January 28, 2022

捨てる神、拾う神

 今日は博論の1章になる論文にR&Rが来て、ここ数年で一番嬉しい日だったかもしれない(それこそウィスコンシンに受かった時ぶりくらい)。この1年、ずっとリジェクト続きだったので、捨てる神あれば、拾う神ありだなと思った。自分のやってることは間違ってない、自信を取り戻すきっかけになった。今後の自分の人生を左右するかもしれないので、ひりひりとした数ヶ月を過ごすことになりそう。できれば今学期中にけりをつけて、日本に一時帰国したいと思う。

今年の弊学の合格率を小耳に挟んだが、一瞬自分の耳を疑った。今後もこの選抜度が維持できれば、本当にアメリカでトップのプログラムになるかもしれない。今でもワンオブトップだとは思うが、ハーバードとバークリーの壁は厚いと思う。ミシガン、スタンフォードと競っているくらいかなと思うが、もう一歩抜け出すかもしれない。そして、別の文脈で大学院が院生の給料を25%増すという話をこの時期に大々的にアナウンスしたのは、おそらく来年入ってくる学生を考えてのことだろう。

正直、今でもプリンストンのadmissionに受かる自信はない。いくら強い推薦状があっても、プリンストンにくる人と、自分の間には、ちょっとうめがたいポテンシャルの差を感じる。そういう意味では、私はプリンストンに正規のルートで拾われることはないと思うが、指導教員の遺跡という特殊ルートで、拾ってもらった。それに、そんな自分でもそれなりのジャーナルに論文を載せられたら、世の中ちょっとは捨てたもんじゃないだろう。


January 27, 2022

日本にジェンダー革命は起きるのか

人口学だと、ジェンダー平等化が進むと女性が仕事と家庭のバランスを取りやすくなり、男性が育児に参加するようになることで、出生率が回復するという理論がある(個人的には、この話はスウェーデンを先進国が将来的に行き着く先と考えるreading history sideways の一種であり、新手の近代化論に見えるので少し懐疑的)。

ジェンダー平等と出生率の回復は別個に考える必要があると思うが、一挙両得の可能性を感じて、日本の政策担当者も重い腰を上げつつある。国家公務員の男性育休取得率の上昇などは、これまでの男性の育休取得の低さを考えると驚くばかりである。とはいえ、日本の多くの民間企業では、まだ転勤も多く、男性が仕事を休んで育児休暇を取るというのは、なかなか難しい。

これがなぜか、日本が変わっていくにはどうすればいいか、そうしたモチベーションで本を書いているのが、ハーバードのMary Brintonさんである。日本のジェンダー格差を議論するときに避けては通れない人物だが、昨日は彼女がインディアナ大学で講演をするので、話を聞いてきた。

同じトークは以前も聞いていたので、彼女の主張(日本は社会規範の影響が強く、会社で最初に育休を取ることはスティグマになってしまうので、国が率先して強制的に育休を取るような制度にしていくほかない)というのは、一理ありつつ、しかし現実的かどうかはわからないと思いながら聞いていた。いくつか興味深い質問があったので、メモしておく。

一つは一橋の小野先生が、Brintonさんのいう共働き・共育て社会の実現がnew equilibriumになるのかという質問をした。なぜなら、非正規や無職で仕事をセーブしている有配偶女性の幸福感は、正社員の有配偶女性よりも高いからだ。実際、専業主婦を希望する女性は一定数おり(それ自体はジェンダー不平等な労働市場を反映してのことだと思うが)、思考実験としては興味深い。次に(サークルの先輩で久しぶりに見た)長山さんが、結局のところ問題の根源は終身雇用をベースとした正社員と非正社員の差別的な雇用制度にあるのではないかと指摘した。これも重要な指摘だと思う。年功序列で会社の中のラダーを上がっていく正社員タイプの雇用は、キャリアを中断する可能性が高い女性には不利だからだ。いわゆるジョブ型・メンバーシップ型の議論とも繋がるが、仮に諸悪の根源だとしても、それが政策的に介入可能かは別問題になるだろう。

話を聞いていると、人口減少が危機感となってジェンダー平等が進んでいくシナリオが今後の日本で起こるのかもしれないと思った。つまり、理念的にジェンダー平等を推進しようとする動きよりも、必要性に駆られた結果、ジェンダー平等が進むというシナリオである。最初の話に戻ると、人口学の流行りの理論では、ジェンダー平等になるから出生率が回復する、という因果で考えていたが、むしろ先に来るのは人口の方なのではないか、つまり、労働力人口の減少に耐えられないポイントで企業や政府が重い腰を上げて、高学歴の女性が働きやすい環境に変わった結果、出生率も多少回復する、みたいなこ都が起こるのかもしれない。これはこれで楽観的な予測だと思うが。Demography as a source of resilienceという話、人口学者以外には受けは良くないかもしれないが、考えてみてもいいかもしれない。

January 24, 2022

春学期の始まり

 学期が再開するため、土曜日にアメリカに戻ってきた。火曜日から開始する授業に出るはずだったが、航空券を予約した後にその授業が月曜に変更されることがわかり、授業開始まで、これまでよりも余裕がない。今日(月曜日)も、まだ少し時差ぼけ気味だった(とはいっても、夜8-9時に無性に眠くなり、5時ごろ起きるみたいなパターンになることが多いので、そこまで大きな問題にはならない)。

今学期履修する授業は、advanced demographic methodsである。3年ぶりくらいに人口学のメソッドの授業をとることになる。Prestonの教科書(Demography)を久しぶりにまともに開けたら、数式ばかりで、本当につまらない笑。人口学なんて、自分では絶対勉強しようと思わないから、ウィスコンシンでトレーニング受けといてよかったなと思う。

初回の内容としては、stable/stationary populationの復習から始めて、variable r methodやcohort component methodを使った人口予測などだった。この辺りは、3年前にとったマディソンの授業と少し被ってた。

人口学のトレーニングに関しては、マディソンはプリンストンと差がないか、構造化されてる具合についてはマディソンの方が優れてると思う。ウィスコンシンでは、人口学研究所に所属すると、1年目に人口学のサブスタンティブな大学院セミナー population and societyが秋春、同様に基礎と応用のメソッドのクラスが、秋春学期それぞれで学ぶことが必須になる。

これに対して、プリンストンではサブスタンティブも、メソッドも基本的には1年目で一つずつしかない。一年目に応用までカバーしないのは、おそらく人口学研究所に所属していてもそこまで必要としない人がいて、加えてプリンストンのコーホートサイズはそこまで大きくないため、毎年応用のクラスを開講しても人が来ないのだろう。今学期の授業は、2年生から4年生までが履修していた。トレーニングでは、ウィスコンシンに一日の長がある。

そんなわけで、若干復習も入るが、新しいことも学べそうなので、楽しみ。授業をとっていると、体のリズムが整うので、研究にもいいフィードバックがある気がする。

January 11, 2022

ニッチを攻める

 最近、徐々に高等教育とジェンダーの話に研究の舵を切っている(10年弱はするつもりでいる)。扱っている内容としては、浪人や、難関大学に女性が少ない話とか、当事者として見聞きすることも多く、興味はあったけれど、いい感じの距離感で、テーマと相対するまで、時間が必要だったのかもしれない。

修士から数えて7年弱の間に書いた論文のメインは学歴同類婚だった(今でも一番の専門と思える)。ただ、それを選んだのは、心の底から興味があったというより、階層、家族、教育、人口の全てが関わるトピックだったから。興味が定まるまで、ひとまず複数テーマにまたがる内容をやった方が、後でテーマを変えやすいのではないかと、マンチェスターの寮の図書館で卒論について考えているとき、確かに思ったし、この考えは間違いではなかったと思う(弊害は、いろんなことに興味が出てしまうこと)。

同類婚以外でも、これはピアの影響が大きいと思うが、周りがやってるテーマに興味を持ち、結婚、出生、性別職域分離の論文などを書いてきた。振り返ればややピッキーだったと思う。ぶっちゃけると、一貫性はなかった。とはいえ大雑把には、自分は階層性の再生産過程における教育の役割に興味を持っているのだと思う。振り返れば、大体その関心に惹きつけられなくもない論文が多い。

同類婚について正直にいえば、日本に関してはやっている人が少なかったのはすぐに分かった。やっている人も、片手間気味だった。興味はあるけど、メインは教育格差や、社会移動、あるいはもっとクラシカルな家族人口学だった。英語で書かれた日本事例を扱った論文はほんの少ししかなかった。要するに、自分はニッチを攻めたのだと思う。ただ、アメリカではホットなテーマで、それは知っていたが、予想以上に競争的だった。このテーマでも、引き続き貢献していきたい。

この二つが合わさり、僕の10年の目標は、まず同類婚の国際比較プロジェクトをスタートさせ、本にまとめること。次に、高等教育とジェンダーの話についても研究をリードし、成果として本にまとめること。

January 10, 2022

コロナ禍のリアル

コロナ陽性で自宅隔離する人向けに、日本の自治体が食料を含むケアパッケージを無料で配送している話、アメリカでは政府ができることはまだあるという文脈で拡散されている。アメリカに戻り隔離している間、食料をくれたのは政府ではなく大学だった。日本の大学がそんなことをしてくれるとは思えない。

もしかすると日本の大学でも似たようなことを、例えば外国から来たばかりの留学生にしていたのかもしれない。自宅隔離者を誰がケアするかという話からは過度な一般化かもしれないけれど、この事例は誰がケアの主体を担うべきかという考えの日米の違いを表しているように思えた。

サッカー日本代表の対戦チームが、高い公益性を有しているという理由で入国が認められた件。個人的には、日本について研究したいと思ってる留学生なんて、高い公益性を持ってると判断してもよいと思うが、政府の判断としては、サッカーの親善試合の方が公益性が高いという判断、納得することは、難しい。

もちろん、何を学ぶかで線引きしようとすると、公益性のない分野の留学生は入国させなくてもよいという話になるので、それはそれでよくないだろう。公益性に限らず、線引きに何らかの基準を用いることは、少なからず恣意性を纏うため、簡単ではない。かといって、世論を踏まえると、全員入国可も現実的ではないため、どこかで折衷案を狙うべきだろう。

公益性で線引きするのであれば、Japan Foundation(国際交流基金)や日本学術振興会からファンディングをもらっている人であれば入国可、みたいにするのが妥当なラインだろうと思うけれど、現状では日本政府は留学生はすべからくダメにしている。もう少し妥協点を見出す努力をしてほしい。

January 8, 2022

受験浪人とジェンダー

 今年度進めているプロジェクトから、女性は浪人しにくいことが傾向としてははっきり確認された。東大などの選抜的大学に女性が少ないことも、これらの大学に入学するためには人によっては浪人する必要があることが背景にあると考えている。ただし分析はベネッセの高校生を対象にした調査を用いていたので、なかなか大学の選抜度までは考えることができなかった。

この問いに最もストレートに答えることのできるデータは、学校基本調査の大学学部ごとの個票だった。しかし、個票を手に入れるには色々と手続きが必要で、頓挫していた。

ところが、実は国公立大学については公開されてたのをつい先日知った。2012年から、大学学位授与機構がデータを大学・学部レベルで生徒数や教員数のデータを公開している。2016年からは年齢別のデータも公開されていた。利用しない手はない。

この図は、入学者に占める19歳以上の割合(=受験浪人の代替指標)と女性割合の散布図である。結果は最新年の2021年のものを示しているが、公開されている2016年以降については、どの年も似たような結果になっている。両者は綺麗に負に相関してて、年齢と受験浪人が密接に結びつくという意味でも、また受験浪人に男女差があるという意味でも、非常に日本的な現象だと思う。19歳以上が100%を占めるのはちょっと考えにくいので、非常に定員が少ない学部かもしれない。本当であれば、定員のサイズで円の大きさを調整して示した方がいいかもしれない。

追記:19歳以上が100%を占めていたのは、埼玉大学経済学部の夜間コースだった(定員15名)。なお、他に19歳以上割合が高いのは、基本的に医学部、歯学部、それと芸大系の学部である。

19歳以上が0なのは京大の薬学部で、どうやら京大薬学部はデータには一般入試枠と特色入試の二つが入っているようで、19歳以上が0なのは後者だった。定員が3名であるために、こういうことが生じている模様。次の分析では、複数のコースがあっても同じ学部であればマージしなくてはいけない。