February 17, 2014

Beyond Social Capital: Spatial Dynamics of Collective Efficacy for Children

Letki, N. 2008. “Does Diversity Erode Social Cohesion? Social Capital and Race in British Neighbourhoods.” Political Studies 56(1):99–126.

 この論文ではイギリスのHome Officeのデータを用いて、近隣におけるソーシャルキャピタルとエスニシティの多様性の関係について議論している。認知的なものと行動的なものの二つに分かれるSCのうち、後者に関しては公的な市民参加が指標として用いられてきたが、近年それがセレクションバイアスの影響を受けていることや経済的な格差との関連が指摘されるようになったことから、この論文ではインフォーマルなつながりを尺度に用いている。先行研究ではエスニシティの多様性はSCを浸食するという議論もあれば、成熟させる議論も見られる。もっとも、これらは排他的なものではなく互いに両立しうる。多様性が増すこと自体は既存の紐帯を脅かすものとしてSCにネガティブに働くと考えられるが、いったん移民してきた人との交流が進めば、多様性に対する理解が広まると考えられるからだ。コミュニティ内とコミュニティ間のマルチレベル分析の結果、以下のようなことが分かった。まず、SCと近隣への認識は基本的にプラスの関係にある。ただし、フォーマルな組織よりもインフォーマルなつながりの方が近隣住民への信頼感への効果は大きい。次にコミュニティ間の分析では、近隣全体の経済的な剥奪の度合いが大きいほどSCにマイナスの影響を与えることが確認された。その一方でエスニシティの多様性は近隣への認識にのみマイナスに働くだけで、他のSCには大きな影響を持たないことが分かった。

Rosenberg, M. 1956. “Misanthropy and Political Ideology.” American sociological review 21(6):690–95.

 この論文では、政治的イデオロギーは我々の人々への認識によっても影響されると考え、人間への信頼とイデオロギーの関係について分析している。のちに一般的信頼の質問として用いられるものを含めた5つの質問を尺度化して、政治的なイデオロギーとの相関を見た結果、信頼が低い人ほど公衆や議員の自律性と表現の自由に反対意見を持ち、共産党の存在や宗教に反対するなど政治的に不寛容になる傾向があることが分かった。

Sampson, R. J., J. D. Morenoff, and F. Earls. 1999. “Beyond Social Capital: Spatial Dynamics of Collective Efficacy for Children.” American sociological review 633–60.

 近年の社会科学では近隣効果neighborhood effectに関する研究が進んできた。しかし、この論文は、近隣効果がなぜ重要なのかというメカニズムの点については研究の蓄積が少なかったと指摘する。多様さをどのように理論化すればいいのか、先行する構造的な条件は何かなどの問いに、この論文ではコールマンのSCの概念を拡大し、シカゴ地区の子育てにおけるコミュニティの集合的効力を事例にして答えようとする。筆者らはSCの源泉となる近隣の社会組織として世代間の閉鎖性(コミュニティの親と子が互いに結びついているか)、互酬的な交換、そしてコミュニティの集合的効力(collective efficacy)への期待感の三つを想定する。最後のefficacyはネットワークにおける資源となるSCとは区別されるが、資源自体とそれを動員する過程を区別するならば、そうした効力感は重要になるとする。このように、この論文では資源だけでなくそれに対する期待感、効能感を重視している。

 続いて、筆者らは空間的な変数の議論に入る。子どもに対するコミュニティの提供資源という問題の際には、人の移動や分布などの空間的な側面が考慮されなくてはならないとし、居住の安定性(どれだけの人が長く居住するか)と社会経済的な不平等・エスニシティによる隔離といった不平等、そしてコミュニティにおける豊かさの存在(低収入の家庭ではなく豊かな家庭がコミュニティ単位の教育達成にプラスの影響を与えるという研究成果が紹介されている)の三つが挙げられる。そして、SCと効能感は隣接する近隣の影響を受けるという仮説を持ってくる。効能感は、子どもが学校をさぼったり非行に走ったりする時に住民が何かできるかという質問で測られている。

 以上、この論文では、社会関係から生まれる資源としてのソーシャルキャピタル、コミュニティにおける効能感、そして空間的な差異の三つが取り上げられている。シカゴ地区の845のcensus tractsを343の近隣クラスターに分類しなおして分析が行われた。分析はマルチレベル分析とシカゴ地区の地図を使った地理的な分析に分かれている。マルチレベル分析では、SCとefficacyに対して個人レベルで家を所有していることがプラスに、引っ越しの回数がマイナスに働き、近隣レベルでも居住の安定性がプラスに働くなど、居住という地理的な側面の影響力が確認されている。特に後者は構造的な側面に対する示唆を与える。また、近隣レベルでは豊かさの集中がSCトefficacyそれぞれに性の影響、不平等の集中と移民の集中はefficacyのみにマイナスに影響していた。

 次に各地区に対して、近隣に位置する地区の値を重み付けした変数を投入することでその地区における変化が他の地区にも影響を与えるモデルを作成して分析がされる。この結果、地理的な近接性がSCとefficacyに正の影響を与えることが分かり、あるコミュニティの行動は他のコミュニティが同じことをする時により促進されることが示唆されている。

 これらの分析結果はコミュニティはそれが位置する場所からSCとefficacyを生む際に独立の影響を受けていることが示唆される。そこで最後に、シカゴ地区の地図を用いた分析が行われている。自地区と近隣の地区のSCとefficacyの高さでhigh/lowを四通りにしてカテゴリの地図から、SCやefficacyが高い地区は地域的に偏っていることが分かる。また、貧困地区はlow/lowの確率が高い。そして、low/highの地区には白人が多く、haigh/lowの地区にはアフリカ系が多いことが推察されたため、人口の75%以上が白人の地区、人口の75%以上がアフリカ系の地区、ラテン系/その他の三つに分けた分析の結果、例えば白人コミュニティはアフリカ系コミュニティの2.6倍、ラテン系/その他の2倍の確率でSCが高い傾向にある。さらに白人コミュニティに比べて他の二つのコミュニティはhigh/lowという近隣地区からの利益を受けない地区である確率が高く、反対に白人コミュニティは自地区のSCやefficacyがlowでも他の二つに比べて近隣がhighという利益を受けられる位置に属していた。これは、SCとefficacyの多寡を組み合わせた分析でも同じ傾向が見られた。つまり、白人コミュニティは地理的に有利な条件の土地に位置する確率が高いのだ。この研究は資源としてのSCだけではなく集合的なefficacyが重要という点、さらにそれらは地理的な条件の影響を受け、その地理的条件はエスニシティ間で大きく異なることを指摘した重要な研究である。

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