October 18, 2013

Analytic Induction


昨日Finch & Masonを持ち上げてしまったので、Analytic Inductionについて書いてみる。

マルチメソッドの手法の一つにAnalytical Inductionなるものがある。

参照した文献はDevine & Heath (1999)によると、Finch & Mason (1993)によるNegotiating Family ResponsibilitiesがAnalytical Inductionを実践した研究として紹介されている。

この手法、マルチメソッドの一つなので、量的研究と質的研究を巧く融合させている。説明されれば当たり前の論理なのだが、これが社会調査の枠内で実践できることに少し感動する。これはグラウンデッド・セオリーをパッケージ化したようにも思え、実際のそのようなデータがあれば、すぐにでも実践できるのではないか。(データがあればの話だが、)


また、この手法は普通の量的調査だけで本音が分かるような質問には向いていない。(本音とは何かはさておいて)



手順を示す前に、このことについて確認しておこう。

質問紙調査では往々にして社会規範が邪魔をする。
代表例が相対リスク回避の質問である。相対リスク回避とは何かというのは省略するが、具体的には以下のような状況で行為者が下す判断のことを指す。

ひとまず、社会をアッパークラス、ミドルクラス、ワーキングクラスの三つに分けよう。それぞれの階級の人間のもとには子どもがいる。
ここで、親は自分の子どもに、最低でも自分と同じ階級に辿り着いてほしいと考えるという強い仮定をおく。例えば。ミドルクラスの親は子どもに最低でもミドルクラスを継承してほしいと考える。

そして、各階級に達成するために、単純に学歴だけが必要な社会を考えよう。大学に進学することと中等教育で学歴を終えることの間では、ミドルクラスに到達する確率が大きく異なるとしよう。(もちろん、大学への進学がミドルクラスに到達する確率を高める。)

ここで、ワーキングクラスとミドルクラスの親は子どもの教育達成に対して異なる考えを抱く。前者は大学に進学しなくても子どもは最低でも自分と同じ階級に到達できる。後者は大学に進学しなければ、ワーキングクラスに子どもが到達してしまうかもしれない。このような階級の再生産を個人の合理性(具体的には、相対的なリスクを回避すること)から説明するのが相対リスク回避論である。

これを社会調査で確認するために手っ取り早いのは、親が子どもに対して、自分と同じ階級に到達してほしいかを聞くことである。

例えば、以下のような質問文が考えられる。
「お子さんには最低でも自分と同じ社会的地位を得てほしいと思う」

相対リスク回避は階級の再生産を個人の合理性から説明する有力な仮説の一つになっているが、社会調査でこれを実証するときには一つの大きな困難がつきまとう。それが先程述べた社会規範との衝突である。

親は「本音」としては自分の子どもに自分と同じくらいの地位や収入を得てほしいと思っているかもしれない、しかし社会調査で出てくるのは「建前」、つまりそんなこと思っていないことを示唆するような回答をしがちになる。

しかし、社会調査で「本音」を聞き出すことは不可能ではない。質的調査によって深層まで入り込むようなデータが手に入れば、可能性は出てくる。in depth interviewとか言われるやつだ。

長くなったが、トライアンギュレーションの一つであるAnalytic Inductionはこのような「本音」と「建前」が調査によってバラバラに出てくるようなセンシティブな問題に向いている手法だ。


前置きが長くなってしまったが、手順をフローに示す。


1. 量的調査で仮想的な質問をする
2. 量的調査の回答者から、仮想的質問に最も近い対象者を選びインタビュー調査をする。
3. インタビューから仮想的質問の背後にある特徴をあぶり出す。
4. 仮想的質問の状況に似ている対象者、似ていない対象者双方に、3から出てきた共通の特徴が彼らにも該当するかを突き合わせる。
5. 3-4の結果、仮想的状況を経験した対象者にのみ該当する部分を明らかにする。

この結果明らかになった部分が、本音と建前を分けている要因と想定できる。

Finch & Mason (1993)の調査では、978のランダムサンプリングにより抽出された大人に、Vignettesという仮想的な質問をしている。
例えば、この調査では「海外での労働を終え帰国してきた子連れの若い夫婦が住宅を見つけられず困っている。このとき、彼らの親戚は自分の家に彼らを招くべきだろうか」という質問をしている。家族の責任や義務についての仮想的質問をしている訳だ。

さらに、回答者のうち31名及びその家族、計88名に複数回のインタビュー(合計120回)を実施している。
Analytic Inductionが実践されているのは、以下の離婚後の義理の母との良好な関係についての質問に対してである。

1. 3歳と5歳の子どもを持つJaneは最近離婚した。就労する場合は子どもを誰かに見てもらわなくてはいけない。彼女自身の家族は遠くに住んでいるが、義理の母であるAnn Hillは近くに住んでいる。JaneとAnnの関係は良好だ。このとき、AnnはJaneの子どもたちの面倒を見るべきだろうか?
2. Annは子どもたちの面倒を見ることになった。しかし、数年後にAnnは介護が必要になってしまう。このときJaneは仕事を辞めて義理の母の世話をするべきだろうか?
3. Janeは仕事をやめてAnnの介護をすることを選んだ。数年後、Janeは再婚した。JaneはなおもAnnの世話をすべきだろうか?

量的調査から離婚後の義理の母との良好な関係を尋ねたVignettesでは、1.に対して多くの賛成の意見が、2.に対しては賛否は分かれ、3.については賛成が圧倒的だったという。全体的に、賛成が多かったが、これはNormativeな回答をしていると考えられる。実際、88サンプルのインタビュー調査では、ほとんど賛成が得られなかったのだ。(もちろん、これは代表性に欠けているので、ランダムサンプリングの結果と直接リンクしている訳ではない。)

両者が対立しているのを、異なる現実を明らかにしていると見るか、同じ現実の重なる側面を移していると見るかは認識論的な議論になるのでここでは省略する。(ただし、注意すべきは認識論的なレベルでは決着がつかないのがこの調査の限界である。)

次にFinch & Masonがとったのは、88名のインタビュー協力者のうち、この仮想的質問の状況に最も近い人を選び出す作業である。18名の離婚経験者のうち、Mary Mycock(仮名)という人が、離婚後も義理の母と良好な関係を続けており、Vignettesの質問に最も近い人物であった。

Maryへのインタビューから、Vignettesの状況に関して、義理の母との互酬的な関係があったことなど、5つの特徴が判明する。この特徴のうち、どれが離婚後の良好な関係にとって必要なのかを、仮想的質問の状況に似ている対象者、似ていない対象者双方にインタビューすることで突き合わせる。

結果としては、離婚前の良好な関係が重要であるという、当たり前と言えば当たり前の結論が出てくる。だが、量的調査の仮想的質問においては、この離婚前の良好な関係が質問文で明示されている。そのため、Finch & Masonによれば、この前提がNormativeな回答を引き出したという。しかし、実際にインタビューしてみると、(回答者は自分のことだと思って答えるからだろうか)、量的調査とは異なる結果が出てくる。それは、多くの家庭では離婚前の良好な関係はめったにないからだ。



書いているうちに、この調査、じつは問題含みばかりなのではないかという気もしてきたが、恐らく重要な点はいかにまとめられる。

・仮想的質問を量的調査でおこなうと、回答者は規範的な回答をする。それは、自分の状況を棚に上げて答えるからだ。
・仮想的質問をインタビューでおこなうと、量的調査とは異なる回答をする。それは、仮想的質問を自分に重ねて答えるからだ。

なんだか、違う気もするのだが、一応このようなことが言えたとする。
その上で、最初の相対リスク回避の規範的回答問題について、何か言えないか考えてみよう。としたが、思いつかない笑

「お子さんには最低でも自分と同じ社会的地位を得てほしいと思う」ではあまりに抽象的すぎるので、上手く質問紙とインタビューで意見が割れそうな質問を考えたいのだが、、、(というか設計者がこれを考えている時点で結構アウトな気がしてきた。。。)







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