August 18, 2012

どのような既婚女性が就業しているのか,という問題についての自分のスタンス

M字カーブという言葉は人口に膾炙しているだろうから説明する必要はないだろう.(主に日本において)女性が結婚後に仕事を退職する結果,女性の労働力率が子育て期間において相対的に減少することだ.

昔の女性労働力率の図を見るときれいなM字を描いていたが,現在は既婚女性でも就業することが多く,谷底が上に上がったようなグラフになっている.それでも,アングロサクソンや北欧の国に比べれば,子育て期間だけ労働力率が低い状況は続いている.

データを見て確認してみよう.


厚生労働省が発表している『平成22年版 働く女性の実情』のページから引っ張ってきたデータだ.(URLは参照文献に記載している.

赤線の平成22年と黒線の平成12年に絞って見ていきたい.
10年前に比べて,20代後半から30代前半にかけて女性の労働力率が上昇しているのが分かる.20代後半では約8ポイント,30代前半に至っては10ポイント近くも上昇している.やや古いデータを用いて分析した岩間(2008)は「このような女性の労働力率の伸びが晩婚化や未婚化をもたらすと同時に,晩婚化や未婚化の進展が女性の継続就業を促している」と述べている.

ここでのポイントは,M字カーブは依然として存在し,女性の就業に出産や子育てが影響してることは見て取れるものの,その状況は変化しつつあるということになる.

次の図は女性の労働力率を配偶関係との関連で分けてみたものだ.

こちらも先の厚労省のデータから拝借した.

これを見ると,先に注目した20代後半から30代前半の女性のうち,既婚女性が就業率上昇に寄与していることが分かる.未婚女性に関しては,10年前とほとんど差が見られない一方で,有配偶女性の労働力率は10年前に比べともに10ポイント近く上昇している.

それでも,30代後半になると平成22年も平成12年でも労働力率は上昇し,同じようなカーブを描くようになる.M字カーブ自体は,家庭でケア役割を担った女性が職場復帰することによって説明できるだろう.ちなみに,これの古いデータを分析した岩間(2008)の段階では,30代前半の女性の労働力率は10年で44.5%から47.4%に上昇するにとどまったことから,仕事を優先するのは20代のうちと言及してる.

これは既婚女性の話をしているので,未婚,晩婚の話というよりかは,理由はまだ分からないにせよ,既婚女性は20代後半から30代前半という子育てをすると思われる時期においても労働を選ぶようになってきたということになる.それは夫の収入が減少したからかもしれないし,もしかすると子どもを持たなくなったからかもしれない.下記の共働き世帯の増加は,バブル崩壊以後の男性の安定雇用の減少の中で稼得役割を担う女性が増加したことを思わせる*.




このように見ていくと,具体的にどのような女性が就業を選ぶようになったのかとう疑問がわいてくる(わいてほしい.

つまり,全体としてみたときに,未だにM字カーブは残っているのだが,子育て期にある有配偶女性の労働力率上昇にともなって底が浅くなくなってきている.共働き世帯の増加は,男性だけの就業では世帯収入を十分に確保できなくなった昨今の格差社会の事情が見て取れるが,実際のところどうなのだろう.岩間(2008)では,社会学が重要視する学歴や子ども数といった変数を用いることによって,この疑問に応えようとしている.「結婚と家族に関する国際比較調査」を用いて分析した簡単に彼女の識見を引用させていただくと,

・ジェンダーに基づく性別役割分業が根強い国では,ダグラス=有澤の第一法則,すなわち核となる収入を持つ世帯成員の年収が低い家計では,非核的な収入を持つ構成員の就業率が高くなる.この場合は,ブレッドウィナーたる男性の収入が低い世帯では女性の労働力率が高くなるということになる.
・分析の結果,夫の年収や家のローンは妻の就業確率に影響を与える.年収が高いと就業確率は抑えられるし,ローンがあると確率は高くなる.
・子ども数は就業確率に影響を与えないが,3歳以下の子どもの存在は確率減少に影響する.
→「既婚女性の就業行動は家族の経済的地位と家族要因の双方によって規定される」(120)

また,彼女自身が「興味深い知見」と述べるのは,「子ども数の及ぼす影響が年齢階層によって異なる点である」(122)

20代,30代では子ども数の多さが就業を抑制する一方で,50代では逆に,子ども数が多いほど就業が促進されているというのだ.前者では子育て,後者では専門的な教育を受けるようになった子どもの教育費や老後の貯蓄のために,子ども数が異なって影響すると述べながら「このような分析結果は,既婚女性の就業がライフ・コース上の主要な問題の課題のありよう——ケアなのか,教育費や老後の費用なのか——によって決定される実態を示している」とする.(122)


また,学歴はどの世代でも有意ではないようだ.この分析結果は,既婚女性の就業は子育てとの関係で決定されることが多く,女性は出産,子育てによってケア役割の遂行が期待されている日本の家父長制的な秩序を示唆しているとする.




個人的には,学歴が既婚女性の就業に影響しないというのが意外だった.

常々,自分はフェミニストではないと思っているし,言明しているが,せっかく自己実現を求めて高等教育に進んだ女性も,結婚すると,やれ子育てだ,やれ夫の転勤だで,学歴達成としての正規労働を棄ててしまう(そしてそれは,子育て後の再就業がほとんど非正規労働でもあるという意味でもある.)のは,果たして「男女共同参画社会」なのだろうか.

男女共同参画の英語表記は Gender Equalityである.ジェンダーによって社会経済的な差別を受けない社会を指すとすれば,今の日本がジェンダー平等かと言われると,様々な点でNOだろう.

ただ,高等教育を受けた女性が一律,就業し続けたいのかと言われると,それも違うだろう.恐らく「働く/働かない」「産む/産まない」の自由は互いに独立して選択されるはずだし,そうであるべきだと思う.(この社会が,本当に自由な社会ならば

私個人としては,「東大まで行って」専業主婦になる女性が,いくら経済的に不合理だろうと,構わない.個人の選択は,国の政策や市場の合理性に基づいて正当かどうか判断されるべきではない,個人の意志はそれらとは独立して尊重されるべきだと思っている.

問題は,そうした秩序に現在の日本はなっているかということ,ではない←
社会学をやっている身としては,秩序の妥当性云々を語りたいが,それそのものが難しい.
つまり,秩序という言葉には,一定の「望ましさ」が含まれている.先の言説に従えば,「男女が性別によって差別を受けずに,意思を尊重しあえるような社会」となろう.
秩序には望ましさが内包されている以上,政策的なインプリケーションは,価値判断を含まざるを得ない.
それはすなわち,そのような秩序はどのようにして決めればいいのか=秩序を決めるのは誰か,という問いを引き起こす.

ひとまず,誰がどのように秩序を決めればいいか,答えを出したとしよう,それでも次に待ち構えるのは,「そのような秩序の決め方を決めるのは誰か」であり,その次に来るのは「そのような秩序を決める決め方を決めるのは誰か」,その次は...と,無限のゲームが続くことになる.

赤川先生は,Weberの「職業としての学問」を引きながら似たようなことを述べ,客観性に担保された学問に身を投じるものといえども,そのような秩序問題にコミットすることは避けられないのだから,一定の信頼が置ける「客観的な」データを提供していく,そのような真摯な姿勢が肝要だと言う.私も全く賛成で,私自身フェミニストではないが,先のような秩序を望みながら,そしてそれを一つのモチベーションにして勉強している,その時点で客観的なのかと言われるとはなはだ疑問であるが,(とは言っても,疑問に思わないくらいには,自分の政治的なイデオロギーは薄いと思う)それでも,日本の現状を捉えることに真摯であること,これさえ満たしていれば,いろんな人に世話になりながら,金にならない勉強をし続けてもいいような気がする.間違っているだろうか.







*ここまで,女性がケア役割を担うとか,男性の安定雇用とか,本当は前提をおいた方がいい話をしているのだが,ブログという性格の都合上,日本の家族がどのような構造を持って推移してきたかという歴史的な説明は省略しているのでご配慮願いたい.

参照文献
岩間暁子,2008,『女性の就業と家族のゆくえ』,東京大学出版会 より第二章「女性の就業と福祉レジーム」及び第四章「どのような女性が働いているのか」
厚生労働省雇用均等,児童家庭局編,2011,『平成22年版 働く女性の実情』
URL: http://wwwhakusyo.mhlw.go.jp/wp/index.htm
内閣府,2011,『男女共同参画白書 平成23年版』
URL: http://www.gender.go.jp/whitepaper/h23/zentai/index.html

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