December 30, 2019

アメリカ大学院出願覚書:多様化する博士課程までの経由地

この時期は暇になったアメリカの博士課程にいる院生が日本語で大学院留学の手引きとかを書くシーズンでもあります。私も昔そんなのを書いた記憶がありますが、入学後いまいち的を得ているわけでもないなと思い直し、消したかもしれません(覚えてない)。再び日本語でそういった記事を見たのと、アメリカでウィスコンシンとプリンストンという二つの環境に身を置いたことで、博士課程に来るような人はどういう人なのかについて、多少違った見方ができるようになった気がするので、覚書として書いておきます。

経済学の人の手引きを読むと、アメリカのトッププログラムに入るためには、東大の修士課程に入り、いわゆるコア科目で優秀な成績を収めることが重要というメッセージを感じます。

同じ社会科学でも経済学と違い社会学では、修士のコースワークの成績がアメリカの博士課程での能力のシグナルにはなりにくい気がします。例えば、質の人が統計の成績良かろうが悪かろうが関係ありません。社会学では、その人にしかできない研究テーマのオリジナリティの方が、高く評価される傾向にある気がします。ダイヤの原石を採用して、あとは自分たちで教育する方針なのでしょうか。

ちなみに、社会学では日本のコースワークは大概翻訳不可能で(言語的にも、実際の内容的にも)、日本で修士をこなすメリットは、相対的に薄いです。これは、アメリカの社会学と日本の社会学が、言語によって大きく関心や教育が異なっていることが背景にあると思います。その点、経済学では日本の大学院はアメリカPhDの予備校らしいので、ストレートに翻訳できるのかもしれません。これはいいことなのかどうか、私にはよくわかりません。

推薦状も同様に重要ですが、日本の大学出てるとここも不利になりやすいです(アメリカの教員がその実績を知っている研究者が少ない)。そういう意味で、研究の問いの新規性、それを博士課程のうちにどうやって実現するかのプロポーザルの重要性は相対的に大きいと思います。これは、ややもすると逆説的に聞こえるかもしれませんね。アジアからくる留学生はどこの馬の骨かわからないので(それはアメリカの非エリート大学でも同じかもしれませんが)、ちゃんと数字に残るようなGREや成績が重要なのではないかと思われるかもしれませんが、その辺りは必要条件のところもあれば、あまり気にしないところもあるので、まちまちな気がします(あってよいものではありますが)。私は、社会学の入試で一番重要なのは、プロポーザルだと思います。その次に推薦状ですかね。

ちなみに、プリンストンの同期の半分以上が、学部卒業後にシンクタンクやコンサルで働いた経験を持っています。ある人に言わせると、そこで自分の研究をどう実現可能なものにするか、ちゃんとプロポーザルを書くスキルを身につけられたのが合格につながったと言ってました。この点、日本の修士よりも、コンサルなどの民間で経験積むのは一つのアプローチだと思います。なぜかはわかりませんが(もちろん、コンサルに行くような人は、鼻からそういった思考ができる人がoverrepresentされてる側面はあるでしょうが)、コンサルに行くと、ロジカルなシンキングが身に付く気がします(実際に経験したことがないので、半信半疑なところがありますが)。

あるいは、単に合格の可能性を高めたいということであれば、日本の修士にいるよりも、アジアなら香港科技大、あるいはアメリカの社会政策とか東アジア研究にはマスターがあるので、そこで所定のコースワークを済ませ、教授にいい推薦状を書いてもらうのが、相対的に近道かもしれません。オックスフォードやLSEの修士も一つですね。周りの社会学部にいる留学生も、こうした海外の修士課程を経てきた人は多いです。

また、早くからリサーチの経験を積んでおくことは有利ではあるので、社会学からも今後は(アメリカの)大学のRA、プレドクポジション()を経由して博士に入るルートは増えるかもしれません。昔よりも博士課程に入るための競争は熾烈になっているらしく、そうやって差をつけるのでしょうか。このルートは、日本の人はビザ的に不利ですが検討してみてもいいかもしれません。

追記:後輩から以下のようなプレドク(というかフェローシップ)も紹介してもらいました。
Stanford Law School Empirical Research Fellowship

総合すると、博士課程に行くルートは母国の修士を経由する以外にもたくさんあります。コンサルで経験積むもあり、海外の修士に行くも一つ、シンクタンクも一つ、色々です。昔よりも競争が激しくなっている分、博士課程に行くルートは多様化しているかもしれません。

ただ、実は、できることなら学部からアメリカに行ってしまうのが、アメリカの博士課程に行くには最短であるのは、間違いないところです。ウィスコンシンは非英語圏の学部・修士を出た留学生らしい留学生も結構いましたが、プリンストンではほぼいません。基本アメリカか英語圏の学部BAをとってます。

もちろん、これらのルートの一つに、日本での修士は間違いなく選択肢として考えるべきでしょう。というのも、自分の場合、日本で修士までやったからこそ、アメリカでは自分くらいしかできない研究ができると思っているからです。

このように、色んなルートがあっていいと思います。問題は、多様化する経由地の情報が、あまり共有はされてないことかもしれません。情報の欠如はもったいないですね。まあ、日本からアメリカの博士課程に行きたいと考えている人が他の分野に比べると圧倒的に少ない気がするので、単に需要がないのかもしれません。

あとがき

かなり恥ずかしい気もしますが、昔、書いた記事を貼っておきます。社会学では木原盾さん(ブラウン大学社会学部博士課程)のUnder the Canopy、政治学だと向山直佑さん(オックスフォード大学国際関係学部博士課程)の紅茶の味噌煮込み、経済学だと菊池信之介さん(MIT経済学部博士課程)のホームページで、それぞれ大学院留学の手引きについての情報が得られます。便利な時代ですね。なぜかこの手の留学手引きは私の観測範囲にバイアスがあるのかわかりませんが、皆さん男性なんですよね。






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