August 13, 2012

筒井淳也, 2007, ソーシャルキャピタル理論の理論的位置づけ, 立命館産業社会論集 42(4), 123-135


筒井淳也, 2007, ソーシャルキャピタル理論の理論的位置づけ, 立命館産業社会論集 42(4), 123-135

キーワード:社会関係資本論,効率性,公平性

1.社会関係資本論の二つの流れ
a.社会的な共有材としての社会関係資本(Coleman, Putnam)
 社会関係資本を一定の機能をもたらす特定の社会構造とみなす
 ex.成員の相互行為の密度が犯罪率という機能面での相違に帰結する
 but, 社会関係とそれがもたらす帰結(便益)との関係を理論化することが難しい*.
b.個人が持つ社会関係としての社会関係資本 (Granovetter, Lin)
 この定義から,Linは社会関係資本を人的資本(効率性をもたらす人の教育年数など)や文化資本(階層の再生産に関わる文化や教養)と関連づけようとする.

2.どこから「公共」なのがいいか?
Linの理論的出発点
a.個人的資本 個人が所有権を持つ資本
b.社会関係資本 個人が関係を持つ他者を通じてアクセスできる資本
c.公共的資本 広義の社会関係資本,ただし上記と異なり個人に所有権が帰されていないため,アクセスに関して複雑なルールを必要とする.

→アクセスや利用に関するルール=コストなので,優位関係はa>b>c
but, この理論は取引費用の問題を見逃しているため,個人的資本と社会関係資本の配分の望ましさについて回答できない.
公共経済学>所有権(自分で生産したものは自分のものという業績主義に基づく)の確定性問題→ここの資源の特性(ここでは下記の二つ)に応じて決まる.
排除可能性 E:使用,アクセスを排除できること.
競合性 R:同一資源の複数人による利用がその資源の価値を減じること
E+/R+ 私的財 所有権を明確に規定できる
E-/R+ or E+/R- 公共財 (前者は共有地,後者は有線放送など)
E-/R- 純粋公共財 (道路など)

公共経済学では,アクセスに対する制限や競合性緩和のための規制などにより私的材と公共財との間の線引きをどのようにすれば,社会全体の利益になるかを問題にすることが容易.

3.役得とコネ:不公平な社会関係資本
Linが考える社会関係資本の効果
・情報:関係を通じて得られる役に立つ情報
・影響力:関係を通じて得られるコネによる影響力
・社会的信用:関係によって得られる信頼
・強化:関係によって得られるメンタルサポート

これらほとんどが公平性や効率性の観点から見ると望ましくない効果をもたらす.
地位に就くことから生じる副次的効果なのでアンフェア**

4.「おいしい」ポジション:構造的空隙とレント
構造的空隙 (Burt) お互いに関係を持たない接触者を結ぶネットワーク上の位置
これがもたらす効果
・情報利益:A-B-C(-は関係を表す)のネットワークの中で,AとCは直接つながっていない.(コンタクトが互いに重なっていない)これは,A-B-C-A… のネットワーク(全員互いに知り合い)と比べて,ネットワークから得られる情報の多様性(=優位性)をBにもたらす.
・統制利益:互いに関係を持たないコンタクトとの交渉において漁父の利的なつり上げ交渉ができる.

こうしたネットワークを雇用関係に応用させると,構造的空隙の優位性は不完全競争市場においてのみ機能する.(雇用者が被雇用者の能力を完璧に評価できないケースなど)
ex. レント・シーキング 社会関係(この場合コネとか)を使うことによって不完全競争市場における賃金水準の非効率性の問題を解決する.=インフルエンス・コスト(上司に媚を売ってばかりで何も生産性を増していない)

この理論は,社会全体にも応用できる可能性を持つ.

5.「市民社会」の不公平分配
Putnam流の集合的機能としての社会関係にも不公平の問題を指摘できる.
ex. コミュニティの自発的な人間関係が地域の信頼(機能)を生み,犯罪率の低下をもたらす(便益)場合,そうした人間関係を構築することに対するコストが公平に分配されないケース

「『市民社会』や『コミュニティ再生』を重視する言説のなかには,その恩恵にのみ触れつつ,市民社会の創出と維持にかかるコストを度外視しているものが多い」(131)
ex. 夜の見回りを地域ネットワークでするにしても,誰がするかというコスト負担の問題が生じる.

→社会関係資本の恩恵が不公平に分配される問題に対する研究が求められる.



*機能という概念自体にすでに「望ましいもの」という意味が込められている.例えば信頼や規範は機能だが,そこではある社会構造が一定の機能をもたらすものとして定義されている.つまり,社会構造から機能への抽象化の時点で,望ましいものかどうかという検問を通っていることになる.そこでは,「望ましいものが望ましい便益をもたらす」というトートロジーが起る,理論的欠陥を抱えることになる.
この理論を精緻化するためには,逆機能(アノミーなど)が便益をもたらすかどうか,もしくは社会構造が便益をもたらすかどうかに関して,構造の機能的な性質は関係ないのか,考察しなくてはいけない.

**この辺りは分析が甘いように感じた.役得情報がもたらす非効率性について,インサイダー取引以外特に説明がないし,影響力に関してはマイナスとは限らないとまで言っている.社会的信用に関しても,それが個人の能力を単純化して示すという意味でポジティブに評価しているように思われる.ただし,後述されているインフルエンス・コストは配分の非効率をもたらすので公平ではないと補足されている.

【感想】
経済学の理論が引用されている箇所は難しかった.ただ,全体の論旨としては社会関係を利用することによって生じる不公平分配の問題を提起しようとしたという点では一貫しているので,さっぱり分からないという訳でもない.社会的なるものの公共性,公平性を考えるにあたって,示唆的な論文だった.

ちなみに,筒井さんは出口先生と学部時代同じゼミに所属していたらしい.


No comments:

Post a Comment