June 16, 2021

東大生の官僚離れは今に始まったことではない

 とある記事を周りの人がたくさん引用していました(私は朝日新聞デジタル契約してないので見れませんが)←友人に頼んでみせてもらいました。

「日本落ちるだけ」官僚選ばぬ東大生 めざす安定の形は

https://www.asahi.com/articles/ASP6G5TL1P67UTIL024.html

官僚と一口に言っても安定性を求めてる人もいれば、若い時から「大きな仕事」を任せてもらえることに魅力を感じる人など様々な気がします。長時間労働への忌避や官僚の社会的評価が不祥事によって下がることで前者が、あるいは政治主導の進展によって後者のタイプが流出してるのだろうと思います。特に財務なんかは後者の流出が多そうです。その点では、官僚の質は相対的に落ちてるかもしれません。

東大生の官僚離れは今に始まったことではありません(朝日記事では2015年から減少が始まったように書いていますが、実際にはそれ以前から東大生の官僚離れと見られる現象は生じています)。入試で文一の合格点が文二を下回る以前に、私が在学してた10年前近くには、すでに法学部の定員割れが起こっており、話題になっていました(=文科一類の人が法学部に進学しなくなった)。もうその頃にはすでに「大きな仕事」志向の人は財務・外務などと外コンを天秤にかけて後者を選び始めてた気がします。

大学時代の友人との会話から感じた個人的な印象に過ぎませんが、官僚とコンサルを比べるタイプの人にとって重要なのは、若い時から大きな仕事を自分の裁量でこなすことで、どれだけ自分が成長できるかにあったように感じます(少し穿った見方かもしれませんが、実際そういう旨の発言を聞いたことがあります)。

そういう志向性の人は昔から一定数いたはずで、彼らが官僚をキャリアとして選ばなくなったのには、政治主導や度重なる不祥事もあるでしょうが、個人的には外資系コンサルなど、競争的な民間企業が昔よりも台頭してることの方が大きいのかなと思います。朝日の記事で最初に引用されている方は、長時間労働への忌避を官僚を選ばなかった理由の一つに挙げておられますが、代わりに選んだ外資系コンサルが働きやすい職場かと言われると、結局のところ日本では、繁忙期に徹夜覚悟で働く必要があるのは官僚もコンサルも変わらない気がします。労働環境のブラックさに引きずられると、外コンが選ばれる他の理由を見逃してしまうのではないでしょうか。

財務省や外務省が典型ですが、若い時から「大きな仕事」−− それは人によって定義が違うでしょうが、国の何千億という予算を動かすであったり、各国の意思決定層と折衝したりとかでしょう−− をこなしたいと考えている人にとっては、年功序列・終身雇用の安定性よりも、各々が定義する自己投資に資する企業があれば、そちらに行くはずなのです。したがって、この記事で触れられているような安定性に価値を置くような人が官僚離れの代表であるような書き振りが必ずしも正しいとは言えないでしょう。同様のテーマを数年前に扱ったNHKの記事が取材したような、仕事を通じた個人の成長を考えて官僚ではなくコンサルを選ぶ人も一定数いるのではないかと思います(安定性だけを考えるのであれば、銀行や東京都、あるいは働きやすいメーカーなどの民間企業に行けばいいと考えると思うのですが)。

官僚を最後までやり遂げようとする人がいる一方で、官僚をキャリアの一つのステップとみなしている人は昔からいるはずです。そういう人が官僚をファーストキャリアとして選ばなくなったことも、東大生の官僚離れの一要因としてはあるでしょう。すでに若干触れましたが、このタイプの人の方が、安定性志向の人よりは優秀な人が多い気がしています。したがって、仮に国の屋台骨の衰退といった懸念を考える時に、より危惧すべきはこの層の流出だろうと思います。

東大に入るまでは、官僚になりたい人というのは公僕志向というか、国の役に立ちたいという気持ちが強い人が多いのかなと思っていた節があります。実際、そういう人は一定数いるのですが、同時にそういうマインドの人ばかりではないんだなと印象に残ったのを覚えています。もちろん「大きな仕事」志向の人と公僕タイプの人は両立します。例えば、財務省を数年勤めた後に退職して、地方自治や国政の道に進む人はこのタイプかもしれません。

まとめると、長時間労働を是正し、職場環境を整備し、給料をあげても、外コンに流れて行った人(流出をより危惧するべき層)は戻ってこない気がします(特に男性は)。クオリティコントロールとしての解決策の一つは(これもすでに起こっていることみたいですが)民間からの出向をもっと増やすことでしょう。外コンにいる人に、このプロジェクトに関わって欲しいので、2年間出向に来てくれませんか、そういうサイクルをもっと増やしていくのです。そのためには、年功序列のローテーション型の雇用から、ジョブ・デスクリプションを明確にした、いわゆるジョブ型雇用を進めることが望まれそうです。日本では評判の悪い、というか誤った理解が進むジョブ型雇用ですが、個人的には官僚のトップ層などはこうした雇用形態をどんどん進めていいのではないかと思います。

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