John GoldthorpeのOn Sociology (2006)は彼の社会学観を表した二巻本となっている。当初、彼はイギリスの社会移動に関心を持っていたが(さらにその以前は「豊かな労働者」のテーゼに関心を持っていた)、日本を含めた産業諸国の社会移動の国際比較についての本 The Constant FluxをRobert Eriksonと執筆してからは、もっぱら合理的選択理論を用いて階級間の不平等がなぜ再生産されるかを論じている。この本は社会学の方法論についての彼なりの考えと、それを踏まえた上での合理的選択理論の優位性を訴えている。
私個人としては、彼を単独で読むことはイギリスにおいて彼がどのように評価されているかという文脈を排除してしまうことになるので、あまりいい考えだとは思わない。Affluent Worker はまだしも、中期の代表作 Social Mobility and Class Structure in Modern Britain (1987)はMarshall at al. Social Class in Modern Britain (1989)と比べて読まねばならないだろうし、他にも彼のメリトクラシーの議論についてはSaundersの論文と比較しなければならないし、女性の階級的な地位についてはHeathらの反論も重要である。合理的選択理論に傾斜してからは、彼が依拠していると考えられるBoudonやHedströmのAnalytical Sociologyの議論枠組み、彼に異を唱えるDevineやAtkinson, Savageらのブルデュー派の議論が比較として不可欠になってくると思われる。順番が前後するが、Pakulski and Watersによるいわゆる「階級の死」の主張がGoldthorpeの議論に向けられたものであることは間違いない。彼が同僚のChanと取り組んでいる階級と文化消費の関係についても、アメリカのPeterson, Bryson及びイギリスのWardeやBennetの議論が下敷きになっている。また、彼の階級分析を他の理論と比べる時、それは経済的な資源に基礎を置いたネオ・ヴェーバリアン的なものになるが、階級分析の理論的立場としては他に neo-Marxist (Wright), neo-Durkheimian (Grusky) Bourdieu’s Class Analysis (Weiningerなど), Rent-based class analysis (Sørensen)などがある(詳しくはWright編集のApproaches to Class Analysisが詳しい。無料で入手可能。)
良くも悪くも、Goldthorpeは論争好きで、自分の言ったことを曲げずに通そうとするあまり、結果として以前と一貫しない主張をすることも少なくない。その分、非常に多くの好敵手が生まれることになり、結果としてイギリスの社会学が豊かになった側面もあるように思われる(例えばSavageらのGBCSはGoldthorpeへの強烈なアンチテーゼになっている)。しかし、それは必ずしも彼が現在のイギリスで評価されているということを意味しない。なぜかと言えば、イギリスでは彼の合理性に重きを置いた抽象的な理論は忌避されている。そのような前提を踏まえた上で、On Sociologyにある論文を読む方がよいだろう。
前置きが長くなったが、この本の各章は半分程度が既に雑誌に掲載されたものを若干修正して再掲されている。特に第一巻は2章から9章までのうち6章分が既出の論文なので、買う必要はないだろう。書き下ろしが多い第二巻は買ってもいいかもしれない。以下、リンクと引用数(google scholar)付きで載せておく。
Vol. 1
Ch.2
Goldthorpe, J. H. (1991). The uses of history in sociology: reflections on some recent tendencies. British Journal of Sociology, 211-230.
http://www.jstor.org/stable/590368?__redirected
引用数 187
Ch.3
Goldthorpe, J. H. (1997). Current issues in comparative macrosociology: A debate on methodological issues. Comparative social research, 16, 1-26.
http://poli.haifa.ac.il/~levi/res/pitfallg.rtf
引用数 248
Ch.4
書き下ろし
Ch.5
Goldthorpe, J. H. (2002). Globalisation and social class. West European Politics, 25(3), 1-28.
http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/.U3UEHtw_Jj0
引用数 127
Ch.6
Goldtborpe, J. H. (1996). The quantitative analysis of large-scale data-sets and rational action theory: for a sociological alliance. European Sociological Review, 12(2), 109-126.
http://esr.oxfordjournals.org/content/12/2/109.short
引用数 125
Ch.7
Goldthorpe, J. H. (1998). Rational action theory for sociology. The British Journal of Sociology, 49(2), 167-192.
http://www.jstor.org/stable/591308
引用数 226
Ch.8
書き下ろし
Ch.9
Goldthorpe, J. H. (2001). Causation, statistics, and sociology. European Sociological Review, 17(1), 1-20.
http://esr.oxfordjournals.org/content/17/1/1.short
引用数 191
Vol.2
Ch.2
Goldthorpe, J. H. (1996). Class analysis and the reorientation of class theory: the case of persisting differentials in educational attainment. British Journal of Sociology, 481-505.
http://www.jstor.org/stable/591365
引用数 581
Ch.3
Breen, R., & Goldthorpe, J. H. (1997). Explaining educational differentials towards a formal rational action theory. Rationality and society, 9(3), 275-305.
http://rss.sagepub.com/content/9/3/275.short (確か東大のアカウントからだと落とせなかったはず。)
引用数 1135
Ch.4-9
書き下ろし
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