February 2, 2014

ASR激むずだったソシャネ論文(38/107)


Mouw, T. 2003. “Social Capital and Finding a Job: Do Contacts Matter?.” American sociological review 868–98.

 この論文では、就職とソーシャルネットワークの関係について、因果性の観点から検討している。グラノベッターによる弱い紐帯の研究以降、単に個人的な紐帯を利用して就職する人がどれだけいるのかという点以外にも、こうした就職がフォーマルな就職機関を通じたものより有利かどうかが検討されてきた。特に、人々の紐帯から資源を得るという視点を提供したソーシャルキャピタル(SC)の知見から、職業上の地位が高い人とつながっている場合に本人も利益を得ることが指摘されている。しかし、homophilyの考えを踏まえると、本人が良い条件の就職先を見つけることとその人のネットワークもまた良い条件の職業についている人で囲まれていることは因果性を持たないかもしれない。ネットワークはランダムには形成されないからだ。

 このように考えた筆者は、SCを就職に効果があるものと効果を持たないsprious(偽物)の二つに分けて、因果性を検討している。モデルとしては、求職者が最低限受入れることのできる賃金を設定し、その額よりも高ければオファーを受けるsequetialモデルとオファーを全て受けてから最良のものを選ぶというextensiveの二つのモデルが提示されている。分析のレベルでは、①コンタクトを通じて就職することがSCのレベルに対して内生性バイアスを持つかどうかで分かれる、さらに①に対して持たないと考えた場合には②コンタクトの効果は求職者の個人的属性に依存するかどうかでさらに二つ、合計3つに分かれた分析がされている。まずバイアスも個人属性への異存もないと考えた時の分析では、コンタクトと賃金や仕事の満足度への関係は見出せなかった。これは低賃金の人がcontactを通じた就職をするという傾向の影響を受けているかという検討がされる。失職中だったかと自分で仕事を探したかで4つの変数を加えると、雇用されていて仕事を探さずに転職した人の賃金は高くなることが分かった。(これに関しては今後の検討課題とされている。)
次に、バイアスはないが個人属性の依存を考えた分析では、先行研究と同じモデルで検討したが、回答者とコンタクトが同様の職業の場合のサンプルを除くとコンタクトと賃金の関係は有意ではなくなったとしている。最後に、内生性バイアスを考慮したモデルでも因果性を確認することはできず、homophilyによる影響が示唆されている。(最後の部分に関しては再読)

Kroenke, C. H. 2006. “Social Networks, Social Support, and Survival After Breast Cancer Diagnosis.” Journal of Clinical Oncology 24(7):1105–11.

 この論文では、アメリカの大規模な女性看護士への調査データ(NHS)を用いて、ソーシャルネットワークとソーシャルサポートが乳がんを中心とする病にどのような影響を与えるかが分析されている。データに用いられたのは、都合4回のパネル調査に協力したサンプルのうち、ネットワークについての質問がされる前に乳がんの症状が診察されたものと、質問が終わった後に診察されたものである。

 分析の結果、以下のようなことが分かった。まず、confidant(配偶者)がいるかどうかは乳がんやそれ以外の病に対して影響を与えないが、親友や親戚、子どもを持っていない人は志望リスクが高まることが分かった。特に、親友を持たない場合は乳がん以外の病による志望リスクが高まる。ただし、コンタクトの頻度のリスクとの関係はより弱いものである。また、ネットワークを持たずに孤立した女性の方が結合されている女性よりも志望リスクが高まることも分かった。配偶者の有無が志望リスクに関係しないことは、女性にとっては配偶者ではなく友人や子どもなどがソーシャルサポートの提供者であるという知見と整合的である。

Langlie, J. K. 1977. “Social Networks, Health Beliefs, and Preventive Health Behavior.” Journal of Health and Social Behavior 244–60.

 この論文では、HPB(Health Preventive Behavior)とソーシャルネットワークの関係について検討している。簡単にいえば、健康や安全のための具体的な行動をしているかどうかということだが、これは個人の健康や安全への認識の影響を受けるとされている。つまり、健康に対して何も意義を見出していない人は具体的な行動に移さないということだ。

 この認知的な部分に対してはPIC(Percieved Internal Locus)という変数が提案されている。PICの仮説は、今後自分のみに降り掛かることに対して自分の手でコントロールできると考えている人は、具体的な行動を起こすのに関係する認識を持っていると考える。この他、健康に対するコストとベネフィットの感覚、また病気に対する本人による脆弱性の認識、健康に価値を置くかどうかが行動に対して影響を与えると想定されている。

 また、所属する社会集団と行動の関係についての考察されている。家族や友人などが中心となる集団は健康への認識に対してparochial、つまり偏狭な考えを持ち医学的に正しい知識を拒むという先行研究が紹介された上で、社会経済的な地位SESとの関連を考えたこの論文では、SESが高く「コスモポリタン」な集団ではHPBが受けいられやすいと仮定する。

 量的調査の結果、先行研究を経て立てられた仮説は概ね支持されている。本人の脆弱性への認識、PHBに対する主観的なコスト・ベネフィット感覚、健康への価値、医療機関への姿勢はPHBと家庭通りの相関関係にあるが、これらの変数を同時に投入して統制すると一部の変数は有意ではなくなる。そこで、これらの変数を除外した結果、PICとコスト・ベネフィット感覚が有為な影響を与えると分かった。ネットワークに関しては、重回帰分析の結果、PHBのうち間接的な行動に対してのみ一部が影響することが分かった。SESや交流などは有為な影響を与えたものの仮説とは逆の効果が確認されている。最後に、この論文では本人の認識とネットワークのjoint impactも考察している(ただ、交互作用項を投入して検討してないのでどう解釈していいかわかなかった)。

Kawachi, I., and L. F. Berkman. 2001. “Social Ties and Mental Health.” Journal of Urban health 78(3):458–67.

 イチロー・カワチによるネットワークとメンタルヘルス研究のレビュー(カワチ自身はこの研究分野は膨大なのでレビューではなく四つのトピックを紹介するとしている)。
はじめに、CohenとWillsによって提案されたメカニズムが紹介される。これは有名なネットワークがメンタルヘルスに与える二つの効果を述べているもので、一つが紐帯をつくることによって精神状態が向上したり、所属する集団から規範的な影響を受けるなどといった主効果、もう一つがサポート資源を持つという認識がもたらすストレスへの肯定的評価と実際に提供されたサポートによってストレスが軽減するというバッファ効果である。

 このようなメカニズムは多くの研究者の支持を得て、ネットワークはそれ自体としてメンタルヘルスに影響を与える因果があると考えられているが、ネットワークはすべての人に均等に分配されている訳ではない。ジェンダーやライフコース、社会経済的な地位によって異なることが次で指摘される。

 第三に、社会学において発展しているソーシャルキャピタルの知見が紹介され、従来の研究ではego-centricによる手法が中心だったが、こうした一次的な紐帯はその外の社会構造的な部分の影響を受けるというNan Linらの指摘をふまえ、今後はよりsocio metricな調査がされる必要があるとしてしている。最後に、これらの知見を活かしてメンタルヘルスの改善をしようとするinterventionの研究が紹介されている。



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