休暇中ということも手伝ってか、最近は他分野の人と接する機会が多い。手段は色々あって、勉強会で一緒になるというのもあるし、共著論文を書いている、あとはヘルプでワークショップの現場を見たりというのもある。一番ラフな形は、研究会に出た後の飲み会で話すこと。
思いつく限り、ざっとあげてみると、経済学、政治学と言った隣接分野に限らず、疫学、工学、アメリカ地域研究、哲学といった人たちと触れ合う機会に恵まれた。
話してて感じるのは、それぞれの分野におけるカルチャーというか、考え方の方みたいなものと社会学のそれとの違いである。違いを感じた例としては、以下のようなものがある。
工学の人のワークショップを手伝った後に、今後の方針について話した時だった。間にいた第三者の人に言わせると、工学は最終的に何かを解決することに主眼があるので、仮に手法的にやや粗雑なことがあっても、目的が達成できていればよいという考えになりがちであるという。一方で、社会学では提言的な部分はそこまで重視されないので、研究者コミュニティの中でも基礎的な分析の価値が認められているという。
この話を聴いた時に、社会学では方法が大事だという指導教官の言葉を思い出した。私の理解では、社会学では必ずしも一に解決すべき問題を特定してから調査をするということは少ない。もちろん、研究資金の獲得などの事情で、「この調査でこれが分かる」という構文をとることはあるが、それは先行研究との照らし合わせの中から分かってきた研究の方向性くらいの意味で、具体的には、「近年、非正規雇用の問題が取り沙汰されているので、この問題を階層論の枠組みで調査・分析する」くらいのものなのではないかと思う(もちろん、しっかりA→Bの関係を確かめるための調査、というのもあると思うが、社会調査は一つの命題を明らかにするだけとしてはちょっと労が多い手法かも知れない。分析的・仮説検証的な命題は、どちらかというと二次分析の時に建てられることが多いような気がする。そこでは、仮説検証に適したデータがアーカイブから求められる)。
このように、何かのメカニズムを明らかにしたり、それを具体的な政策に落とし込むという意識から比較的自由な位置に(少なくとも、これまでの)社会学はあった(これから変わっていく可能性はある)。これに加えて、もともと知りたいことの実態視が難しいケースも、多い。具体的には、社会意識を聞くタイプの調査では、そもそもの問題として「何となくあるのは分かるけど、どう測るの?」という場合が散見される(他には、ソーシャル・キャピタルなど)。
経済学などの人から見るとこうした「怪しい」指標を使っている場合も含めて、社会学の問題関心は、その目的変数と研究成果という点から考えると、他の学問分野よりも、割と「ふわっと」していることが多いのかも知れない、というのが最近考えていることである。経済学では賃金に着目するところを、我々は階層意識や階級と言い換えるし、疫学が色々なスコアで健康指標を測定しようとする一方で、我々は満足度や主観的健康間を用いている。そして、工学と違って、何かを解決しようとして問題を設定することもまずない。
このように考えていくと、なんだか社会調査はためにならないようなことばかり聞いていると思われかねない。確かに、それは一理あるかもしれない。ただし、それは研究成果が即応用研究や具体的な施策に結びつくようなご利益的側面が比較的薄いという面では、そうであるというだけだ。個人的には、基礎的な調査にもそれなりにアドバンテージはあると思う。例えば、A→Bの因果関係を特定しようという潮流の中で、実はCもBに影響しているのだ、という第二・第三の作用の発見(これを、社会調査の発見的作用と言いたい)は、あえて因果関係を一から特定化しないことによって得られる利益である。もちろん、これは社会調査に限らず、歴史的な分析でもその他の質的な手法でも、同様の側面があるだろう。
さて、回り道をしてしまったが、いわゆる「社会学では方法が大切だ」という話に戻る。若干、戯画的に描いていると言われても仕方ないが、ここではひとまず、社会学では何かを解決する志向や、はじめから確認されるべき因果関係を厳しく設定せずに、調査をすることがあるとする。この場合、重要になってくるもう一つの指標が、調査の質の担保であると考えられる。仮にオープンな問いで調査をする場合、この調査は将来的に他分野の研究成果との恊働も含めて、様々な他者に参照・応用される可能性を秘めている。こうした社会学の特定の利害から比較的自由にいられる立場では、逆に調査の質の基準として、サンプリングの代表性やモードの選択、様々なバイアスなどに注意することが重要になってくるのではないだろうか。目的が曖昧だからこそ、方法は徹底的にやる。社会学には、無意識のうちに共有されてきた、そうした姿勢があるのかも知れない。
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