英語のライティングは難しい。とりわけ、文法的には間違っていなくとも、この文脈ではこの表現が好まれるとか、もっと素朴に名詞の可算/不可算などはいくら英語を読める人でも、なかなか掴めていないのが実状ではないだろうか。
このあたりは、学習時間に比してあるレベルを設定できるというものでもない。例えば、おおよそ社会科学を勉強している人ならば、economicalが「経済学的な」という意味を表さないことは知っていると思う。つい、politicalと同じ調子でeconomicalと書きたくなるが、これはお金の価値に関連した経済的という意味、さらには「節約的」という意味の経済的という意味であり、economicsに関連する形容詞はeconomicだ。こうした似たような言葉の意味の違いなどは、英語教育を何時間受けると(もちろん勉強しただけ知っている可能性は増すだろうが)確実にマスターできるというものではなく、どちらかというとその単語が用いられる分野に親しんでいるかに依存する。したがって、第二言語として英語を学ぶものは特に、ある分野で用いられる単語に関しては詳細な知識を持っているが、異なる分野に関しては不得手、といった事情は少なくないように思われる。以上より、ライティングのコツを知ろうとしても、万人にとって必要とされるものは、限られてくると予想される。ここで想定するのも、社会学やそれに隣接する諸分野を修め、第二言語として英語論文をある程度スムーズに読めるような層という限定をつけた上で、有益となりうる情報かも知れない。
という前置きをした上で、社会科学の人がどう(うまく)英語で論文を書くかというトピックは、自分の関心ではある。同時に、偉そうなことを言える立場ではなく,自分も間違いを繰り返しながらライティングをしている人間である。
日本語の教科書としては、お茶の水大学のジェンダー研究者、石井クンツ先生の書いた「社会科学系のための英語研究論文の書き方」がおすすめ。石井先生は、高校まで日本で、そこから当時としては(今でもそうかも知れないが)珍しく、直接アメリカの大学に進学、そこで社会学のPhDをとり、長くアメリカで指導されてきた。そのため、日本人の犯し易いミスについても詳しい。
また、現在、英語のライティングで使用している教材はWriting Academic English 4th editionで、本当に基本的な文法の説明をしている箇所もある一方、一通りargumentativeやcomparativeなエッセイの書き方を説明した後に、多くの練習問題を載せていたりと、comprehensiveな内容。できるだけ多くの分野の学生をカバーできるようにという配慮も感じられる。
前置きが長くなってしまったけれど、これから、英語のライティングに関して気になった点を、少しずつまとめていこうと思う。
そこで、今日は、「先行研究」について。
まず、先行研究という単語は、どう訳せばいいだろう。自分の中では、決まってこれを使うというのはあるが、今日後輩がpreceding studiesという単語を使っていた。個人としては、多分理解はされるし語法的にも間違っていないが、あまりみかけないという印象。そこで、google scholarで検索してみた。私がよく使うのは、previous researchなので、各単語を組み合わせて、どれが一番よく使われるかを見てみよう。ちなみに、researchは不可算名詞だが、日本人の英語論文にはresearchesが散見されるので、そちらも合わせて検索してみる。
検索結果
"preceding studies" 27,300件
"previous studies" 2,150,000件
"previous researches" 49,500件
"previous research" 978,000件
"preceding research" 7,060件
(2015年1月14日現在)
一応ヒットはするので厳密に間違いであるとはいえないが、precedingよりもprevious、researchesではなくresearchがよく用いられることがわかる。
最もヒットしているのはprevious studiesで、これを使うのが一番無難のようだ。個人的には、見出しにはprevious researchを使用する論文が多い気がする。この二つを互換的に用いるといいのではないだろうか。もっとも、アメリカ社会学会のフルペーパーにprevious researchesと書いて提出している日本人の研究者の論文も散見されるので(あえてリンクは貼らない)、ネイティブにとっては「不自然だが理解はできる」レベルのものなのかも知れない。ただ、researchesは英語のライティングを添削してもらうと確実に直される箇所ではある、経験上。
なので、結論としては、previous research or previous studiesを用いていけばいいのではないかということになる。もちろん、他にもよく使われるこれに類した表現はあると思うので、ダブルクォーテーションをつけてその単語を検索して、よく使われるかどうかという参考基準を便りに、判断していった方がよいだろう。
追記:この記事、それなりに読まれているようで恐縮です、誤記を直しておきました。なんかこのころのほうが異性いいこと言っている気がします、そちらにも恐縮(2016/2/1)
追記:この記事、それなりに読まれているようで恐縮です、誤記を直しておきました。なんかこのころのほうが異性いいこと言っている気がします、そちらにも恐縮(2016/2/1)
1 comment:
predecessor work もみかけますが,少ないでしょうか.
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