October 13, 2018

人口学セミナー第7回文献レビュー(人種)

Waters M. The Social Construction of Race and Ethnicity: Some Examples from Demography. In: Denton NA, Tolnay SE, editors. American Diversity: A Demographic Challenge for the Twenty-First Century. Albany, NY: State University of New York Press; 2002. pp. 25-49.

Raceとethnicityは社会的な構築物であるというのは自明のこととして扱われているが、本章ではその矛盾について、人口学的な視点から検討している。著者は自身の所属するハーバード大学の授業後に、ある一年生がオフィスを訪ねて来た時の話から議論を始める。この学生は自分がどのように自身のアイデンティティを決めればいいかについて相談しようとしていた。彼女は母からアメリカン・インディアンであることを伝えられていたが、同時に黒人の先祖もいた。さらに、アイリッシュとスコティッシュの先祖もいる。このような状況で、彼女は当てはまるアイデンティティにはすべてチェックを入れていたが、あるひ、ハーバード大学に入学した後に黒人学生協会からメールをもらう。一方で、彼女には一卵性双生児の姉妹がおり、彼女はネイティブアメリカンの学生協会からメールをもらっていた。

筆者は、このストーリー自体はrace/ethnicityが社会的に構築されているというストーリーと符合するところもあるとする一方で、その後になって大学当局からこの問題について訂正が必要であるというメッセージを受け取ったことも交えながら、この事例は構築主義の限界も示しているという。すなわち、社会的構築主義はアイデンティティは可変的であるとしながら、実際にはrace ethnicityは固定的なもので、個人は一つのアイデンティティしか持てず、我々は人のgenealogicalな情報から彼らのrace/ethnicityを客観的に同定できるという考えも並存しているという。この矛盾、つまりrace/ethnicityは社会的に構築されると想定する一方で、それらは客観的で安定的であるという点について、筆者はセンサスの事例を用いて検討している。

アメリカでは1978年からrace/ethnicityについての情報が集められるようになった。当時のraceカテゴリはamerican indian or alaska native, asian or pacific islander, black, hispanic, and whiteの5つだった。1997年には政府はいくつかの改定を行い、まずasian or pacific islanderがasianとnative hawaiian or other pacific islanderに分けられ、次にhispanicがhispanic or latinoになり、blackがblack or african americanになった。さらに、raceのカテゴリについて複数回答を認めるようになった。

センサスではより詳細にrace ethnicityについて尋ねており、現在ではおおまかにいえば(1)spanish origin question(2)race(3)ancestry questionの三つになる。2000年までのセンサスでは複数のraceを答えることができなかったが、2000年からは可能になった。2000年のデータが利用可能になると、race/ethnicityカテゴリに大きな変化が見られることがわかった。例えば、intermarriedしたカップルでは、彼らの子どものancestryを単純化する傾向が見られた。raceについても、american indianの人口は1960年から1990年の間に2.5倍になっている。この増加は人口学的にはありえない数であり、複数の人種について記入できるようになったことを反映しているという。

これらの事実は、センサスが測ろうとしている客観的なrace ethnicity指標が実際は変化と一貫しないパターンに基づいていることを示唆している。

一個人の中でもraceやethnicityのアイデンティティは変化しうる。このことが人口学に与える影響とはなんだろう。移動について考えてみよう。人口学は、どのethnicityのグループがどう移動するかに関心を持ってきた。この研究群では、ethnicityは独立変数として想定されている。しかし、移動場所とアイデンティティが逆の因果に影響することは容易に想定しうる。実際、pacific ilandersはハワイにいる場合には複数のエスニックバックグラウンドを答える傾向にあるが、このような背景を持った人がLAに移動すると一つのアイデンティティを選択するようになる。

おそらく、エスニシティの測定、及びその長期的な安定性と一貫性における最も大きな課題として筆者があげるのはintermarriageのカップルのもとに生まれた子どもであるとする。こうした子どもたちのエスニックバックグラウンドについての定義に影響する最も大きな要因の一つは制度的なシステムである。アメリカでは黒人の先祖が一人でもいると黒人と判断されるone drop ruleが歴史的に形成されてきた。しかし、1960年代から公民権運動が起こるなど、マイノリティに対する文脈が変わってくる。出生力はエスニック集団ごとに異なっていることが知られており、今後、mixed race/ethnicityの子どもたちが増えてくるなかで、どのように人口を予測するかが問題になるという。

Saperstein, A., Penner, A. M. (2012). Racial fluidity and inequality in the United States. American Journal of Sociology, 118(3), 676-727.

Watersの議論も踏まえ、raceが個人の中で本当に安定的なのかを定量的に検討した論文。アメリカの階層システムの中で、raceはメンバーシップを伴う制度の中に位置付けられる。すなわち、あるraceというメンバーシップに分類されることで、制度的な慣性、暗黙の偏見、蓄積された不平等、社会的な孤立などにおいて異なる扱いを受ける。したがって、アメリカではraceは社会の階層性を構成する重要な要素として考えられて来た。

こうした研究群では、raceはもっぱらinputとして扱われることになる。つまりどのようなraceかによって将来的なattainmentがどう異なるのか?といった問いに用いられる。したがって、raceは安定的なものとして想定される。社会的な構築物だと考えられてるにも関わらずだ。

しかし、この論文ではrace/ethnicity及び社会心理学の文献をもとに、逆の経路の可能性を検討する。すなわち、結果としての不平等がraceによる分断を強化するのではないか?
raceによる分断は、本人がどう自分のraceをidentifyするかという側面と、どのカテゴリに分類されるかというclassificationの二つの側面がある。前者の研究群においては、個人のracial identificationはネットワークや近隣、あるいは出身国によって変わりうることが報告されているという。これらの研究では、raceの揺れが表面的(単なる誤差)なのか、本質的(本人が意図的に変えている)のかで論争を呼んできた。

raceに関するもう一方の研究群、すなわち分類については,社会心理学などの知見から、アメリカでは「白人」には豊かさや知性というイメージが付与され、一方で「黒人」にはネガティブな特徴が付与されることが指摘される。こうした偏見に基づく関連付け(stereotypical associations)が分類自体にも適用される可能性を指摘する。例えば、lower classの黒人は人種によって語られるのに対して、middle classの黒人はそのclassによって語られるという。このような事例を踏まえると、一個人の中で地位が変わることによってracial identification/classificationは変わるのではないか?

この可能性を検討するため、筆者はNLSY79データの本人のraceのidentificationと調査員によるclassificationの二つを検討している。対象は最も最近のraceの情報がわかる2002年までとなっている(論文は2012年に出ているので、もう少しアップデートできないのか?)。identificationとして筆者は79年のorigin or descent、及び2002年のrace or racesを使用している。classificationとしては、調査者(interviewer)が毎回調査の終わりにraceを分類していたことに着目し、これをclassificationとしている。最後に聞いているのがポイントで、この論文の想定である、地位に基づいて人種が決まるというロジックにつながる。

いずれも、従属変数はwhite, black, otherの3つになっており、推定ではwhite or non-whiteないしblack or non-blackの二項ロジットになっている。これはinterviewerの分類がそれしかないことに起因していると思われるが、のちの批判論文で、この分類はwhiteがblackになったりblackがwhiteになったりすることを示唆するが、実際にraceが変わりうるのはヒスパニック系が多いことが指摘されている(さらにいえば、この論文では33%のサンプルが一回の地位の変化を起こしているとしているが、AlbaらはこれがNLYSがヒスパニックなどのマイノリティをオーバーサンプルしており、筆者たちがウェイティングをしていないことを暗に批判している)。

独立変数として用いているのは、長期の失業(4ヶ月以上)、貧困、収監、福祉手当の受給、学歴達成、婚姻上の地位と居住地である。これらの変数のうち、居住地以外はその「経験」が用いられており、要するに一度でもその地位についたことがあれば1になるように設定されている。この点も批判されることになったようだ。

分析の結果は、想定通り黒人と関連づけられやすい特徴をもつと、黒人と分類されたり、自分のことを黒人として分類したりする傾向にある。反対に、白人と関連づけられやすい特徴(わかりやすい例としては大卒)を持つと、白人に分類されやすくなるという。

Kaufman, J. S., Cooper, R. S. (2001). Commentary: considerations for use of racial/ethnic classification in etiologic research. American Journal of Epidemiology, 154(4), 291-298.

Williams, D. R., Sternthal, M. (2010). Understanding racial-ethnic disparities in health: Sociological contributions. Journal of Health and Social Behavior 51(1suppl), S15-S27.

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