April 11, 2015

S院ゼミ第一回:Granovetter (2005) The Impact of Social Structure on Economic Outcomes

文献
Granovetter, M. 2005. “The Impact of Social Structure on Economic Outcomes.” Journal of Economic Perspectives 33–50.

社会構造に「埋め込まれた」経済的行為という視点から、新しい経済社会学のプログラムを提唱した(と回顧されるだろう)グラノベッタ―の論文。以下、引用された論文のメモ。総じて、経済学的が好む分析対象に対して、社会構造(地位やネットワーク)を考慮したモデルを提示する経済社会学的な論文が多い。

Fernandez, R. M., E. J. Castilla, and P. Moore. 2000. “Social Capital at Work: Networks and Employment at a Phone Center.” American journal of sociology 1288–1356.

Freeland, R. F. 2001. The Struggle for Control of the Modern Corporation. Cambridge University Press.

Klein, B., and K. B. Leffler. 1981. “The Role of Market Forces in Assuring Contractual Performance.” The Journal of Political Economy 615–41.

Mizruchi, M. S., and L. B. Stearns. 2001. “Getting Deals Done: the Use of Social Networks in Bank Decision-Making.” American sociological review 647–71.

 この論文では、企業組織の一つとして、銀行におけるメンバーが、企業の取引先と取引を成立させる際に、ネットワークがどのように関与するかを分析している。既存の先行研究から、まず不透明性が高い場合には、既存のネットワークに頼って取引が成立することが仮説として考えられる。次に、ネットワークの構造的な特徴が取引の成功率に影響を与えるという仮説を検証している。現在の行動を条件づける、結果や先行きの不透明性をどのように減少させたり管理するかはSimon(1947)のbounded rationality以来、会社内、会社間の関係を議論する際の鍵となっている。こうした企業における不透明性は民間企業に金を融資する銀行では特に重要になってくる。先行研究から、企業はこうした不透明制を削減するために様々なネットワークを形成していることが報告されている。しかしながら、GranoveterとBurtらの研究によって、企業は不透明性を解消するために形成したネットワーク自体からも影響を受けることが示唆されている。弱い紐帯の理論を踏まえると、弱い紐帯は様々な情報が流れてくる拡散的なネットワークを形成することに寄与する。そのため、弱い紐帯に頼るという一見すると反直感的な決断が有益な結果をもたらすかも知れない。分析の結果、二つの仮説、つまり不透明制が高い場合には銀行は強く結びついている企業との取引を選択する、そしてより拡散的なネットワークにいてそれを使用した銀行員の取引が成功する傾向にあるという仮説が支持された。これは、或る種のパラドックスを意味している。つまり,不透明性が高い問題に対処しようとして信頼している企業と取引しようとすると、取引自体が成功裏に成立するとは言えなくなる可能性があるということだ。これは、行為の意図せざる結果の一つであろうと筆者達は締めくくる。

Morton, F., and J. M. Podolny. 1999. “Social Status, Entry and Predation: the Case of British Shipping Cartels 1879-1929.” The Journal of Industrial Economics.

 経済学者はそれ以外の社会科学者から、あまりにも「非社会化」された個人像を持っていると批判されてきた。こうした批判が意図しているのは、経済的な意思決定は豊かな社会的コンテクストのもとで生じ、決定自体にも影響をあたえるというものである。経済学の対象に対しても徐々に社会的な要因を組み込む努力が向けられるようになり、執筆者の一人であるMortonの研究もその一つとされる。Mortonの研究は新規参入業者に対する略奪的価格設定(Predatory pricing)に関するものであり、口述のlong purse(長財布)仮説を支持しているとされる。これによれば、経済的資源や産業内で経験がないような参入者はカルテルの憂き目に遭うという。しかし、この分析でかけていたのはカルテルに関わることになる新規参入者の社会的アイデンティティについてであるという。本論文では、新規参入者の社会的地位に着目した分析が行われる。

 略奪的価格設定に対しては、そうしたものはないとする楽観的な見方もあるが、経済学者はこれについてフォーマルなモデルを提供してきた。Ordover and Saloner (1990)によれば、略奪的価格設定には大きく分けて三つの動機、すなわちreputation, long purse そしてsignalingがあると言う。社会学では、カルテル自体には関心が向かないが、競争やコンフリクト一般に対して社会的アイデンティティといった概念から分析を加えている。この社会的アイデンティティとは、具体的に言えば行為者が様々な社会的文脈で発達させるaffiliationを意味している。例えば、reputationは参与者が積極的に価格設定に関わることで定義されるため、これも狭義の社会的アイデンティティとして考えられる。もちろん、社会的なコンテクストは複雑である。そこで、この研究では(1)参入企業の指導者の社会的地位(social status)、及び(2)会社の地域的なaffiliationを基準として操作化している。

 生産者側の市場をベースとした関係に対してsocial statusとregional affiliationの二つを導入しようとしたのがGranovetter(1995)である。彼はカルテルとしてのビジネスグループをmoral communityであるする。彼は、歴史資料の分析からrenegadeされた(追いやられた)ものがカルテルの交換を成立(set terms)させたり一方的な(片務的な)保険協約(pooling arrangements)をする能力を脅かすと主張した。これに加えて、参入者の社会的な属性が協力的か非協力的か等の判断に用いられることもある。例えば、将来の見通しが不透明な場合、自分と似ている新規参入者やネットワークの中にいるものから選ぶのはある意味で合理的な選択になる。

 このような先行研究の知見をまとめると、新規参入者と既に地位を固めた企業との対立は、挑戦者側の社会的アイデンティティ如何によってくるという可能性がある。彼等の仮説は以下のようなものである。もし新規参入者の社会的地位が低く、またグループにいる関係者の地位と異なるのであれば、よりカルテルから排除される可能性が高くなる。彼等はこの仮説を証明するためにイギリスの船業カルテルの歴史資料を例に分析を試みる。

Mouw, T. 2003. “Social Capital and Finding a Job: Do Contacts Matter?.” American sociological review 868–98.

 この論文では、就職とソーシャルネットワークの関係について、因果性の観点から検討している。グラノベッターによる弱い紐帯の研究以降、単に個人的な紐帯を利用して就職する人がどれだけいるのかという点以外にも、こうした就職がフォーマルな就職機関を通じたものより有利かどうかが検討されてきた。特に、人々の紐帯から資源を得るという視点を提供したソーシャルキャピタル(SC)の知見から、職業上の地位が高い人とつながっている場合に本人も利益を得ることが指摘されている。しかし、homophilyの考えを踏まえると、本人が良い条件の就職先を見つけることとその人のネットワークもまた良い条件の職業についている人で囲まれていることは因果性を持たないかもしれない。ネットワークはランダムには形成されないからだ。

 このように考えた筆者は、SCを就職に効果があるものと効果を持たないspurious(偽物)の二つに分けて、因果性を検討している。モデルとしては、求職者が最低限受入れることのできる賃金を設定し、その額よりも高ければオファーを受けるsequentialモデルとオファーを全て受けてから最良のものを選ぶというextensiveの二つのモデルが提示されている。分析のレベルでは、①コンタクトを通じて就職することがSCのレベルに対して内生性バイアスを持つかどうかで分かれる、さらに①に対して持たないと考えた場合には②コンタクトの効果は求職者の個人的属性に依存するかどうかでさらに二つ、合計3つに分かれた分析がされている。まずバイアスも個人属性への異存もないと考えた時の分析では、コンタクトと賃金や仕事の満足度への関係は見出せなかった。これは低賃金の人がcontactを通じた就職をするという傾向の影響を受けているかという検討がされる。失職中だったかと自分で仕事を探したかで4つの変数を加えると、雇用されていて仕事を探さずに転職した人の賃金は高くなることが分かった。(これに関しては今後の検討課題とされている。)

 次に、バイアスはないが個人属性の依存を考えた分析では、先行研究と同じモデルで検討したが、回答者とコンタクトが同様の職業の場合のサンプルを除くとコンタクトと賃金の関係は有意ではなくなったとしている。最後に、内生性バイアスを考慮したモデルでも因果性を確認することはできず、homophilyによる影響が示唆されている。(最後の部分に関しては再読)


Shleifer, A., and L. H. Summers. 1990. “The Noise Trader Approach to Finance.” Journal of Economic Perspectives 19–33.

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