

3日間にわたってアトランタで開催された、アメリカ人口学会。久しぶりの対面で、直接人と話すことの大切さを感じた。例えば、自分が行こうと思っていたセッション以外にも、友達に誘われて行ったセッションの報告が面白かったり、ご飯を食べながら見逃したセッションの面白い報告について聞いたり。それ以外にも、セッションが終わったあとのsmall talkで意見交換したり、やっぱり論文、報告だけからはわからないニュアンスみたいなものが、会話からだと吸収できる。

そうした点を踏まえて、いくつか印象に残った報告と、それを踏まえて読まなくてはいけない文献の列挙。

[同類婚]

同類婚の発表では、ウィスコンシンの友人だったNoahがChristineらと進めている、Schwartz and Mare 2005のアップデート、Eight decades of educational assortative matingが印象に残った。特に、2010年代には学歴同類婚は多少弱くなっていること、人種別にみるとこの傾向は白人で顕著な一方、アジア系とヒスパニックでは同類婚が増えている点が興味深かった。アップデートがメインの目的ということで、graduate degreeはBAとまとめられていたが、人種別の結果を見るとおそらく大学院は別にした方がいいだろう。これとは別に、人種別のgraduate degreeの割合がどれくらいなのか、気になった。

Status exchange theoryを経験的にアップデートするために、Xie and Dong AJSで提案されたlog-linearにかわるExchange indexを中国の地位と美貌の交換に応用したYu Xieの報告も、面白かった。内容よりはメソッドが興味深く、AJS論文を読まなくてはいけない。

https://www.journals.uchicago.edu/doi/full/10.1086/713927

[子育て]

最近、parenting(子育て)が社会階層の形成に果たす役割に興味を持っている。親の学歴で子どもの学力が異なる話や、アメリカでアジア系が学業成績で優位に立っていることを説明するメカニズムとして、最近注目されている。ブラウン大学のJacksonさんの学歴間の子育て格差が州レベルの子育て支援によってどれだけ縮小するのかを検討した論文は面白かった。特に、子育て支援策は低学歴層の親の育児時間を増やすことで格差を縮小すると言う知見がパンチライン。ポスター報告でコロラド州立大学のHastingsさんがオンライン調査のテキストデータからデータドリブンに子育てスタイルを抽出した研究も面白かった。

ひとまず、KHPSを使って、子育てスタイルの類型化とそのパターンが子どもの年齢や親の階層によって異なるかをみてみようと思う。

アジア系との関連でいえば、子育て支援策を導入したとしても、子育てスタイルが文化的な背景に左右されている場合には反応が鈍いかもしれない。Policy shocks and cultural stickinessの話も考えていきたい。離婚との関連で子育てスタイルの関係を考えているのだが、もしかすると結婚満足度と離婚の関係も人種によって異なるかもしれない。この手の話ではセレクションによるcollider biasが常に問題になるので、その点も引き続き考える必要がある。

https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/00491241211043131#.YZWK3DfY60U.twitter

日本でも市町村レベルでは子育て支援策にばらつきがあるので、似たようなことをしてもいいかもしれない。Jacksonさんの研究はbetween statesのばらつきをみてみたが、歴史的なトレンドも気になる。

[メソッド]

人口学における因果推論のセッションが面白かった。ウィスコンシンの後輩だったAng Yuが報告してた研究では、raceやgenderといったgroup membershipをtreatmentではなく所与のものとして考えて、関心のあるtreatmentへのselectionを考えればいいのではと提案した上で、因果効果に加えてセレクションの部分を考慮した分解法を提案していて、面白かった。

これと合わせて、プリンストンの同僚だったIan Lundbergのgap closing estimandsも似たようなロジックで議論しているらしく、チェックしないといけない。

https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/00491241211055769

[教育]

偶然一緒に野球を見に行くことになったコーネルのHaowenが報告していた(といっても同じ時間帯のセッションがあり見逃した)大卒者における性別職域分離の3割が専攻の分離によって説明できるという論文は、記述的だが面白く、分解法の古典的な応用だと思った。

教育と分解でいうと、自分の遺伝と家庭環境が学校選抜度に与える影響も、セレクションを分解しているというフレーミングで攻めるのも、ありなのかもしれない(decomposing sources of effect heterogeneity )。

これは直接セッションを見て思った感想ではないが、人口学でも因果推論が主流になりつつある。一方で、人口学が従来から大切にしてきたheterogeneityを考えることも重要で、そうして頭をぐらぐらさせていると、例えば大学進学の平等化効果が、どの人口にも平等なのか(Does college level the field equally for men and women?)という、少しややこしいが面白そうな問いを考えている。

[文化]

子育てと関連するが、文化をどう定量化するかという最近の社会学の潮流もあって、人口学的変数の意味が社会によって異なる時に、それをどうやって見える形にするのかを考えている。例えば、結婚の意味が社会や社会の中の集団によって異なるかもしれない。念頭にあるのは、アメリカのアジア系における高い教育熱と子どもを家庭の最優先に置く考えである。同様に、学歴の意味が集団ごとに違うかもしれない。政治哲学でも、学歴とモラリティがアメリカでは強く結びつきつつあることが指摘されているが、そうした点も定量化したい。

April 5, 2022

高校調査

 今夜は調査伺いを2校に送った。先日送った2校からは、早速オーケーのお返事、ありがたい。その前に、新書の編集者の人とミーティング。先日は、夏の高校調査に向けて、高校の先生とzoomで話す。快諾していただいた。地道にアプローチしていく。

April 1, 2022

最近何をしているのか

 4月1日になりましたが、着任できるポストはないので、今やっている研究についてつらつら書きます。博論は、最悪今のままでもいいかなと思っているのですが、ひとまずあと2年はいるので、ちまちま博論をアップデートしつつ、博論後を見据えた研究をしているところです。

最近のエフォートで言うと、3割を(1)高校生の進路選択の男女差に関する研究、2割を(2)社会ゲノミクスに使っています。東大社研の後援を受けた研究会はすでに報告書を書くだけになっていますが、スピンオフで(1a)複数の地域の高校を対象とした、高校生と教員を対象にしたインタビュー調査、(1b)全国の高校教員を対象にしたサーベイ実験、(1c)女性の浪人ペナルティの研究、(1d)大学学部レベルでみた選抜度と女性割合の関係に関する論文を進めています。加えて(1e)報告書と(1f)博論の第3章の改稿があります。今週は(1a)のための研究助成の申請書を書いていました。

(2)は主として、(2a)きょうだいで遺伝子データが揃っているサンプルを使って、親の遺伝子をimputationする分析を進めています。手法自体はすでに確立し、パッケージも出ていますが、実際に分析するときには、少々細かい作法が必要です。Add Healthでimputationをしています。加えて(2b)日本サンプルを対象に教育GWAS/PGIの作成にも取り組んでいます。今週はこのミーティングなどに時間を使っていました。企業とのコラボをしています、楽しみです。(2c)博論第1章の改稿と合わせて、ゲノミクスはこれくらいでいいかなと思っていたのですが、先学期TAをした先生から遺伝的祖先とスキンカラーを考慮した(2d)racial identificationと(2e)racial segregationの研究を誘われて、リードするかは微妙ですが入ることになりました。imputationが完了した暁には、多分他のプロジェクトにも巻き込まれます。

一応家族人口学者としてのアイデンティティは失っておらず、(3)日本の家族形成と格差・不平等の研究もしています。具体的には(3a)きょうだい地位による同類婚、(3b)健康状態と結婚へのセレクション、(3c)学歴同類婚と所得不平等の関係に取り組んでいますが、主として共著者側の理由で頓挫しているのが現状です。(3d)従業上の地位と出生と(3e)lifelong singlehoodの研究は夏に再開したいと思っています。(3f)新書の執筆も、ここに分類されるかもしれません。

ほかにも頓挫しているプロジェクトはあるのですが、ひとまず上記がメインかなと思います。Diverging destiniesの話の延長で、離婚の学歴差がなぜ生じているかに興味が湧き、最近はその論文も書いてます。

一応、博論は(1)高校生の進路選択の男女差(2)遺伝的ポテンシャルと社会移動(3)学歴同類婚をそれぞれ1章ずつ扱っているので、大きく研究関心が変わっているわけではなく、論文にならずにひたすら拡大しているという感じです。自分の予定では、卒業するまでに大体全て終わるはずなのですが、どうなることやら。


決め球

 野球のピッチャーのごとく、研究者にも「決め球」はある。本人が得意としていて、査読の際に違いを出せるアプローチ。自分の今持ってる決め球は、そこまでキレがよくない「交互作用」と、ゴロは取れるけど三振は取れない「人口学的分解」。因果推論は、好きじゃない。