May 10, 2017

アメリカにおける人種間の差別的出生力と世代間移動の関係

Mare, R. D. 1997. “Differential Fertility, Intergenerational Educational Mobility, and Racial Inequality.” Social Science Research 26(3):263–91.

近年、社会階層論ではこれまで採用されてきた標準的なアプローチ(親と子どもの地位を1対1対応の関係で考える)に対するオルタナティブとして、親世代の社会経済的地位の分布(distribution)が子ども世代の分布にどのような影響を与えるかという「マクロ」な現象に注目が集まっている。本論文は、それの走りとなったもの。

背景としては、Herrnstein and Murrayが1994年に発表した「ベルカーブ」の議論が下敷きにある。すなわち、アメリカの全体としての知的水準は、知的能力の低い低学歴層の多出生によって減少しているという説を唱えた。

「貧乏人の子沢山」という言葉があるように、基本的に学歴が低く貧しい家庭ほど出生力は高く、子どもの学歴も低い、反対に豊かで学歴の高い家庭ほど低く、子どもの学歴は高い。それでは、仮に学歴間の出生力格差がなかったとしたら、平均的な教育年数はどれくらい変わったか。あるいは、出生率が現在のように低い状態が歴史的に続いていたとしたら、どうなっているのか。これが本研究の問いになっている。

本論文の対象は1925年から1995年までのアメリカ人女性の出生力になっている。これまでの先行研究に比べて、この論文の特徴は三つあるとされている。
第一に、職業達成や所得ではなく、それを規定する学歴に着目している点。ただし、論文では学歴分布は出生力の結果としての需要に対応するべく変化する、つまり何らかの理由で学歴の供給が制限されるとは考えない。
第二に、出生力の水準(level)とタイミング(timing)の二つを峻別している。これは、学歴や人種によって最終的な出生以外にも結婚タイミングが異なるためであり、このタイミングの違いが分布に影響している可能性があるためだ。
第三に、論文では均衡点を見つけるのではなく、70年の歴史の中で出生力が学歴達成に与えるマクロな影響を評価する。

分析では、初期分布を定めたマルコフ連鎖的なシミュレーションを行なっている。すなわち、t時点の5年区切りの年齢グループの人口がt+5時点の人口に影響するというモデルを想定している。具体的には、
MtPt=Pt+5
MtはRAxRAからなる行列で、Rは学歴集団の数、Aは年齢グループになっている。
PtはRAx1からなるベクトルで、t時点の学歴・年齢別の人口を指す。
Mtに対して新たに女性が子どもを持ち、その子どもが次の時点まで生き延びる確率Bと女性自身が生き残る確率Sを設定して、シミュレーションを行なっている。Sを指定しているので、この分析は学歴別の出生力(水準・タイミング)だけではなく死亡格差についても扱っていることになる。

初期値からスタートして
・社会移動
・死亡
・出生水準
・出生タイミング
の四つのパラメータを設定し、これを観察値から仮想的な値に変化させた時に、1995年時点の白人と黒人の平均的な教育年数がどれだけ変化しているかを問う(分布→分布とあったが、実際には分布を平均値で代表させている)。社会移動については完全移動や完全継承など、複数のシナリオを想定して結果の変化を見ている。

はじめに、社会移動(母娘の地位の連関、これ自体は社会調査データから推定値を導いている)が観察値だった場合、死亡、出生水準、タイミングの中でも、出生水準を固定(高卒水準に設定)した場合に、平均的な教育年数が白人で0.18年上昇することがわかった。変化自体は小さいが、その変化の主要因は学歴間の出生水準の違いによって引き起こされていることがわかる。

次に、白人と黒人の出生力が以前から1990年水準だった場合に、分布がどう変化するかが検討されている。1990年時点の出生力格差は人種間で異なる。まず白人については、格差が縮小した(=ブームが到来した)戦後以降、格差は最大になっている(が、恐慌期よりは小さい)。黒人については、負の関連が明確に見られなくなっている。このような違いを反映して、結果も白人の場合には出生力の固定は観察値とほとんど差がない一方で、黒人の場合には0.18年分教育年数を押し上げる効果を持っている。

最後に、社会移動の効果について検討している。完全移動(complete mobility)はどのような学歴の親の元に生まれようと、ランダムに本人の学歴が決まるため、死亡率や出生水準・タイミングを考慮してもしなくても結果は変わらない。反対に、完全継承(complete inheritance, immobility)の場合初期分布に完全に依存するため、学歴はかなり低い水準にとどまっている。より重要なのは、完全継承の場合に学歴間の出生格差の影響は最も強く出る。

そのほか、親子の関連(association)は変わらないがそれぞれの学歴の分布は変わるrelative constatn mobilityと分布も変わらないconstant mobilityも検討されているが、出生力や死亡をどのように変化させても、結果は観察値とさほど変わらない。アメリカの社会移動の程度は安定的であり、この傾向が続けば学歴間の出生力格差が平均的な教育年数に与える効果は限定的だと考えられる。

分析結果から、確かに学歴間の出生格差は学歴の高い子どもの出生を抑制し、学歴の低い子どもの出生を促進させているため、平均的な教育年数の減少に寄与しているが、それは(同時期に生じた教育拡大に比べれば)非常に小さなものであることがわかった。また、出生水準の格差が重要であり、タイミングや死亡率はそこまで格差に寄与していない。

また、社会移動の程度によって、学歴間の出生力格差が平均教育年数に与える影響は異なる。最も出生力格差の影響が「小さい」のは完全移動の場合であり、最も「大きい」のは完全継承の場合になる。実際はその間な訳だが、アメリカの安定的な社会移動によって、親子の地位は比較的開放的なまま推移しているため、完全移動の場合と観察値の結果はそこまで違いが生じていないことが明らかになった。

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