January 5, 2017

diagonal reference model (DRM) -地位の組み合わせがアウトカムに与える影響の推定-

社会移動にしろ、夫婦の地位結合にしろ、パターンの組み合わせは掛け算でm*n通りあるわけだが、社会学ではこうした地位の組み合わせが出生力や社会的態度に与える影響が検討されてきた。カテゴリが同じならば、2m通りの組み合わせがある。ここで、上昇移動なり、下降婚の効果を知りたい、まあ何と比べてという点が重要なわけですが、とりあえず比べたいとする。

ここで、幾つかアプローチがある。Eeckhautのレビューが参考になるが、大きく分けると「差分」(difference)アプローチと「合成」(compound)アプローチの二つがあるらしい。前者は、量的にしろ質的にしろ、二つの地位の差分を取る。例えば、3分類の学歴だとして、夫が1、妻が3だとすれば、引き算して-2のように。この手法は、心理学界隈では批判されてきたらしい。例えば、両者の学歴は似かよる傾向にあるので、差分を取っても測定の信頼性に疑問符がつくらしい。また、線形にとらえる場合には、本当にリニアなのかという点に疑問がつく。あるいは、9パターンあったとしても3-2と2-1は同じ1なので、情報をロスしてしまう。

合成アプローチとは二つの変数の差分を取るのではなく、両者を組み合わせる。m*n通りのパターンがあるとすると、それらを全て指標化したり(mn-1のダミー変数)、あるいは主効果を残して交互作用を検討する((m-1)+(n-1)+(m-1)(n-1)のダミー変数)方法が検討されてきた。この合成法では、情報量が多いというメリットはあるが、大抵極端な値はケースが少ないので推定が不安定になり、結果的にマージすることになる。また、前者の場合にはベースラインの効果を入れていないので、主効果込みの解釈になってしまう。もちろん、主効果込みで別途交互作用を入れることは可能ではあり、素朴な方法としてはこれが一番納得のいくものと考えられるが、Sobelらは解釈が煩雑になることに懸念を表している。

では何がいいのか。Sobel (1981, 1985)で提唱されているのが、diagonal mobility model、より一般的にはdiagonal reference model (DRM)である。この手法の発想は、名前の通り、対角セルをレファレンスとするところから出発している。要するに、i*jのクロス表を考えた時、対角セルとはi=jのセルのことである。このセルにいる人は、非移動であったり、同類婚の状態にある。
ここで、移動した人や、異類婚の人の地位を考える。この人たちは、二つの異なる地位から組み合わされたケースと考えられる。RiCj (ただしi != j)のセルを考える。DRMの発想は互いに異なる地位からなるセルの度数を、二つの地位がそれぞれ同一である場合のセルの度数の重み付けによって定義しようとしている点が重要である。

すなわち、p+q=1、セルの平均度数をμとすると、

Fijk=p*μii + q*μjj + εijk

ここで、εは誤差項、kは各個人とする。μはそれぞれ対角セルiiとjjの期待度数を示している。したがって、異なる地位からなるセルの度数は、任意の二つの対角セルの度数の重み付けによって定義される。このp, qを非線形モデルとして推定するのがDRMである。ちなみに、対角セルの場合にはp+q=1なのでμiiないしμjjに等しくなる。pの値がわかればqも自動的にわかるので、度数の予測はpと対角セルの度数がわかれば計算できることになる。

パラメータp, qの解釈は「平均的な行と列の影響力」と解釈できる。あるいは、重み付けと解釈しても良い。例えば、pの値は0.7であれば、各非対角セルの度数を決定する際に、行の効果(親の地位なり一方の配偶者の地位)が7割を占めているということである。帰無仮説的に考えるのであれば、p=q=0.5であろう。

このモデルだけだと、あまりに素朴なので、幾つかの拡張方法がある。例えば、行列の重み付け効果は下降移動の場合に異なると考えるのであれば、下降移動の場合に1となるようなパラメータを設定して、p'とq'を推定することもできる。また、個人ごとの共変量を入れることもできる。下降移動が度数に対して独立に影響すると考えれば、それも別途入れられる。前者をXijl、後者をDijwとすれば、

Fijk=p*μii + q*μjj + +βl*Xijl + βw*Dijw +εijk

のように推定される。なお、度数を独立に予測する下降移動と、行列の重み付けが下降移動とそれ以外とでは異なるというのは、別個のものである。

推定されるパラメータは重み付けのスコア、対角セルの平均値、ならびに共変量の係数(と標準誤差)となるので、gnmで推定した結果はやや気持ちが悪くなる点には注意。Eckhautらの以下の論文がわかりやすい例である。

Eeckhaut, M. C., Van de Putte, B., Gerris, J. R., & Vermulst, A. A. (2014). Educational heterogamy Does it lead to cultural differences in child-rearing?. Journal of Social and Personal Relationships, 31(6), 729-750.

DRM誰かやっていないか探してみましたが、いました、なんと岩澤先生笑(1995SSMのメンバーだったとは...) DRMは社会移動のアウトカムを測定するために発達した手法で、Sobelがこの方法を提唱した時に用いたのが出生ということで、岩澤先生もやってみたという感じでしょうか。先生が実際に分析されているのはHopeのダイヤモンドモデルですが、結構感動します。
http://srdq.hus.osaka-u.ac.jp/PDF/SMM1995_r2_5.pdf

動機としては、以下の二つの論文に触発されました。社会移動の効果を簡潔に表現したいという欲求でDRMは発展しているが、夫婦の地位結合に関しても同様の議論は応用できると考えられ、すでに幾つか研究もあります。
Eeckhaut et al. 2013. Analysing the Effect of Educational Differences between Partners: A Methodological/Theoretical Comparison. ESR.

Gong. 2007. Does Status Inconsistency Matter for Marital Quality? JFI.

以上、1月31日までの宿題。DRMについてはあとで山口先生の論文も読んでおく。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjams/20/2/20_2_137/_pdf

ちなみに、最初はこのツイートから、Omar Lizardoが開発したdiagrefパッケージを使ってみようとしたが(解説もあるが http://www3.nd.edu/~olizardo/Stataprogs/diagref/diagref.pdf)、なぜかサポートされていない、というかパッケージ自体が見つからない。
https://twitter.com/familyunequal/status/239371679212642305

従って、Rのgnmパッケージを使うことにする。
https://cran.r-project.org/web/packages/gnm/gnm.pdf

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