September 11, 2019

学期初日

というわけで、晴れてプリンストンでの大学院生活がオフィシャルにスタートすることになった。初日からなかなか忙しく、疾風怒濤という言葉が似つかわしい。

まず、9時からTAをすることになった授業に出る。ちなみに、プリンストンではTAではなくAssistants in Instruction(AI)と呼ばれる。人工知能ではなく、ただのTAである。

TAをすることになったのは、マット・デスモンド教授の「アメリカにおける貧困」である。デスモンドさんは、おそらく今のアメリカで最も有名な社会学者の一人といっても大げさではないだろう。彼は博士課程をウィスコンシンで終えたのだが、彼のアカデミックな貢献はEviction(地主による賃貸住宅に住む居住者の強制的な退去)を貧困研究の俎上にあげたことにある。彼が登場するまでは、人口のうちどれだけの人が強制退去を経験するか、数字すらもよくわかっていなかった。彼は2年近いフィールドワークと独自に集めたデータに基づき、強制退去が我々が想像する以上に頻繁に生じていること、およびこの退去が貧困の結果ではなく、貧困を生み出す要因にもなっていることを指摘した。アメリカで「天才賞」と呼ばれるマッカーサーアワードにも選出され、彼の博士論文を元にしたEvictedは、ノンフィクションの作品として2017年のピューリツァー賞も受賞している。このように、彼の業績は社会学という枠でくくるのが難しいくらい影響力が大きいものだ。さらに、学術的な研究にとどまらず、彼は居住権を確保するためのパブリックな議論にも参加している。博士号取得後はハーバードで教えていたのだが、数年前にプリンストンが冠教授ポスト+Eviction labをつくるという条件で引っ張ってきた。このラボでは、全米におけるevictionのナショナル・データベースをつくっている。

私は実質1年目なのでティーチングはしないつもりだったが、私が所属している2年生コーホートの数が少なく、今回この授業の履修者も多かったという事情が重なり、TAをすることになった。不安しかないが、とにかくトライするほかない。彼の50分のレクチャーはエネルギーに満ちていて、聞いていた学生たちに、evictionが貧困の再生産にとってどれだけ重要かを理解させるのにものの数分もかからなかっただろう。彼の授業はevictedの事例として扱われた一人の男性の紹介から始まり、GDPで見れば世界で一番「豊か」なアメリカが貧困指標で上位に来ている矛盾を指摘する。その上で、プリンストンに通う学生がアメリカの貧困を理解する大切さをとき、授業の全体の説明に入っていく。圧巻、という言葉しか浮かばないすごみがあり、TAながら息を飲んで聞き入ってしまった。彼のスピーチには、人を巻き込む力がある。学部2年生レベルの大講義なのだが、アサインメントにフィールドワークが課されているのも特徴的だった。余談だが、フィールドワークの旅費を一人当たり60ドル、それを超える場合は要相談で受け付けると書いてあり、プリンストンだなと思った。150人が受けたとして、一人60ドルだと100万円近い出費である。

その後できたばかりのI-20を取りに行き、13時から人口学の先生との面談。13時半から2年生必修のempirical seminar。この授業、計量分析の論文を1本書くという説明だったので、それならそこまで大変ではないかと考えていたのだが、実際には「因果推論」の論文を書くというのが目的だった。担当の先生はダルトン・コンリーという、彼もまた非常にユニークな教授で、社会学にゲノムの分析を持ち込んだ代表的な研究者の一人である。社会学だけではなく、教授になってから生物学の博士号もとっていて、色々と規格外。自分の関心のある分野でcausal identificationをすることも目標に、これまでの先行研究を批判的に読んだ上で、識別戦略を提示することを強く求められた。ここまで強硬に因果推論を求めるのには最初驚いた。重要なのは、これは必修の授業で、学生の中にはエスノグラファーもいるという点である。社会学でも因果推論はみんなできておくべき必須のツールになっていて、これを選択ではなく必修で受けさせるのに教育的な意味があるのだろう。これはまだ漠然とした印象でしかないが、マディソンもプリンストンもそれぞれ強みがあるが、プリンストンの強みは「どのようなバックグラウンドを持っていたとしても一定程度のアウトプットが自分無理なくできるようにする」ための授業が整っているところにあると思っている。私の研究は因果推論とはかなり遠いところにあるが、できる限りチャレンジしてみる予定である。雑誌のフォローをしてもいいが最近はどんどんプレプリントが社会学でも盛んになっているので、NBERやSocArXivをフォローするようアドバイスしてくれたのも、先進的だと思った。

転学をめぐる狂騒

ほとんど日本語で書くことがなくなってきたので、このブログが唯一のアウトプットになっている。メールも、かなりフランクな内容ばかりなので、日本語でロジカルに考える機会が減っている(頭の中では日本語で考えると、それをexpressするかどうかは異なる)。

先日は、今学期のスケジュールが決まったという話までだったが、あれからまた色々とドラマがあった。プリンストンの授業開始は9月11日なのだが、10日の朝の時点ではまだUWからの転学届けがきていなかった。私は留学生なので、SEVISという移民管理の書類をプリンストンに移さないといけない(大学が私のスポンサーなので)。これが、UWの留学生センターから届いておらず、emergencyになりつつあった。

私がこの書類を提出したのは9月の頭だった。プリンストンに移るという話がきてから時間が経ってしまったのには以下のような理由がある。まず、UWにはプリンストンに提出した転入願いを添付する必要があった。しかし、その転入願いを出すためには、当たり前だがプリンストンからの合格届けがないといけない。以前書いたように、プリンストンからの合格届けが届いたのはプリンストンに引っ越す1日前だったので、転入届けに記入事項を埋めたのがその翌日、指導教員にサインをもらうなどしてUWに提出したのはすでに9月になっていた。

提出後UWの留学生センターから提出確認のauto replyが届いたのだが、最大15 business daysかかると書いてあり、単純に足し算したら授業開始の9月11日に間に合わず、その頃から雲行きは怪しかった。困ったことに、夏季休暇期間中のため留学生センターは平日のうち3日しか電話に対応しておらず、すぐには電話できなかった。ようやく電話がつながったと思ったら、留学生センターは提出順に処理することしかできないので、処理を早めることはできない、最大15日なだけで早く終わるかもしれないし終わらないかもしれないという説明だけで、どうにもできなかった。

この頃はいつか届くだろうと思っていたのだが、授業開始2日前(9月9日)になってもプリンストンに書類が届かず、あたりが騒がしくなってくる。しまいには、大学院庶務課の副ディレクター、社会学部の大学院プログラム担当スタッフ、プリンストンの留学生センター担当者、私の指導教員と私の五人が同じメールのスレッドをccで共有する事態になってしまった。大学側の説明は、レコードが届かなければ私はプログラムを開始できないという説明で、その具体的なインプリケーションは授業を履修できない、TAもできないなどだった。といっても、授業自体はインフォーマルには参加できるので、最初の頃は私は別の問題ないんじゃないの?と思っていたのだが、副ディレクターの人のメールで、最悪の場合、春学期まで在籍を延長するケースも出てくると言われて、だんだんとやばい匂いが漂ってくる。

これと並行して、UWの社会学部の大学院担当のスタッフの人が留学生センターに何度も掛け合ってくれたのだが、ベストを尽くしているとの一点張りで、万事休すの様相が漂い始める。10日の朝になって庶務課の副ディレクターが登場し、物々しくなってきた段階で指導教員が柔軟な対応を求めるメッセージを書いてくれたり、もう非ネイティブの私が積極的に発言できる空気ではなくなってきた。心の中で、なぜ一留学生の私の移動のために、これだけ多くの大人が関わっているのだろうと、だんだん不思議になってきた。

しかし、UW社会学のスタッフが粘り強くプリンストンからの脅しにも読めるメッセージを添付しながら手続きを今日中に済ませないとやばいことが起こるというメールを「何度も」送ってくれた。このおかげかはわからないが、東部時間午後3時過ぎ(中西部時間で午後2時過ぎ)にようやくUWの留学生センターが書類発送のスケジュールに入ったという連絡が来た。ただ、スケジュールに入っただけだと意味がわからないので、今日中に送るかをフォローアップした結果、10日のオフィスが閉まる5時少し過ぎに、ようやくプリンストンに書類が届いたという連絡をもらった。

というわけで、晴れて11日(今日)の昼過ぎに新しいI-20の書類を手に入れることができ、そこにははっきり Program Start 11 September 2019 と書かれていた。もし書類が1日でも遅れていたら、「学期開始」のタイミングと「スポンサー開始」のタイミングがずれる状況になり、問題が生じていたかもしれないので、本当にギリギリだった。

こういうハラハラドキドキの経験がしたい人には、3週間でアメリカの大学を移るのは非常に楽しいと思うので、是非お勧めしたいが、もう1回やれと言われたら、私は遠慮したいところだ。

September 8, 2019

今学期の予定

色々とすったもんだもあったが、ようやく今学期のスケジュールが決まりそう。

オフィシャルには1年生の必修の理論の授業(classical sociological theory)と2年生必修のempirical seminar(修論相当の論文を書くためのセミナー)をとることになった。本当は人口学や政治学の授業もとりたかったのだが、後述の通りティーチングをすることになり、予定を変更した。

これらの授業に加えて、1年生必修のプロセミナーを履修する。私はマディソンの時に同じ授業を履修していたが、このセミナーの目的はファカルティの教員を知るということもあるので、auditの形式で履修することにした。トランスクリプトには載らない。

最後に、急遽AI(Assistant in Instruction、いわゆるTA)をすることになった。ちなみに、この大学ではTAのことはPreceptorと呼ぶ。Poverty in Americaという学部生向けの授業で、講師はMatt Desmondである。requirementには6 sections終わらせることが義務になっており、だいたい2 sectionsで1つの授業に相当する。上記の通り、3つ授業を履修しているので、今回は2 sectionsでいいかなと考えている。

September 2, 2019

マディソンからプリンストンへの転学

もし、2週間で転学してみないか?と誘われたら困りませんか。私は結構困りました(笑)。あまりにも出来事が一度に降ってきたので、つい3日前に自分が何をしていたのかもちょっと思い出せません。書ける範囲で何が起こったのかをまとめています。2週間での転学は例外だらけで、結構ハードモードですが、外国人である私一人の移動に、多くの人が関わってくれていることがわかる瞬間の連続で、ありがたいですし、(人生の)勉強になります。

本当は数ヶ月かけて提出する書類を1週間くらいで出してるため、かなり頭がこんがらがってますが、転学が決まってから

A. 引越関係

  1. 家探し
  2. 航空券の予約
  3. 更新してしまったマディソンの家のサブリース探し
  4. 引越し荷物の送付
  5. プリンストンまでの移動手段の手配
  6. 新しい家の家賃とデポジットの支払い
  7. 日本の口座からアメリカの口座への送金
  8. 学会などに所属・住所変更の連絡
  9. アマゾンなどに登録している住所の変更
  10. 足りない家具などの購入

このあたりの作業は基本的に一人でできるので、そこまで困りませんでした。ラッキーだったのは、学会でプリンストンに数日滞在できたことで、その間に家探しをしていました。結局、滞在中に尋ねた家にはせず、ショッピングセンター近くにある一軒家をシェアすることにしたのですが、その際もプリンストンにいる知人に家を訪問してもらい、部屋の写真などをとってもらいました。
この2週間は、私が持っているプリンストンコネクションのほぼ全てに頼った気がします…最初の方は自分も本当に転学できるか確信が持てなかったので、もしかしたら…みたいな中途半端な感じで相談してたのですが、徐々に転学が確実なものになるにつれて、この移動がどれだけ例外じみているのかわかってきました。

B. 転学関係

引越しに前後して、転学に際して必要な作業も進めました。まだ進行中のものもありますが、具体的には、

  1. プリンストンのメールアドレスの取得
  2. ウィスコンシンの授業のキャンセル
  3. ウィスコンシンへの出転学(transfer out)願いの提出
  4. プリンストンへの入転学(transfer in)願いの提出
  5. 外部奨学金の財団への転学願いの提出
  6. プリンストンに外部奨学金をもらっている旨を連絡
  7. ホームページのドメイン取得、作成
  8. オフィススペースをもらえるかメール
  9. 人口学研究所に所属したい旨のメール

8とかは特に必要なかったのですが、自分の中で少しでもプリンストンに移るという実感が欲しかったのかもしれません(笑)。今も、なぜ自分が引っ越して転学しているのか、よくわからなくなる時があります。メールは返事が返ってくることもあれば来ない時もあります。5はいまだに返事がなかったので、今日(3日)大学院のファイナンス担当の人にアポなし訪問をしました(後述)。8、9も返信がなかったのですが、今日直接学部にいって、人口学研究所のオフィスをもらえるまでの、暫定的なオフィスをもらえました。改めて、メールを送るよりも、アポなしでも直接オフィスに訪れた方が話がすぐ進むことを実感しました。アメリカでは、各事務スタッフが専門職とみなされていることも、スムーズな対応を可能にしてくれた気がします。アメリカの大学では、これらのスタッフは個室が与えられているし、裁量も大きいです。今日も、教授とは一度も会いませんでしたが、スタッフの人に直接会って、全部繋げてもらいました。

C. 入学関係

転学といっても、新しく院生としてプリンストンに所属するために、そのために必要な作業もありました。具体的には、他の新入生と同じく、

  1. 学生証のための証明写真の提出
  2. CVの提出
  3. SEVIS, I-20関係の書類の作成
  4. オフキャンパス学生向けのバス定期の申し込み
  5. Direct Depositの登録
  6. 履修登録
  7. 学生証のピックアップ
  8. 留学生センターへのチェックイン
  9. I-9の作成
  10. 学部・修士の成績証明書の提出
  11. 健康診断書の提出 (McCosh Health Center)
  12. オリエンテーションへの参加(大学院)
  13. オリエンテーションへの参加(留学生)

などがあります。これらの作業の多くは今日(3日)に進めたのですが、ルームメイトのブラジルから来た数学を研究している院生に助けてもらいました。彼がチェックイン関係の手続きをするというので、一緒に行くことになったのですが、朝は寝ぼけていたこともあってパスポートとI-20だけもってとぼとぼついていきました。彼はチェックインのためにどの建物に行けばいいか、どの書類が必要かも全て調べてくれていたので、7,8,9あたりは彼についていきながら、流れでポンポン進んでいきました。1も突然の移動だったので私は前日に写真を提出していたのですが、結局データがまだ学生証を発行するスタッフの元に届いていなかったので、その場で撮ってもらいました。

学部・修士の成績証明書の提出はかなり厄介な作業で、というのも、私は学部・修士とも東京大学というところにいたのですが、この大学の悪名高い特徴は成績証明書が(1)教養学部、文学部、人文社会系研究科、全て別々の窓口(同じ東京大学なのに!)、(2)オンライン申請なし(=本人が窓口に直接参上あるいは郵送)なんですね。急を要する事情でアメリカから郵送する時間がもったいなかったので、日本にいる知人に助けてもらいました。

私は、人文社会研究科と文学部には既に25回以上厳封の成績証明書を要求しているからかブラックリストに載っているようで、最後の方には名乗らずに「あ、打越さんですね」と言われる始末でした。というわけで今回も「ああ、奴が来たな」と思われたと確信しています。ただ、今回は事情が事情だったので研究科としても最大限柔軟に対応していただいと思います(でも、全部オンライン申請が可能になったら解決するんですけどね)。

D. 外部奨学金と学内フェローシップの調整

先述したように、私は日本の財団から、外部奨学金をいただいてます。プリンストンはそれらがなくても授業料と生活費を出してくれるパッケージを合格時に出してくれるのですが、一方で外部奨学金の受給を勧めてきます(外部奨学金がもらえると、インセンティブとして生活費にボーナスが出ます)。

ただ、この財団では授業料については私が一旦払ったものを建て替えてくれるという形をとっているため、何かしらの方法で私の銀行口座を使って授業料を払わなくてはいけません。マディソンにいた時はクレジットでひとまず払っていたのですが、問題はプリンストンはクレジットによる授業料支払いを認めていないのです。そういうことも知らず、私は大学院が外部奨学金の受給を進めているのでそれに関する書類を提出したのに、5日間返事がなかったのでアポなし訪問をしたのですが、その場で以上の問題が発覚しました。

これについては、まだ解決策を探している途中ですが、担当のスタッフの人もたくさんオプションを示してくれたので、きっとなんとかなる気がします。もうここまでくると、そう思いながら日々生きていくしかありません。

E. その他

残りはそこまで急を要する作業ではないので、優先順位は低いです。

  1. 自転車のピックアップ+駐輪許可証の取得
  2. 人口学研究センターへの書類提出
  3. オリエンテーションへの参加(社会学)
  4. オリエンテーションへの参加(人口学)
  5. 英語の試験(スピーキングのスコアが足りないので)
  6. eduroamの取得
  7. 授業で使う本の購入
  8. プリンタの設定

ここまでして移籍する必要があったのか、正直自問自答することも1日に何度もありますが、決断自体は後悔してません。私の人生の方針では、基本的にリスクがあっても面白そうな道を選ぶことにしているので、こういう面倒な作業はよく生じます。人生は一度きりしかないので、自分にしかできないような人生を歩んでいければ、こういう苦労もその一部かなと思って我慢できます。というわけで、適度にポジティブに頑張ります。

August 26, 2019

引越・転学

先日、英語ではご報告していたのですが、来月よりプリンストンに引っ越す予定です。あくまで「予定」なのは、あと1週間で9月になるのに、まだ正式なレターが届いていないからなのですが(汗)、先週に転学先の学部の大学院ディレクター(DGS)から、大学院から入学許可が届いたという連絡をもらったので、数日以内にレターはくると思います。

移籍の経緯は前回の記事で簡単に書いたのでそちらをご参照ください。この記事では、今回の移動が、日本の方からみると、ともすると「当然」のように思われているかもしれないと思い、もうそうだとすれば私の動機を正確に反映したものではないため、日本語で書くことにします。

事実としては指導教員の移籍に伴う転学となります。アメリカの大学では教員がよく異動するのですが、その際に指導学生も一緒に採用することがよくあります。基本的には指導関係が確定している3-4年生の移動が多いと聞きますが、私は今の指導教員と研究がしたくてウィスコンシンに来たので、そういった事情も考慮されたのかもしれません。転学先の大学では、2年生として編入することになります(ただ、プリンストンでは教員の移籍に伴う学生の転学を原則として認めていないため、今回の移動は例外的だと聞いています。何が起こったのかはわかりません)。

社会学・人口学が専門ではない方や、あるいは社会学の中でもアメリカの事情に必ずしも詳しくない方からすれば、今回の転学は「ステップアップ」に見えるかもしれません。確かに、ファンディングはプリンストンの方が圧倒的によく、5年目までのTA/RAとは結びつかない形でフェローシップが確約されており、スタイペンドの額もマディソンよりも高いです。学内の研究助成も充実しているでしょう。NYとフィリーから同じ距離にある立地の良さもあり、東海岸の研究者とネットワークを築きやすいでしょう。何より、「プリンストン」という名前のせいで、今回の移動が悩む余地のない、当たり前の選択に見えるかもしれません。

今回の転学に「おめでとう」といってくださる方には感謝したいのですが、その一方で、一つだけ声を大にして明確にしておきたいことがあります。今回の移動は、オファーが来た時点で即断できるものではありませんでした。なぜかというと、プリンストンと同じくらい、あるいはある面ではそれ以上に、ウィスコンシン大学マディソン校の研究環境は優れていて、私はその環境に満足していたからです。社会学では様々な事情で伝統的に州立大学の評価が高く、ウィスコンシンもその例にもれませんでした。10年ちょっと前は全米一の評価を受けていたくらいです。特に、ウィスコンシン大学マディソン校の強さは、社会階層論と人口学の教授陣の充実に挙げられると思います。私も、特に後者を学びたくて、ウィスコンシンの門を叩きました。

したがって、残るにしても、移るにしても、選択は間違っていなかったと思っています。今回、移動することにしたのは、指導教員の移籍も大きな理由としてはありますが、それ以上に、私がアメリカに来て学びたかった社会階層研究における人口学的なアプローチ「以外」の部分を考慮しました。それは例えば、アメリカで共にトップスクールに位置付けられる二つの研究機関に早い時期から身を置くことで、両者の教育や研究環境を比較し今後のキャリアに生かしたい、中西部と東海岸二つの大学に在籍することでより広いネットワークを築きたい、東海岸に多く在籍しているアメリカの日本・東アジア研究者との連携を深めたい、などです。すでに今の環境でも満足だったのですが今回はこれら「プラスワン」を重視しました。マディソンに残るメリットも多くある中で、以上の点を考慮して移動を決めたという点だけ、強調させていただきたいです。

9月からはまた新しい人生のスタートです。これまで以上に研究に邁進したいと思います。

August 24, 2019

Moving

From this fall, I will be moving to Princeton University. My initial plan was to work remotely with my advisor, who is joining the Department of Sociology at Princeton from this fall, while completing a PhD at UW-Madison. It turns out, however, that the other option was approved by the graduate school recently. Although this was a tough choice, I have decided to continue closely working with him while pursuing a PhD in Sociology at Princeton.

This decision was not easy, because I have met with wonderful friends, colleagues, and mentors in Madison. Cohort friends were always supportive and it was fortunate that our diverse backgrounds provided me with ways to improve our understanding of social issues from a different perspective. Although still incomplete, I am aiming to incorporate their broader perspectives into population approach and demographic methods, which I studied intensively in my first year.

In particular, I really appreciate that graduate students affiliated with CDE often provided critical comments on the presentations at Demsem and the two graduate seminars in population and society. I believe that this intellectual experience shapes my research questions over the academic career.

Also, I would like to thank departmental and student organizations - SGSA (and its sub-committees), Solidarity, TAA, BGPSA - for their continuous efforts to make our community better and more inclusive. There is no doubt that students' active involvement with these institutional forces is the tradition of the UW-Madison Sociology and I am proud of being a part of them last year.

Although sad to leave Madison and miss friends there, I'm pretty sure I'll be back several times every year (except for the winter). At the same time, I'm excited for this opportunity and happy to meet with my new and old colleagues in the East Coast.

August 9, 2019

自分の学歴同類婚研究の途中経過のざっくりとしたまとめ

投稿したのはもうだいぶ前になるのですが、公募特集の機会をいただき、『社会学評論』に論文が掲載されました。

打越文弥,2019.「夫婦の離婚からみる学歴結合の帰結:NFRJ-S01・SSM2015を用いたイベントヒストリー分析」『社会学評論』70(1) 10-26.

学歴同類婚や人口学に関心のある方はぜひご笑覧(この言葉を見るたび笑うのですが)ください。ただJ-stageに公開されるのはだいぶ先なので、読みたくても簡単には読めないんですけどね、笑うしかないですね。そもそも今回の雑誌は日本の実家に届いているので私も読めません(笑)

さて、これまで出版されてる論文で5本ほど学歴同類婚を検討してきたのですが、査読で最低限質保障がされていると考え、データや手法の違いを棚に上げて少し大げさにいうと、

・同類婚のオッズは減少(Fujihara and Uchikoshi 2019, 他の研究でも指摘されており、かなり頑健)
・未婚化も進んでいるが、両者は共変関係で因果ではない(打越 2018a
・妻下降婚の夫婦は離婚しやすさは最近は確認されない(打越 2019)

これらから学歴で結婚をみる意義が減っていることが示唆される一方
・高学歴カップルの収入は高い傾向(ただし妻がフルタイムの場合)(打越 2018b
・親が同類婚していると子どもも同類婚しやすい(打越 2016

ということで、階層的な格差に注目すると、まだ学歴でみたカップルの組み合わせという視点は有力な気がしています。

同類婚のパターンやその後の離婚といった家族人口学的な変数と絡めると、そもそも結婚や離婚の意味合いが変わってきていることもあり、解釈しにくい部分もあります。

学歴同類婚がその後の格差に与える影響・プロセスについてはまだわかっていないことも多いので、引き続き研究していく予定です。

同類婚が格差に与える影響(実際はそこまで単純に語れるものではないのですが、研究群としては存在します)というのは、なかなか介入しにくいので、その点について自分で考えることはたまにあります。つまり、もし高学歴同類婚カップルが他のカップルに比べて子どもに教育投資をする傾向があったとすれば(実際にあるのですが)、子どもの教育機会に格差が生じることになるので、こういった機会の格差は縮小した方がいいと考える人が多いと思います。しかし、夫婦の結婚や出生といった事象は建前としては個人の自由選択のもとに生じているので、介入しにくいわけです。介入できないものから生じる格差をなぜ研究するのかと聞かれると、少し困ることがあります。確かにその指摘は一理あり、介入できないものを検討したところで、その知見はどれだけ格差の縮小に生かされるのか、というものです。

私は最近少し開き直って、介入できないから研究する意義があると考えるようにしています。そこまで単純に考える人はいないと思うのですが、介入できるものに全て介入すれば(例えばひとり親の子どもの教育的な不利が確認されるとして、ひとり親家庭に対してそういった不利を縮小させるようなプログラムを実施するとか)格差は縮小しそうですが、格差が全て消えて無くなるということはないのかなと考えています。個人は自分の意思で(それもどうか怪しい部分はありますが)配偶者を選び、何人子どもを産むかを考えて、子どもにどれだけの学歴をつけてほしいかを考えて(時には考えずに)教育投資をしたりするので、やはりそういう部分の格差は動かしにくい気がします。私の関心の一つを言語化すると、介入できないものが介入できるものに比べてどれだけ重要なのかを数量化して議論すること、といえるかもしれません。もちろん、間接的な介入(出生で言えば、女性の就業継続を支援することで、出生率をあげる一連のpronatalist policy)もあるとおもうので、その可能性を考えることも必要かもしれません。