June 4, 2018

第70回日本人口学会

浦安市の明海大学にて開催された日本人口学会に参加、及び報告をしてきました。

一応、日本でする(当分は)最後の学会報告だったので、少し感慨深くなるのかと思ったのですが、終わった後も対して気持ちに浸ることもなく。初日の朝一の報告だったので、そのあとは色々と報告を聞いて回りました。ちょっと並行部会が多すぎる傾向にあるような感じがしました。結果的に、一つのセッションにとどまるというよりは、聞きたい報告のために移動したり、部屋を移ったと思ったら時間配分が違っていて目当ての報告が聞けなかったり、なかなか難しいところです。人口学会の規模的には、並行部会は3つくらいでいいような気がします。

気になった報告はいくつもありますが、一つだけここで紹介します。

それは、国勢調査の不詳に関するセッションで丸山洋平先生がされた住宅所有関係の不詳の問題に関するものです(アブストはこちら)。

国勢調査はプライバシー意識の高まりなどを受けて、2005年以前は調査員が回収時に確認していた方式から、2010年からは確認せずに提出する封入方式に変わったほか、2010年からは対象者が希望すれば郵送による送付が可能になりました。さらに、2010年からオンラインによる調査が実施されています。これに伴い、職業や学歴、5年前の居住地などに不詳割合が増加しています(ただし、オンライン調査の回答者において不詳割合が高いわけではないと思います)。

その中で、住宅関係の項目については、不詳割合が低いです。具体的には、2010年の国勢調査では、世帯主の年齢の不詳数が825,699件だったのに対し、住宅所有関係(借家なのか持ち家なのか)が21件、住宅の建て方(一戸建てなのか集合住宅なのかetc)が3323件。2015年国勢調査では、世帯主年齢の不詳はさらに増え1,177,617件だったのに対して、住宅所有関係は380件、建て方にいたっては0件になっています。

さすがに不詳が0件というのはおかしいのではないか、と思うわけです。この謎を解く鍵として丸山先生が指摘されたのが、国勢調査における「補記制度」です。この制度に入る前に、国勢調査では、以下のような文言が定められており、従来から世帯員以外から調査項目を確かめることが可能になっています。

世帯員の不在等の事由により前項に規定する方法による調査を行うことができないときは、国勢調査員等が 同項の期間内において第五条第一項第一号イ(世帯員の使命)及びロ(世帯員の男女の別)並びに同項第二号ロ(世帯員の数)に掲げる事項を当該世帯の世帯員以外 の者に質問し、これに基づいて調査票に記入することにより国勢調査を行うことができる。

具体的には、お隣さんや大家さんに、調査対象者の名前や性別を聞くことはできたということですね。

さらに、平成22年からは先にあげた「補記制度」が始まっています。

(3) 行政情報の活用及び関係者への質問
調査書類の審査においては,調査票に記入不備等があった場合に世帯に対する照会を行うほか,市区町村においては,必要に応じて行政情報等の利用マンション関係者等への質問による調査票の記入不備の補記を行います。
(平成22年国勢調査実施計画)
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/keikaku/pdf/sy02.pdf

行政情報というのは、具体的には住民基本台帳などを使って、調査票を補記訂正することを指しますが、住宅関係の情報は行政情報にはありません。したがって、後者の「マンション関係者への質問」などによって、不詳の情報を埋めることができるようです。

丸山先生のご報告では、「住宅選好指数」という指標を作成し、所有関係の標準化を行い、東京都特別行政区の一部(新宿区や豊島区)で不自然な時系列変化が起きていることを指摘しています。この結果から、補記制度を使って、調査担当者が住宅の建て方を判断し(建物の形状は見た目でおおよそわかる)、そこから住宅所有関係(一戸建てであれば持ち家、マンションであれば民営借家など)を推測しているのではないかという可能性を提起されています。

ただし、実際には同じマンションでも貸家の場合もあれば分譲の場合もあるため、見た目だけからは所有関係を類推することは難しいでしょう。もし、丸山先生が指摘されているように、補記制度によって、住宅関係項目の不詳が類推によって埋められているとすれば、確定値の精度自体にも疑義が呈されることになり、非常に重要かつ論争的な報告だと思いました。


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