Cowen, Tyler. 2013. Average is Over: Powering America Beyond the Age of the Great
Stagnation. Dutton. (=2014, 池村千秋訳, 『大格差—機械の知能は仕事と所得をどう変えるか—』, NTT出版.)
人工知能や高度なコンピュータのデータ解析に代表される技術進歩(ムーアの法則)が様々な分野で見られ、これら規制が弱い機械の知能に関わる分野ではイノベーションがますます生じるようになる(第1章)。機械が生み出す利益はコンピュータ技術や情報処理機器と「一緒に働くことのできる」人材、あるいは高度に分業化したプロジェクトを適切に管理できるマネジメント層に流れる。単にSTEM教育を受けた人が有利になるというわけではなく、「テクノロジーの知識を現実世界の問題解決に結びつける能力」(e.g. マーケティング能力)(p.27)を持つ人が優遇される。所得格差が拡大する中で、分化した嗜好を把握できる能力が重要になる。また、経済的価値の測定が容易になることで、学歴にかかわらず生産性の多寡で雇用される「超実力主義社会」が進行する。テクノロジーへの依存が高まる多くの分野において、労働者には高い士気を持ち長期にわたって協調し、正確に業務を遂行する「真面目さ」が要求されるようになる。労働力の量ではなく質が重要になるにつれ、これまで以上に能力や資格に基づく選抜が激しさを増し、結果として中流層は薄くなる(第2章)。機械が人間の職を奪うわけではない。アメリカの高い失業率の原因は、新しく生み出される職が低賃金の一方、労働参加率の低さから示されるように、「中流」を志向する多くのアメリカ人にとって現在の職業が「割に合わない」とみなされているからだ(第3章)。
1970年代から続くアメリカにおける賃金の停滞は、中国などへの生産拠点の流出によって生じているとする研究があるが、企業のこうした動きを抑制することは難しく、移転が盛んな産業では生産性が増している。仮に雇用を国内に留めておきたければ移民に対して寛容な策をとるべきだろう。労働市場の二極化とともに、都市や国家も分化する。アメリカやヨーロッパでは、学歴や所得による居住地の分離が進行している(第9章)。社会の分厚い中流層を維持するためには教育が重要になる。安価に提供され柔軟性に富むオンライン教育は大都市に住んでいない人にも教育を行き渡らせる可能性を持つ(第10章)。現代の多くの職業がその土台を置いている科学分野においては、役割の専門分化が進み、改名すべき問題が複雑化し、革新的な業績を上げる年齢が遅くなりつつある。こうした不可逆的な潮流の結果、徐々にコンピュータが科学的発見の中心的位置を占めるようになる。経済学分野では、ビッグデータの浸透とともに、理論的背景が比較的弱いデータの質に重きを置いた分析が増えている(第12章)。今まで述べてきた労働市場の変化によって、社会は15%の富裕層とその他大勢に分極化する。今後は、前者と高齢者が政治的な影響力を増すようになる。増税と社会保障は維持されるが、次第に財政難が生じ、企業負担・国民負担を通じて実質賃金が減る可能性がある。所得の二極化は学歴と所得に基づく居住の分離が進行させ、蓄積した資産の格差は現在よりも大きくなり、高齢期の生活に影響を与える(第12章)。
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