この論文では、就職とソーシャルネットワークの関係について、因果性の観点から検討している。グラノベッターによる弱い紐帯の研究以降、単に個人的な紐帯を利用して就職する人がどれだけいるのかという点以外にも、こうした就職がフォーマルな就職機関を通じたものより有利かどうかが検討されてきた。特に、人々の紐帯から資源を得るという視点を提供したソーシャルキャピタル(SC)の知見から、職業上の地位が高い人とつながっている場合に本人も利益を得ることが指摘されている。しかし、homophilyの考えを踏まえると、本人が良い条件の就職先を見つけることとその人のネットワークもまた良い条件の職業についている人で囲まれていることは因果性を持たないかもしれない。ネットワークはランダムには形成されないからだ。
次に、バイアスはないが個人属性の依存を考えた分析では、先行研究と同じモデルで検討したが、回答者とコンタクトが同様の職業の場合のサンプルを除くとコンタクトと賃金の関係は有意ではなくなったとしている。最後に、内生性バイアスを考慮したモデルでも因果性を確認することはできず、homophilyによる影響が示唆されている。(最後の部分に関しては再読)
この論文では、アメリカの大規模な女性看護士への調査データ(NHS)を用いて、ソーシャルネットワークとソーシャルサポートが乳がんを中心とする病にどのような影響を与えるかが分析されている。データに用いられたのは、都合4回のパネル調査に協力したサンプルのうち、ネットワークについての質問がされる前に乳がんの症状が診察されたものと、質問が終わった後に診察されたものである。
分析の結果、以下のようなことが分かった。まず、confidant(配偶者)がいるかどうかは乳がんやそれ以外の病に対して影響を与えないが、親友や親戚、子どもを持っていない人は志望リスクが高まることが分かった。特に、親友を持たない場合は乳がん以外の病による志望リスクが高まる。ただし、コンタクトの頻度のリスクとの関係はより弱いものである。また、ネットワークを持たずに孤立した女性の方が結合されている女性よりも志望リスクが高まることも分かった。配偶者の有無が志望リスクに関係しないことは、女性にとっては配偶者ではなく友人や子どもなどがソーシャルサポートの提供者であるという知見と整合的である。
Langlie, J. K. 1977. “Social Networks, Health Beliefs, and Preventive Health Behavior.” Journal of Health and Social Behavior 244–60.
Kawachi, I., and L. F. Berkman. 2001. “Social Ties and Mental Health.” Journal of Urban health 78(3):458–67.
はじめに、CohenとWillsによって提案されたメカニズムが紹介される。これは有名なネットワークがメンタルヘルスに与える二つの効果を述べているもので、一つが紐帯をつくることによって精神状態が向上したり、所属する集団から規範的な影響を受けるなどといった主効果、もう一つがサポート資源を持つという認識がもたらすストレスへの肯定的評価と実際に提供されたサポートによってストレスが軽減するというバッファ効果である。
このようなメカニズムは多くの研究者の支持を得て、ネットワークはそれ自体としてメンタルヘルスに影響を与える因果があると考えられているが、ネットワークはすべての人に均等に分配されている訳ではない。ジェンダーやライフコース、社会経済的な地位によって異なることが次で指摘される。
第三に、社会学において発展しているソーシャルキャピタルの知見が紹介され、従来の研究ではego-centricによる手法が中心だったが、こうした一次的な紐帯はその外の社会構造的な部分の影響を受けるというNan Linらの指摘をふまえ、今後はよりsocio metricな調査がされる必要があるとしてしている。最後に、これらの知見を活かしてメンタルヘルスの改善をしようとするinterventionの研究が紹介されている。
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