R. K. マートン 「準拠集団行動の論理」 『社会理論と社会構造』 pp.207-256
<要約>
〔序言〕
・社会理論と経験的調査の交流は双方向的(207)
=「系統的な経験的資料は課題を出したり、また往々予期されていなかった線にそって解釈を下す機会を提供したりするが、これが社会理論を進展させる一助となる。一方、社会理論は経験的調査から得た知見の妥当する条件を示すことによって、この知見の持つ予測的価値の範囲を決めたりその価値を増大したりする。」(207)
・「アメリカ兵」の系統的調査を使い、理論と調査の相互作用を「準拠集団行動の理論」に絞り検討する(207)
・関連した二つの主題についても触れる(208)
・集団属性と社会構造の統計的指標を今後の調査に系統的に織り込むことの特殊な価値(208)
=調査事例をインテンシヴに再検討することで調査によって得られた知見を高次の抽象化、一般化に包摂(208)
=どの点で準拠集団の理論が拡大され、戦略的視点を持った調査で追求されるべきかの決定(208)
(理論的拡充を調査部の得た知見に立脚する経験的調査の中へどう織り込むかについて配慮することで、理論の蓄積と新しい調査の相互交流に持続性が保証される、208)
・心理学的に分析した資料を機能社会学が補足(208)=機能的社会学と準拠集団論の緊密な関連の指摘(208)
第一節 相対的不満の概念(209-215)
・相対的不満の概念は操作的性格を持つ(210)
「アメリカ兵」の中には正式な概念規定がないが社会学理論の中で確立している概念との類縁性が認められるため、正式の規定が欠けていることは大きなハンディキャップではない。(209)
・相対的不満(既婚の兵士→未婚の同僚/未招集の既婚の友人 ・教育程度の低い兵士→未招集の知人、友人など)
※兵士の地位の差=独立変数 兵士の感情と態度=従属変数
地位の差の態度や感情への影響を解釈=媒介変数=相対的不満の概念(211-212)=準拠枠(解釈変数)(208下,212)
・準拠枠は三種あり(212)、それらは互いに混合し合う(213) 214の図を参照
・1.実際の結合関係(自分/他人)2.同じ社会的地位、部類(既婚/既婚)3.違う社会的地位・部類(非戦闘員/戦闘員)
→こうした分類によって「どんな場合に自分の所属する集団/しない集団が態度形成の準拠枠になるのか」という準拠団集行動論(ママ)の発展のための中心的意義が出てくる(214)
第二節 相対的不満か相対的不満か
・「アメリカ兵」の執筆者は(相対的)不満を重視
なぜ不満を抱いているか→自分と他者を比べているから
but自分と他者を比べているので不満を抱いており、この意味で「不満」は相対的不満の付随的、特殊的な要素(216)
第三節 準拠集団としての所属集団(217-221)
#事例1
「能力のある兵士は昇進のチャンスに恵まれていると思いますか」
→昇進機会の少ない兵科の方が質問に対する意見が肯定的に(217)
調査部の説明
昇進率が一般に高いと、集団成員(同じ釜の飯をくっている他の連中)の希望と期待が過大になる(218)
理論的含み
・系統的な経験的データがあったからこそ、例の変則的な型が嗅ぎだされた(218)
→新しい理論の可能性=経験的調査のもつ創造的機能(218註)
・自分と同じ地位にある個人が自己評価の準拠枠であるという仮説を提示(219) →社会学的問題の提起
この種の型の発生を促す条件は何か/比較する相手は誰なのか/相手はなぜ人によって違うのか
・自己評価と制度に対する評価の分別を提示
第四節 複数の準拠集団(221-229)
#事例2 葛藤する準拠集団
通常士気旺盛 軍隊はうまくいっている
海外にいる非戦闘隊員 32% 63%
合衆国に駐屯する兵士 41% 76%
調査部の説明
非戦闘隊員の不満が予想より低い要因
=「不満と報償の程度が各自異る」(222) = 母国に残っている兵士>海外の非戦闘員>戦場部隊員
(これは比較のための二つの文脈が交叉していることを示唆している)
理論的含み
・比較のための二つの文脈が互いに交叉した目的のために作用し、それが海外の非戦闘員の評価を左右する(222)
・仮説=個人の占める地位と準拠集団とそれの間に或る類似性が認知され、想像されなければ、比較は生じない(223)
・特定の共通の準拠集団に注意を集中するのは、社会構造の制度的規定のためである(226)
#事例3 互いに支持しあう準拠集団
「あなたが軍隊に入ったとき、自分は招集を延期されるべきであったとお考えでしたか?」(225)
20歳以上・既婚者・ハイスクール卒業せず→41%が徴兵に反対
20歳以下・未婚者・ハイスクール出身 →10%が徴兵に反対
調査部の説明
軍隊にいる未婚の同僚よりも既婚の自分が犠牲
民間にいる既婚者よりも軍隊にいる既婚の自分が犠牲
→既婚者は未婚者よりも、いやいやながら、または不公平だという感じを抱きつつ、入隊することが多い。(225)
理論的含み
1.特定の共通の準拠集団に注意を集中するのは、社会構造上の制度的規定のためであるという仮説の裏付
2.非個人的な地位部類と地位部類の代表者と社会関係を結んでいる場合、どちらが、個人の評価に強く影響するか
3.他の個人や集団の状況について認識が、どのような過程で、どのように(正確に/歪んで)評価されるのか
4.準拠集団の概念がどんな経験的地位を持つか
5.どんな条件で人は特定の個人や準拠枠を明示的に比較するのか
第五節 準拠集団に由来する行動の斉一性(229-238)
・(前節まで)相対的不満の概念を明示的に利用した調査の検討を通し、これがより一般的な準拠集団行動の理論に織り込まれること、次にこの研究が端緒になって新しい累積的調査の対象となる理論的問題が生じることを示す
・この節では、準拠集団論が相対的な不満よりももっと応用が利くものであることを示す
#事例4(230-231)
人員交代の烈しさ→戦闘部隊には未経験者のみの部隊や戦闘のヴェテランと同じ部隊に入る未経験者もいる
→集団脈絡が色んなタイプの人間に及ぼす影響を検討
「態度の領域」の3質問
平気で戦場に赴く 隊をリードできる 身体良好
未経験者のみ 45% 中 57%
混合部隊の未経験者 38% 低 56%
混合部隊のヴェテラン 15% ? 35%
調査部の説明
・まちまちな傾向に対し、まちまちな説明に(231)
理論的含み
・データを概念的に再定式化→第一の変数は「態度」の一方、第二の変数は「自己評定」である(232)
・理論的背景=集団成員として下位にある者がある集団に受容されようとすると、その価値に同調する(233)ヴェテランの感情と価値に全て同調する(233)
→一般民間人のようなヒロイズムをもつ未経験者は「戦闘は地獄だ」と考えるヴェテランの価値に同調する
→この仮説は第一のデータとは一致 but第二のデータとは不整合に見える(234)
→この質問が自己評定に関わる+ヴェテランはリーダーシップを持つには実際の戦闘経験が必要と考える
→補充兵士はこの規準を自分に適用するため、直接彼らと接することのない新編成部隊よりも自己評価は低い(235)
・補充兵士はヴェテランと同じ地位を望むだけで、身体の自信のなさは関係してこない(236)
第六節 社会構造の統計的指標(238-240)
・比較社会学では厳密な比較が欠けていたため、多くの場合「異った」社会構造を示さず、通常それぞれの集団で同じ地位にある人の行動を系統的に比較せず(239)
・調査部の調査は社会構造の指標とその中にある個人の行動指標、この両者を発展させる可能性(240)
第七節 準拠集団論と社会移動(240-248)
・招集された人間が軍の価値の同調することと、その後に彼らが昇進することの間に、どの程度の関係があるか(240)
#事例5
どんな連中が比較的昇進しやすいかについての個々の事例
軍の規律は厳格ではない→19%が昇進 そのほか→12%が昇進(241)
調査部の説明
将校が一人の兵士を昇進させようかどうかと判断する際に、多少とも入ってくる一つの要因は、その兵士が公的に認められた軍のモレスに同調しているか、否かということである(241)
理論的含み
・準拠集団論から再整理→公的な軍のモレスへの同調は外集団の規範への同調、内集団の規範への非同調(242)
→1.外集団への同調はどのような機能的結果、逆機能的結果をもたらすのか
2.どんな社会過程によりこの志向が始められ、維持され、歪められるのか(242)
・1.のために個人、下位集団、社会体系の三者に対する結果を区別して分析
・個人にとって上のような志向は、昇進後の適応を容易にするという意味で将来を見越した社会化である(243)
※こうした志向が個人に鶏機能的になるためには社会の開放性が不可欠(243,244)
・将来を見越した社会科は内集団の規範に同調しないため、集団や階層には逆機能である(244)
・軍という社会体系にとって機能的かは今後の調査に委ねられる(244)
・公的な制度の正当性に兵士が関心を抱いていること、社会的な制度に対する正当性の付与は集団葬ふぉのまたは、個人葬後の間で典型的に行われる比較の幅を明らかにする(244,245)
・2.について。外集団価値へ同調すればするほど、内集団から孤立することになるが、従来の社会学の領域ではこのような集団疎外に系統的な注意が払われなかった(246)今後、準拠集団論の枠組みを用いた系統的な調査により、異なる条件下に生じる同じ過程の現れ方として集団疎外が捉えられる必要がある(247)
第八節 心理的機能と社会的機能(248-252)
・個人、集団・社会体系で一つの行動に対する結果が違う以上、心理学的・社会学的立場の両方からの考察が妥当(248)
#事例6
<補充廟の例>→補充兵が抱く、異常な心理的不安(251)
・補充廟での経験が当の補充兵にどのような影響を与えたか。(心理学的立場)
・補充廟が一集団から一集団への移動という観点から組織にどのような影響を与えたか(社会学的立場)
→補充兵が新しい戦闘部隊にたやすく編入されるためには、訓練部隊からの直接の転属は避けられる(251)
第九節 心理的機能と社会的機能(252-256)
・準拠集団論によって集団類型の記述が可能になる。
Butこの関係を記述したサムナーは分析態度を怠り、外周団に積極/消極的、いずれの志向を持つかを考慮せず(253)
・ジェームズ・クーリー・ミード→系統的な研究に基づき、先行者の定式を改善することはせず(254)
・ハイマン・シェリフ・ニューカム→準拠集団論の理論的問題を提起するような研究(254)
・解釈の特殊化、概念の孤立化を防ぎ、理論的重複や関連を明らかにし一般的な理論体系を構築することが必要(255)
<コメント>
214で述べられているように、所属する/しないの二元コードによって所属集団のみが重要な準拠集団と考えたミードのような社会心理学の限界を超えたことは評価できる。また、215にあるように、従来の社会学の焦点(従来の社会学の著作には実際用いられもしない数々の概念規定 210)を新しい用語で言い換えるのではなく、所属外集団の概念を調査によって導き出したことで、自分の所属する集団外に目を向けさせたことは疎外や孤立の問題に対し理論的な開拓をしただろう。もちろん、第4節など、少々無理があるのではないかという気もぬぐえないが。
月並みな感想になってしまった。最後に、特に〔序言〕で述べられていた以下の言葉の意味が当初分からなかったことを付言しておきたい。読了後、少しは分かった気がするが、まずは語の定義をきちんとしてみたいと思う。
<参考文献>
ロバート.K.マートン (1961) 森東吾 森好夫 金沢実 中島竜太郎訳 「準拠集団行動の論理」 『社会理論と社会構造』 みすず書房 pp.207-256
ロバート.K.マートン (1969) 森東吾 森好夫 金沢実訳 「準拠集団行動の論理」 『現代社会学大系13 社会理論と機能分析』 青木書店 pp.152-226
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