***なぜアメリカの大学院のSoPは「緩い」のか***
一度、日本の大学院入試を受けられた方はわかると思いますが、研究計画をA4用紙2〜3枚程度に、ぎっしり書いたのではないでしょうか。使用するデータや、細かいリサーチクエスチョン、先行研究の詳細なレビューをされた方もいるかもしれません。アメリカでも、シカゴ大学などはこうした詳細な研究計画を要求してくることがあるのですが、多くの大学院では、Statement of Purposeのところに「こういうことを検討したい」程度で済ませることができます。分析に用いるデータが本当にあるのかどうかは、その時点ではあまり重要ではありません。
日本やイギリスに比べて、アメリカの大学院の研究計画が「緩い」のは、現時点の計画性よりも、個人のポテンシャルを評価する傾向にあるからだと考えています。まだ社会学を学んだことのない学生も出願してくるため、社会学の既存研究に対する知識を前提とした詳細な研究計画よりも、その個人がもっているアイデア自体に焦点を当てているのでしょう。
***ライティングサンプル=研究能力を示す資料***
ただし、その人の研究能力が全く見られていないかというとそうではありません。アメリカの社会学PhDでは、ほぼ例外なくライティングサンプルを要求されます。このライティングサンプルは、直接、PhDで検討する問いに関連している必要はなく、社会学の論文である必要もありません(もちろん、社会学的な論文で、自身の関心に近いものがより望ましいでしょう)。
私は、ライティングサンプルも、昨年度とは大幅に変更しています。昨年度は、日本語の査読付き論文を英語に直したものを提出しました。個人的には、最初に掲載した査読付き論文ということもあり、多少は自信はあったのですが、今振り返ると、以下の点が弱点だったと考えています。
・分析がわかりづらい
内容は、夫婦の地位が同じ同類婚(homogamy)が世代間で連鎖するかを検討したものでしたが、こうした問いを提起する研究自体がそれほど多くありません。また、用いている手法も、ログリニアモデルという、社会学では比較的使用されるものですが、一般的な回帰系の分析とは手続きが違うため、用いたことのある人ではないとわかりにくいと考えられます。
・日本語から英語に直した
すでに出版された日本語の論文を英語に直していたため、論理展開などがフォローしにくかったのではないかと思います。
・研究の意義がアメリカの先生に伝わりにくい
あくまで日本の事例を、日本の読者向けに書いたものだったために、この論文が、どのような普遍的な意義があるのか、主張しにくかったと思います。社会学では、国際比較ではない場合、基本的に当該社会の事例のみである程度の普遍性を持つことが仮定されているように思います。したがって、北米の先生向けに、北米の議論を提示すること自体は、特に疑問を持たれないのですが、日本の事例を検討する際には「なぜ日本を(わざわざアメリカではなく)見る必要があるのか」という疑問を持たれることがあるのではないかと考えています。
以上の点を踏まえ、今年は、全く新しい論文を、英語で一から書き始めました。工夫した点は、(1)問いをシンプルにした(手法もシンプルにした)、(2)英語で書き始めた、(3)日本的な文脈を踏まえて、日本でも人口学で言われている命題が当てはまるかに焦点を当てた。(3)についてですが、要約すると、日本ではその制度的な文脈のために、欧米で提唱されている命題が当てはまらないと考えられてきたのですが、欧米とは違う側面に着目すれば、その命題は多少当てはまるのではないかということを主張したものです。
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