Riley, N. (1999). Challenging demography: Contributions from Feminist theory. Sociological Forum 14, 369397.
人口学は主要な関心であるはずの人口変動の議論にジェンダーの概念を持ち込むことに及び腰だった。筆者の主張は見かけ上はシンプルで、人口学はフェミニズムの視点を持ち込むことで、3つの利益があると言う。具体的にはジェンダーは社会を組織づける原理であること、ジェンダーは社会的な構築であること、最後にジェンダー理論は不平等に関する政治的な視点をもたらすことである。
もっとも人口学では女性が等閑視されて来たわけではないとする。特に出生力の研究では女性の存在は意識されてきた。こうした女性に着目する人口学研究の多くは、フェミニズム経験主義的な立場に集約されると筆者は主張する。この視点では、aspects of women’s livesへの視点が十分ではないために分析の結果に何かしらのバイアスが生じていると考える。こうした分析では、理論に女性を「持ち込む」ことが当然視されており、理論自体を再検討しようとする動機には乏しいという。これに対して筆者は冒頭に挙げた三つの視点を生かしてジェンダーを再定式化するべきだとする。
たとえば、これまでの人口学では女性の役割(role of women)が検討されてきたが、この視点ではジェンダーは個人の所有物であり、あくまで個人レベルの議論に終始してしまう。そのためそうした役割の前提にあるような社会レベルでのジェンダーの文脈を軽視してしまう傾向にある。これに対して筆者はジェンダーは社会レベルで組織された制度であることを強調する。したがって、たとえば女性の移動を扱う際でも、女性自体に着目すれば、なぜ女性は移動するのかという問いしか立てられないが、ジェンダーに着目すれば、ジェンダーという制度的な側面がどのように移動の過程に対して影響しているのかと考えることができるという。
さらに、ジェンダーは社会的な構築である。そのため、ジェンダーに対する意味や解釈は社会によって異なる。したがって、ある社会のジェンダーの諸側面を切り取って、安易に他の社会と比較することは難しい。たとえば、欧米社会では女性にとっての教育とは家庭における自立や権力の獲得を意味するかもしれないが、他の社会では教育は良い地位の男性と結婚するための手段として理解されているかもしれない。最後に、フェミニスト的な視点では、社会における権力関係に対して言及することが重要になる。
こうした議論では、ジェンダーは複雑な社会的な過程を経ていると考えられるが、人口学ではもっぱら軽量的なデータを用いるため、こうした複雑性を検討することは難しいのではないかと筆者は指摘する。また、人口学ではあまり理論が重視されることはないが、それでも人口変動の理論が全ての社会が発展途上から先進国に移り変わる中で人口減少も変わりうるという直線的な考えを採用しがちである点が、ジェンダーは社会的な構築であるという観点とは対立するとする。
Krieger (2003). Genders, Sexes, and Health: What are the Connections – and Why Does It Matter? International Journal of Epidemiology 32: 652-657.
Goldscheider, Frances, Eva Bernhardt, and Trude Lappegard. (2015). The Gender Revolution: A Framework for Understanding Changing Family and Demographic Behavior. Population and Development Review 41 (2): 207.
女性の労働参加が上昇し始めた最初の局面では、結婚の遅延や結婚確率の減少、低出生、及び離婚の増加が同時に生じていた。しかし、徐々に女性の労働参加とこれら人口学的な行動の関係は弱くなるか、逆転しつつある、すなわち現在のヨーロッパでは、女性の労働参加が最も高い国では出生率も高い。こうした公私双方におけるジェンダー関係の変化を、本論文ではジェンダー革命(gender revolution)としている。
既存の人口学的な研究において、家族の長期的な変化を説明する枠組みとしては当初ideationalなものが流行し、そこにはジェンダーの側面は薄かった。しかしながら、その後McDonaldらの研究によってジェンダーの側面は出生力の逆転現象において非常に重要であることが明らかにされつつある。それらの研究では、家族を支援する国家の政策の重要性に重きが置かれているが、本研究では、こうした家族外のサポートの影響力を見限るわけではないが、出生以外に生じている家族の変化も考慮しており、これらは出生に比べれば政策の影響を受けにくい。こうした変化は本質的にジェンダー革命と結びついており、より具体的には男性の家庭への関与が重要であるとする。そして、この革命によって家族はより強くなっているとする。この研究では、出生以外に結婚と離婚も検討しながら、ジェンダー革命理論の妥当性を検証している。
第二次人口転換論(SDT)では、物質的な豊かさを手に入れると、家族形成はこうした高次の欲求よりも補助的なものになるため、より個人主義的な態度が顕出するという。ユニオン形成は不安定になり、出生力も低下する。筆者らによれば、SDTの理論が当初この理論が対象としたヨーロッパを超えるとすれば、それはジェンダー革命の影響だろうとしている。
筆者らにおけるジェンダー革命の定義には二つの側面がある。まず、最初の局面では男性が陳労働に従事するという前提の元で、需要の高まった女性が労働市場に出るようになるが、このことは家族を弱めることにつながった。この段階では、フルタイム労働をする女性の結婚が遅れるほか、離婚も増える。しかし、ジェンダー革命の後半では、男性が私的領域においてより家族にコミットするようになる。例えば、アメリカでは20世紀の終わりには、その20年前よりも週あたり5時間、父親が子供と触れ合う時間が伸びたという。
ジェンダー革命がSDTと異なる点は以下のようになる。SDTでは価値観の変化は構造の変化によって生じると考えるが、個人の行動を変えるのは価値観である。すなわち、ideationが直接の原因となる。これに対して筆者は、確かに選好によって個人の行動は規定されるが、それだけでは不適切だろうと考える。ジェンダー革命は完全に構造的であるとする。具体的には、女性の労働参加によって、最初はco-breadwinnerが登場したが、次第に夫婦はco-nurturersになるという。さらに、SDTが予想する同棲や婚外出生の増加についても、法的・宗教的な様式が変化して新たなカップルの地位が誕生したと考えればよく、研究でもアメリカやヨーロッパでは結婚も同棲と同程度に安定的ではないとする。
ただし、ジェンダー革命の第2の側面は停滞している。この点について、筆者は第一に男性の私的領域での役割に対するプレッシャーが出てきたのはここ最近であるという注釈をつける。女性の労働参加が増加した1960-70年代には、まだ女性の稼得能力は補完的なもので、男性稼ぎ主モデルが支持されていた。しかし、1980-1990年代になって、女性の稼得能力が単なるadd-onではなく中心的な役割と認識されるようになる。この背景には、グローバル化に伴って男性の労働市場における役割が不透明になったことも関係している。もちろん、まだ構造的な要因は男性の家庭への進出に対して制約を課していることも事実である。しかし、徐々に人々は新たなジェンダー構造に適応している。
この主張をサポートする証拠として、筆者は結婚、出生、及び離婚の三つを事例に議論を進めている。要約すると、かつては学歴が高く、フルタイム労働をしている人ほど結婚が遅く、出生力も低く、離婚もしやすかったが、この関係性が近年になって逆転しているというものである。さらに、男性の家庭における貢献(家事や育児)が妻の結婚満足度とポジティブに関連し、家族を安定的にするという知見も出ている。
加えて、女性の労働参加と高学歴化によって、こうしたジェンダー平等的な意識は強化されているし、それらは世代間でも伝達される。したがって、今後社会はますますジェンダー平等的になると考えられる。
Goldscheiderのジェンダー革命理論は二人親を前提としつつ強い/弱い家族という主張をしていたり、男性側のジェンダー役割意識が出生力回復の鍵で、先進国はみなスウェーデンのようになるのだという近代化論の亜種的な発想をしているのは気にくわないが、仮説自体はテストしやすいので、そこは評価。
Compton, D. L. R. (2015). LG (BT) Families and Counting. Sociology Compass 9(7), 597-608.
Peter McDonald. (2000) Gender Equity and Theories of Fertility Transition. Population and Development Review. 26(3): 427-439.
Read, Jennan Ghazal and Bridget K. Gorman. 2010. Gender and Health Inequality. Annual Review of Sociology 36: 371-86. doi:10.1146/annurev.soc.012809.102535
England, Paula. (2010). The Gender Revolution: Uneven and Stalled. Gender & Society 24(2):149-166.
Ferree, Myra Marx. (2010). Filling the Glass: Gender Perspectives on Families. Journal of Marriage and Family 72:420-439.
No comments:
Post a Comment