Torche, F. (2015). Analyses of Intergenerational Mobility An Interdisciplinary Review. The ANNALS of the American Academy of Political and Social Science, 657(1), 37-62.
Torche, F. (2011). Is a College Degree Still the Great Equalizer? Intergenerational Mobility across Levels of Schooling in the United States1. American Journal of Sociology, 117(3), 763-807.
前者の論文では、社会移動と経済移動(Social MobilityとEconomic Mobility)の二つの世代間移動について議論している。前者は社会学者によって、後者は経済学者によって研究されている領域である。社会学者は、職業を移動指標として好む一方で、経済学者は所得・収入に注目している。後者の代表的な例は昨今話題のPikettyだろう(他には、Emmanuel Saez,Raj Chettyなど)。そう考えると、21世紀の資本の議論は社会学の移動研究と非常に近い距離にあることが分かる。職業を階級と地位に概念化した社会学の移動研究は60年代から盛んに行われているが、経済学における移動研究はこの20年の出来事らしい。
筆者は以下の四つの指標を用いた移動研究を紹介する。順にOccupational Status, Class, Earnings, そしてFamily Incomeである。これらの指標ごとに特徴はあるが、実利的なメリットとしては、例えばStatusの場合、収入などに比べて記憶され易く、信頼性が高い。いわゆる SESとして測定可能なものとして概念化されたStatusはアメリカの社会移動研究でよく用いられたが、地位では女性の方が男性よりも高い者につく傾向にある一方で、収入は逆を辿るという説明しにくさを克服できていないという。
Statusは階層的・連続的な指標として成立した一方で、Classは質的な変数である。これは、単一の階層的な次元に還元できないことを意味している。すなわち、Classという概念には表面的ではない水準の不平等を表現しているとされる。Statusや他の指標と異なって、Classの場合には質的な変数という条件のため、ログリニア分析などが用いられる。
Earningsは世代間の所得の移動を線形的に処理する。ここでは、回帰分析をした時に、親の所得の変化が子どもの所得の変化を部分的に説明することを指している。所得の問題点は、変動が激しいためたった一年やそこらのデータから得た所得だけを持って世代間の相関を見ても誤差が激しくなることが挙げられている。これに関しては、何年もデータを取る他ない。それ以外にも、年齢やライフサイクルにまつわるバイアスによって測定誤差が生じる危険性がある。
こうした所得の移動関係は親子の二者に注目していたが、徐々に世帯収入(Family income)と同類婚を考慮する必要が提起されて来た。Torche自身は先行研究をもとに、以下のように主張する。
Much research links analysis of women’s mobility with the question of assortative mating. Chadwick and Solon (2002) examine total family income mobility for sons and daughters and include the contribution of assortative mating to intergenerational persistence using a model introduced by Lam and Schoeni (1993). They find an income elasticity of around 0.4 for daughters and around 0.5 for sons. They also find that assortative mating based on social origins plays a crucial role for both genders, but a stronger one for women because a spouse’s contribution to household income tends to be larger for women than for men….In summary, research shows that the persistence of total family income is stronger than the persistence of individual earnings, and that assortative mating substantially contributes to intergenerational persistence for both men and women. This suggests that the family, rather than the individual, is a relevant unit of intergenerational stratification for both genders.
これら4つの指標は必ずしも同じような結果をもたらさない.Beller and Houtによれば、これらは社会経済的なadvantageの異なる側面を明らかにしている.アメリカは収入と所得の面では最も移動がないとされているが、階級移動という点ではある程度の流動性を持つ。また、イギリスでは階級移動は1958-1970年コーホートの間で変わっていないが、income mobilityは低下傾向にあるという。Blandenらの研究成果によると、この背景には階級で説明できない側面の収入の変化があるという。この例に限らず、四つの指標同士は多様で、相互の指標官の関係をめぐって議論がなされている現状を指摘する。また、世代間の指標の連関の強さは一様ではなく、例えば上層においては強く下層においては弱いなどの結果が吉良かになっている。
本人は明確に言明していないが、こうした非線形性を指摘した研究として、Torcheの後者の論文に注目できる。これによれば、階層研究が明らかにして来たことの一つに、親の資源の子どもの経済的なポジションに対する直接的な影響は大学卒業者の間でそれ以下の教育程度のものよりも低いか、全くないまでになっているというものがある。Torcheは1980年代までに明らかにされたこの結果が、教育年数の多寡という直線的な指標から同じ学歴内における差(分野別、選抜度別)という現代のトレンドをふまえてもなお通じるかを、先の上述の4つの指標を5つのデータを用いながら明らかにしている.分析結果は、これまでの知見を支持するものであるが、親の影響は学士以上の学歴を持つものの間で再び強まる傾向にあるという.親の影響力は、学士号保持者より修士号・博士号保持者にとって、選別性や分野、所得に強く影響するという。
以下、気になった文献をリストアップ。
Chadwick, Laura, and Gary Solon. 2002. Intergenerational income mobility among daughters. American Economic Review 92 (1): 335–44.
Beller, emily, and Michael Hout. 2006. Intergenerational social mobility: The United States in compara-tive perspective. The Future of Children 16:19–36.
Blanden, Jo, Paul Gregg, and Lindsey Macmillan. 2013. Intergenerational persistence in income and social class: The effect of within-group inequality. Journal of the Royal Statistical Society 176:541–63.
Björklund, Anders, and Markus Jäntti. 2000. Intergenerational mobility of socio-economic status in com-parative perspective. Nordic Journal of Political Economy 26 (1): 3–32.
Ermisch, John, Marco Francesconi, and Thomas Siedler. 2006. Intergenerational mobility and marital sorting. Economic Journal 116:659–79.
Hirvonen, Lalaina h. 2008. Intergenerational earnings mobility among daughters and sons: evidence from Sweden and a comparison with the United States. American Journal of Economics and Sociology 67 (5): 777–826.
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Pedulla, D. S., & Thébaud, S. (2013). Can we finish the revolution? Gender, work-family ideals, and institutional constraint. American Sociological Review 80(1).
この論文では、実験調査データを用いて、独身で子どもを持たない男女を対象に、就業継続以降とワーク・ファミリーバランスについての考えと企業の両立支援策の影響の関係を見ている。質的な研究から、女性の方が男性に比べて企業が両立支援を目指すサポート策を提示した時に、就労継続を希望する傾向にあることが分かっていた.この論文では、この知見を実験的な手法で検証したものである。
対象者は3段階に分けられた選択肢の中から、将来の配偶者とのワーク・ファミリーバランスについての質問をされる。
第1の段階では、選択肢は結婚せずに自立する、夫に稼得労働を依存する、妻に稼得労働を依存するの3つのタイプがある。
第2の段階では、これらの選択肢に夫婦で平等なだけ働くという選択肢が追加される。
第3の段階で、これらの選択肢に加えて、「企業の両立支援策」が提案される。
分析の結果は従来の知見を概ね支持するものであった。まず、第1の段階においては、男性において選択の階層差が見られる。低階層男性では自立よりも夫依存を選ぶ一方で、仲介そう異常になると自立を選ぶ。これは、低階層(労働者階級)の人々が未だ伝統的な家族間を保持しているからだとされている。
第2から第3の段階で、男性は平等主義を選ぶ割合に変化はないが、女性は階層差を伴わない形で、平等主義への移行が見られる。これは、女性にとっては企業の両立支援策が平等主義への移行にとって重要な鍵になることを示唆しているとする。