October 7, 2019

Is sociology a social science?

今日のプロセミナーはプリンストンに来て当初からお世話になっているダルトンの回。この学部のプロセミナーは「プロ」とつくわりには、特にprofessional developmentの要素はなく、いかにしてファカルティの教員が今の研究をするようになったのかという話で、つまらないときは本当につまらないのだが、今回は面白かった。

彼は当初は「トラディショナルな階層論研究者」としてトレーニングを受けたと言っていて、この「トラディショナル」が何を意味するかは、階層論の研究をしている人ならわかるだろう。status attainment modelである(ちょうど、昼のセミナーでトマスコビッチさんがこのモデルを批判していたのも面白かった)。初期の代表作は2001年にSoc of Edに掲載されたCapital for collegeだろう。この論文の貢献は、従来のstatus attainment modelでは注目されてこなかったwealthがpost secondary schoolの進学に対して影響を持っていることを指摘、さらにwealthによる差が人種間の格差を大きく説明することを主張し、今では300回以上google scholarで引用されている。

その後、彼はNIHポスドクとしてバークリーに2年ほど滞在していたのだが、その間にアウトカムを健康に変えて、BMIやmortalityの研究をしていた。しかし、このポスドク時にbirth weightの報告をしたところ、ある環境経済学の研究者から、母親の栄養状態にのみ影響する操作変数を提案された。しかし、当時の彼はエコノメのトレーニングを受けていなかったので、何を言っているのかわからなかったようだ。

彼は自分の自己紹介をする時に、5年、10年というプランで研究をするのではなく、その時obsessするものを見つけたらそれにとことん取り組むというスタイルらしく当初の研究は人種と富の格差だったのだが、この出会いをきっかけにcausal identificationの道に進んでいく、ポスドク中にエコノメの手法を身につけたらしい。

その後、彼が関心を持ったのがきょうだいと出生順位だった。特に、後者については第一子の性別はおおくの西洋諸国ではランダムに決まるため、子どもの性別が親の価値観に影響するかなどは因果的に確かめることができる。私には何が面白いのかよくわからないところがあるが、彼は基本的にidentificationができるものには強い関心を持つ(その後、かれはベトナム戦争時のロッタリーの研究をしている)ため、子どもの性別もその流れで関心を持ったのだろう。

そうやってひたすら自然実験的なアプローチで因果推論の論文を書いていたのだが、どういうきっかけかゲノムに興味を持ち出し、生物学の博士号を取り直し(!)、今は社会科学にゲノムの分析を組み込む社会ゲノミクスの一人者として知られている。人生、どうなるかわらかないことが、彼の履歴からよくわかる。

そういう変わり者扱いされることのある彼だが、私は彼の科学者としての姿勢に尊敬の念を抱いている。冒頭のあいさつでは、彼はじぶんの昔の研究をrefuteすることが好きで、それができるのが科学者だろう、という趣旨のことを言っていた。社会学が「社会科学」であるためには、自説を否定できる可能性を将来に担保しておくことが必要だと。最近の社会学の潮流からすると、こうした科学的な志向性はやや煙たがれる傾向にあるので、逆に新鮮だった。社会学は多様なアプローチを許容するので、こういう人がいてもいいだろう。私も考えは近い気がする。

さらに、5年計画をしない彼のようなスタイルで、突如としてゲノムに関心を持ち出してリスキーではなかったのかと質問されると、確かにゲノム研究は10年前の学生には勧めなかったという。しかし、今ではゲノムの研究をメインにしても(特に新しい分野に寛容なトップスクールであれば)就職できるだろうと言っていた。しかしながら、そのあとに加えて、確かに10年前にゲノムの研究をするのはリスキーだったが、研究者の仕事は既にホットなトピックを研究することではなくこれからホットになるだろうトピックを研究して、なぜその研究が今後ホットになるべきなのかを説得することだろうと言っていた。この一言はちょっとビビっときた。たまにこの人はすごくかっこいいことを言う。

研究テーマは異なるが、私が考えている社会科学者としての社会学者像に一番近いのが彼なので、2人目のアドバイザーになってもらおうかと考えている。

No comments:

Post a Comment