感想めいたものです。最初に記者の方への返信として書きましたが、特に差し障りのあることは書いていないので、先方に断った上でここにも載せておきます。多少書き加えています。
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私自身、朝日新聞のような大手全国紙の取材を受けるというのは初めての経験だったので、色々と勉強になりました。
良かった点としては、思いがけない反響がありました。高校の先生から、大学時代にお世話になった事務の人、大学院の友人まで、いろんな人から紙面、見たよと言ってもらえて、そこはとても嬉しかったです。研究者という職業は、なかなかダイレクトなやりがいを感じにくいところがあるので、自分の研究を知ってもらえる機会としては非常にありがたかったです。直接連絡をくれなかった友人や同僚にも、読んでくれている人は多いと思います。思いがけず私の近況を伝えられる機会になりました。また、記事を通じていくつもの示唆的なコメントもいただけて、これから研究がより一層前に進むと確信しています。
やはりこういった経験は初めてでしたので、他にも思いがけない点はありました。結局のところ、こういった記事はどのように解釈されるか、書き手のコントロールがきかないところがあります。もちろん、それが上で触れたような良い意味で思いがけない示唆に出会うことを可能にしているとは思うのですが、そうではない場合もあります。例えば、学会報告を記者が聞いているわけがないという思い込みから、私が記者に売り込んでメディアへの露出を狙うことで知名度を獲得しようとしているという根も歯もない憶測がありました。大学院生の研究が全国紙に顔写真付きで載るのは珍しく、テーマも相まってそういった奇妙な考えを持つ人の吐け口にされたのかも知れません。そうした憶測に対して反論するために、ある程度の地位や業績は必要だなと思いました。また、周りの研究者の中には、取材を受けた対価として報酬もある程度あった方がいいのではないかと考える人もいて、当初その考えにも賛同したところがありましたが、こうした憶測に対してきちんと反論できるよう、今後取材があっても今回と同様、利益は受けないようにすることが大切ということを学びました。
記事の中身では、「数学のない入試形式も考える」というところに噛みつかれた人が多かったです。私の考えでは、一つの入試形式に固執せず、多様な入試形式を考える中で自分の得意科目で受験できる制度の具体的な一案として提案したつもりだったのですが、入試から数学を廃止するような意見に読み替えられ、不本意でした。数学のない入試という具体的な提案に意見が分かれるのは理解できますが、入試制度に手を加える場合に生じるトレードオフについて冷静に評価できず、自分の信念に反する意見を頭ごなしに否定する人が多いのは残念なことです。ただ、私もいらぬ争いは避けたいので、できるだけ多くの人が賛同するような提案をしたいと思っています。数学というのは私が想像していた以上にポリティカルな領域だったようで、今後はどういう反応が来るかも斟酌していければと思いました。
個人的な考えですが、学会発表段階の研究を公表するのは少し迷いがあり、まだ正しい判断だったかどうかはわかりません。査読前のプレプリントが記事になることは珍しくなくなり、その意味では学会発表も広義のプレプリントだと思いますので問題視はされないのかも知れません。また査読のない書籍の知見がメディアに上がるときはどうするのかと考え出すと、なぜ査読前の業績は取材を受けてはいけないか、合理的な説明は難しくなります。今回は私が1月から行ってきた研究かつ、掲載いただいた部分は非常に記述的な部分で、今後査読者からコメントを受けても出てきた結果が大きく変わることはないと考え記事になることに了解しましたが、研究者の中でも考えは分かれるところだと思いますし、私もケースバイケースで判断した方がいいだろうと思います。
最後に、テレビ局でディレクターをしている大学時代の悪友が以上のような悪態をついた私に対して、こう諭してくれました。
1、何か間違ったことをしたか?
2、正しいけれど誰かを傷つけることをしたか?
これらを考え、両方NOであれば批判を聞く必要なく、生産的な指摘だけ記憶に留めて研究に戻ればいいと言ってくれました。つまるところ、私が過度に周りの意見を気にしすぎなのかも知れません。そうしたことも含めて、今回の取材から実に多くのことを学びました。まだ大学院生の身分で、こうした経験ができたのは本当に貴重だったと思っています。
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研究をする以上、最終的には人の役に立つ成果を出していきたいので、私の研究を通じて少しでも世界がよくなるようにするにはどうすればいいか、考える機会になりました。引き続き研究を進めていきたいと思います。
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