DemSemは基本的に毎週一回しか開かれませんが、今回は若干特別らしく、前日に引き続いてセミナーが開かれました。報告者はCUNYのJanet C. Gornickさん。先進国の公共政策をジェンダー平等の関連から分類し、それが女性の就労や収入の不平等にどう関連しているのかに関する国際比較で知られています。
ただし、いつものDemSemと異なるのは、水曜日に開催されていること、及びCDE以外の機関もセミナーを後援していることでした。具体的には、La Follette School of Public Affairs, Institute for Research on Poverty, そしてCenter for European Studiesです。女性の就労やジェンダー格差といった話だけではなく、公共政策、所得格差、そしてLISデータを用いてEU諸国を含めた国際比較に特徴付けられる彼女の研究が、いかに分野横断的であるかを示していると思いました(もちろん、大物なのでCDEの予算だけでは...という話もあるんでしょうけど笑)。
報告内容ですが、最初に述べた各国の政策をジェンダー平等の観点から再評価し、それらが女性の就労や出生などとどう関連しているかという一連の研究のレビューと、その後に受けた批判などに対するリプライが主な報告内容でした。
こういった政策の国際比較となると、エスピン=アンデルセンの福祉レジーム論が思い起こされますが、Gornickさんの研究では、福祉だけではなく教育政策や、育児休業のような福祉とも労働とも言い切れない領域に特に注目しているため、基本的には公共政策(public policy)で用語が統一されています。また、企業や州の政策をみているわけではありません。あくまで、各国間の国レベルの政策の研究です。
彼女の研究の特徴は、これら一連の政策を総合的に評価していること(policy packageというアイデアを出しています)、加えて政策の質(育児休業の場合には、どれくらいの期間、どれくらいの手当がもらえるのか)だけではなく、それがジェンダー平等的なのかを検討していることです。例えば、育児休業の場合、その期間や手当額といった側面が充実していても、それが女性に偏っている場合には、ジェンダー不平等となります。逆に、アメリカのように全く育児休業制度が国レベルで整備されていなくても、それはそれでジェンダー平等と言えるので、このスコアは高くなるというわけです。
報告では、育児休業や労働時間の調整を労働者の裁量で変更できる権利がどれだけあるのか、あるいはフルタイムとパートタイム間の時間あたり賃金が平等なのかどうかなどに着目して、各国の政策を評価、分類しています。その結果、LISデータが対象とする(北米+ヨーロッパの)国々の中では、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、そしてフランスがもっとも寛容(generous)かつ平等(gender equal)な政策を展開していることが指摘されました。
ただし、これらの一連の研究に対して、いくつか批判が投げかけられます。その中で、もっともクリティカルとされたのが、「ジェンダー平等政策は新しいジェンダー不平等を生み出してしまうのではないか」というものでした。どういうことでしょうか。いくら政策が整備されたとしても、男性よりも女性の方がそうした政策の対象となることが多いため、政策がジェンダー平等になるにつれて、雇い主(企業)は結局男性を選好するだろうということです。
というわけで、ジェンダー平等政策の進展が、例えば企業における統計的差別や賃金格差に繋がっているかどうかが、次の焦点となります。今回の報告では、Gornickさんの研究ではなく、その他の研究からの引用にとどまっていましたが、結果としては、両者の関連は必ずしもみられないというものでした。
最後に、今後の課題として、各国の政策を享受する際に、階級や学歴、スキルレベルといった特徴によって分断線があるのかどうかが、重要になってくるという点を指摘されていました。例えば、トップ1%の富裕層であれば、国ではなく市場のサービスを使ってジェンダー平等を達成できるためアメリカにいるのがベストな選択肢ですが、例えばシングルマザーであったり、貧困層にとってはアメリカは理想の国ではありません。各国の政策の寛容性については検討してありましたが、その寛容性がどの階層にも開かれているのかどうかという点については、検討できず、今後多くのdissertationが出るのを待っている、ということでした。
私がGornickさんの報告が非常に面白いなと思ったのは、Policy packageという補助線を引くことによって、国際比較の意義がより出てくると思ったからでした。国際学会などで、日本を検討する際に、なぜ日本なのかと言われることは多いわけですが、Gornickさんのような国際比較研究の枠組みで言えば、日本のような国は検討する価値のあるケースになると思います。それは、出生力が最低レベルという東アジアの国であるという点もありますが、未婚化によって女性の就労率はアメリカなどの先進国よりも高いからです。
また、おそらく日本の一連の政策は、寛容性も低く、ジェンダー不平等も大きい集団に分類されると思いますが、もしかすると集団間でみた、政策を享受できるかの格差はそこまで大きくないかもしれません。であるとすれば、それはなぜなのか。果たして政策と出生や男女の賃金格差はどれだけ関連しているのか。色々と検討する価値のある問いが出てくる気がします。
Gornickさんの報告は、この15年の研究のまとめということで、新しい研究の話をする時間が限られていたのが残念でしたが、今後の研究の可能性を最後に示してくれたので、聞いている側、特に博論のテーマを考えている学生には、自身の研究に活かせるような展望を提供してくれるものだったのではないかと思います。
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