Grenier, P., and K. Wright. 2006. “Social Capital in Britain.” Policy Studies 27(1):27–53.
この論文では、パットナムの孤独なボウリングの知見を受けて、彼の主張がイギリスでも通じるかどうかを検証した初めての試みとなっている。筆者はまず、SCを醸成する最も重要な社会参加として組織への参加を挙げ、種類別に分けた後で1950年代から90年代までの会員数について検討する。伝統的な女性団体については会員数の減少が見られるものの、その他の団体ではむしろ登録数が増加していること、及び性別、教育、階級そして年齢別に見た個人あたりの組織参加数を見ても1959年に比べどの階層においても平均スコアが上昇している(ただし、階級間の平均スコアの格差は拡大している)ことから、現代にイギリスにおいても市民参加は衰えておらず、むしろより多くの人が参加していることが示唆されている。次に、インフォーマルな社会参加に関しても、人々は屋外でのレジャーを楽しんでおり、テレビ視聴の増加もラジオのそれの減少に取って代わっているだけだとしている。社会参加を調査ごとのコーホート別に見てみても、違う年に生まれた同コーホート間を比較した結果、教育程度を統制しても個人辺りの平均会員数は上昇している。
このように、社会参加に関しては一貫してどの世代でも上昇しているという知見が紹介されているが、パットナムがあげたSCのもう一つの要素である信頼に関しては全体的に減少傾向が見られている。特に、中産階級と比べた時の労働者階級における信頼の低下が著しい(ただし、中産に比べた上流階級の低下も同じ程度であるが指摘はされていない)。
以降、社会参加は上昇しつつも信頼は低下するという問題についての説明が見られる(ただし、計量分析などはしていない)。伝統的な見方としては、福祉国家化、女性の労働市場への進出、テレビの普及などがあるが、こうした理由は退けられている。代わりに、社会参加の上昇に関しては、教育の大衆化を中心とする制度の変化、イギリスの階級構造の変化(中産階級の増加)、そして政府の政策の変化が挙げられている。次に信頼の低下に関しては、都市化、サッチャリズムによる個人主義の浸透が挙げられている。最後に、政治との関連で、等量率の上昇は社会参加との関連があることが示唆され、さらにSCの分配的な側面の重要性が指摘され、政策提言がなされている。 memo:the distributive dimentions of social capital
Grenier, P., and K. Wright. 2006. “Social Capital in Britain.” Policy Studies 27(1):27–53.
この論文では、Hall (1999)によって提起されたイギリスにおける社会参加の増大と信頼の低下というパラドックスをeplore(なので、問題をさらに拡大していると言ってもよい笑)している。Hallの論文からはいくつかの疑問が提起され、BHPSなどのデータを用いて検証がなされている。まず、社会参加の増加に関しては、階級に始まり、人種間、性別間により格差が増大していること、及び組織へ参加することの意味が変容した可能性(参加しても、昔とは異なりアクティブに参加せず名前を連ねるだけ、ただしこれはパットナムも指摘していたはずだ)が示唆されている。ボランティアに関しても、その動員手法がよりプロフェッショナルなものになったことなどが指摘されている。すなわち、組織への参加やボランティアの前提が昔と比べて変わった可能性があるのだ。インフォーマルな社交に関しても、Hallの分析には仕事を持っていない老人や学生、主婦などが分析に入っていないこと、女性に関しては家事労働の負担という側面を蒸していることが指摘される。信頼に関しては、Hallの主張ほど信頼が低下していないこと、及び低下は他の国と同程度ということが指摘されている。
次に、Hallが挙げた以外のSCとして職場の関係とオンライン上の紐帯が挙げられている(この辺りになってくると、特に分析的な論文を下降としている訳ではないことに気づく)。最後に、SCの変化に関する説明の検討として、政策、社会的な価値観、労働の変化、不平等が挙げられている。特に、価値観に関しては、European Value Surveyの知見から、個人主義的価値観と連続すると考えられる相対主義的な価値観が減少し、代わりに絶対主義的な価値観が支持されてきていること、労働に関しては、労働市場の柔軟化によって職場における満足度が変化することと信頼の低下の議論が結びつけられる必要が主張されている。最後に、収入とSCとの関連から不平等の拡大がSCにどのような影響を与えるかの検討が待たれるとしている。
Li, Y., and M. Savage. 2003. “Social Capital and Social Exclusion in England and Wales (1972-1999).” British Journal of Sociology 54(4):497–526.
この論文では、イギリスにおけるSCの検討として、社会参加を例に分析している。筆者らによれば、既存のSC論(ここでは社会参加)の議論には経験的に妥当性の基準を満たしていないものが多かった。例えば、ブリッジングとボンディングという紐帯の性格を測るためには、個人のネットワークの密度を詳細に調べなくてはいけないが、大規模な社会調査においてはほとんどなされてこなかった。このような問題を踏まえて、筆者らは、SCの排他性exclusiveについて、階級間による分断があるかに焦点を絞った分析をしている。
分析でははじめに、組織別にサービス階級と労働者階級の比率が表されており、大きくサービス階級がドミナントなcivicとワーキングクラスが主なlabourの二つのタイプが発見されている。このような分類をしたのだから当たり前と言えば当たり前だが、labourな社会参加をしているとワーキングクラスであると認識する確率が上昇することになる。こうした分断は教育程度でも同じように見られている。従属変数をタイプを区別せず組織への参加としたときに、その他の社会的属性を統制しても女性は男性よりも社会参加の傾向が低いこと、サービス階級であれば社会参加の程度が増える傾向にあること、またジェンダーと階級の相互作用が確認されている。分析の結論としては、教育程度よりも階級が社会参加に関しては影響力が強いことが指摘されている。
次に、社会参加の形態を先のタイプに訳で、両方ともに参加している場合、片方に参加している場合、どちらにも参加していない場合の4通りに分け、最後を除いた多項ロジット分析をしても両方とlabourの時にジェンダーと階級の相互作用が確認されており、これは女性よりも男性の方が多く雇用されており、さらに女性が雇用されている場合でも労働組合の少ないサービス階級の場合が多いという理由が推測されている。また、逆にcivicにおいては男女差が確認されず、この形態の社会参加が労働形態に拘束されないものであることが分かった。最後に、階級構造の変化によって、中産階級のSCは増加し、労働者のそれは維持された結果、両階級の格差が拡大しているというHallによる主張を確認するため、男性サンプルに限定して(1972年の調査が男性サンプルのみだったため)、時系列的な影響の変化を見ている。分析の結果、パットナムが主張したような社会参加の全体的な減少は確認されず(とはいっても、その他を統制した上で1972年よりも1999年の方が参加を低める結果になっている)、Hallが主張したような中産階級の社会参加の増大と労働者階級のそれの維持ではなく、労働者階級の社会参加の大きな低下と、それと比べれば穏当なサービス階級の影響力の低下(ただし有意ではない)ことが指摘されている。
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