今年もそろそろ終わりかけようとしている。師走の忙しさは期末試験とレポートから始まるとはよく言ったもので、感謝祭後に生活リズムが狂ったのを許してはくれない。というか、冬休みが間近にあるのに感謝祭で1週間休む合理的な理由が見つからない。来年は、1週間日本に帰ってやりたいくらいである。
ここ数日、というか1週間近く、太陽を拝めない日々が続き気が狂いそうだったが、人の慣れは怖いもので、今日はまた曇っているかくらいの気持ちで大学に登校した。
1限は形式人口学、いよいよpopulation projectionに入ってきた。相変わらずRowlandの教科書を使って、実習や宿題が課される。この教科書、たまに誤記があったりするが、味気ない形式人口学の世界に現実味を加えようとしている点では、入門書としては最適だろう。自分が人口学を教えることがあれば、この教科書を指定したい。他にもいい教科書はあるが、次点として挙がるPollardはほぼ絶版しているので入手しにくい。定番のPrestonやWachterのEDMは初心者には高難度である。Rowland -> Preston -> Wachterが順番としては良いのではないだろうか。1年くらいかければ習得はできるだろう。
今日の授業では、projectionにおけるいくつかの想定が紹介される中で、Ron Leeの以下の論文が紹介されていた。
Lee. 2004. Quantifying Our Ignorance: Stochastic Forecasts of Population and Public Budgets. PDR.
この論文では将来人口の予測をする際の不確実性にどのように対処するかについて論じているが、その中でセンサス局と社会保障局(SSA)の人口予測の仮定が異なっていることを指摘している。具体的には、センサス局では高出生、低死亡、高移動を仮定している一方で、SSAでは高出生と高死亡・移動を仮定している。前者の想定によれば、人口成長が最も進みやすくなるが、後者の想定に従えばold-age dependency ratio(生産年齢人口あたりの65歳以上人口)が最も低くなり、人口成長は安定的になりやすい、すなわち将来の社会保障費用を予測しやすい。こう言った行政の予測では、high, middle, lowのシナリオが用意されることが多いが、筆者によればこれらシナリオを用意するアプローチは確率を考慮していないとする。そして、これらの想定の妥当性は明確ではなく、人口成長を強調したいセンサス局・OADRが低くなるように見せたいSSAの思惑があるのではないかと疑われても仕方がない。
日本では、社人研以外に人口予測をしているのか分からないので、こう言った比較ができるかは怪しいが、社人研がどう言った想定に基づいて人口予測をしているのかは気になるところである。これと関連して、数年前にバズったいわゆる「増田レポート」を思い出した。
このレポートでは、社人研の推定を元に自治体別に20ー39歳の女性人口を予測した結果、2010年から2040年の30年間でこの年齢に属する女性人口が半減する自治体が全体の2割を超える、という提言をしている。これは報告書の主張の一つで、自治体間を移動するnet migration rateは「2005~2010 年の性別・年齢階級別の率が2020 年にかけて概ね 1/2 程度に縮小する」とされているが、後半では人口移動が縮小しないシナリオに基づいて予測をしており、「消滅可能性の高い」自治体の割合は全体の半分になるという。
「増田レポート」でググったところ、基本的に言及されているのは後者の結果だった。まあ、消滅可能性の高い自治体が全体の半分に上るというのはインパクトが強いので分からなくもないが、この二つのシナリオからわかることは、人口サイズが相対的に小さくなる自治体レベルでは、「移動」の程度をどのように仮定するかによって推定の結果が大きく異なることである。
人口移動が収束する場合と、しない場合、どちらが現実的な想定なのだろうか。収束するという仮定は、なぜそうなるのかの説明が全くないので、よく分からない。とはいえ、最近の政府の政策を見ていると、明らかに人口移動を鈍化させる、言い換えれば東京への移動を抑制する方向にシフトしている。収束しない、つまり人口移動の程度が現在と同じ水準で持続する場合の方が現実的に聞こえるが、かなり保守的な想定だろう。自治体レベルの人口予測においては移動が占める要因が大きいことを考えれば、確率的な計算に基づいて確率区間を示した方が良いように思える。
時間があればこういったアプローチで将来の地域別人口推計はできると思うので(すでにやられているかもしれませんが)、政府の言っていることに人口学的な方法でいちゃもんをつけたい方はぜひトライしてみてはいかがでしょうか。
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