November 14, 2011

少子化とエコノミー


 2008年に出版された 篠塚英子・永瀬伸子編著 『少子化とエコノミー パネル調査で描く東アジア』 作品社 から二つの論文を。お茶大のジェンダー研究者が中心となって韓国・ソウルと中国・北京でおこなったパネル調査がメインで、日本の出生動向調査と一緒に分析しています。ジェンダー研究のフロンティアシリーズということで新しく入ってくる知識が多く結構面白かったです。反面、マルキシズム的というか、経済状態で全て説明できるんじゃないかって勢いで書いているので若干biasedな感じがしました。例えば、未婚化や非婚化現象を説明するに非正規労働の増加のみにしか言及してなかったり、そういった批判どころはあるかと思いますが、それを差し引いても日中間のパネル調査を実施した意義はデカいでしょう。
 全て読んだわけではないですが、お茶大のジェンダー研究は質よりも量って感じですね。
 ちなみに、編者の篠塚英子先生は白波瀬佐和子が日本に帰国して最初に就職した社人研(社会保障・人口問題研究所)で、彼女を研究補佐員として採用した上司だったようです(白波瀬佐和子「少子高齢社会の見えない格差」あとがきより)

要約
永瀬伸子 (2008) 「少子化、女性の就業とエコノミー」 篠塚英子・永瀬伸子編著 『少子化とエコノミー パネル調査で描く東アジア』 作品社 pp.59-76

0.前書き
・日本と欧米の対比
 <日本>低出産、出産後7割が一時的に専業主婦=無業←→<欧米>女性の出産後の就業継続
・パネル調査
 →日本と韓国・ソウルの類似性
  ・子どもが幼いときの専業主婦率
  ・男女の賃金格差
  ・家族形成の停滞、少子化の進行
・日韓と中国の対比
 <中国>共働きメイン 学歴差>性別差 but一時的な離職増加
・共通項=子どもが育てやすい社会ではない

1. 出産と女性の就業継続
「かつては欧米でも出産後仕事を中断する女性が多かったのだが、過去30年に仕事を続ける女性が大きく増えた。しかし、日本の第一子一歳時の就業継続は2-3割程度であり、驚くことにこの割合は1980年代から変わっていない。興味深いことに、ソウル女性の状況も、労働力の低さと、出産後の無職比率に過去20年間変化がないという点で日本と極めて似ていることが分かった。女性の就業機会の拡大や女性の意識変化は、日韓では女性の出産後の就業継続ではなく、出産の先送り、あるいは非婚・非出産として現れている。」
中国では「改革開放政策により、国有企業が雇用調整を断行、リストラがなされ、有期雇用計画が一般的となり、個人間の賃金格差が拡大した。こうした背景の中で一部の女性の無職化が進展した」ため、北京の出産後の就業は、かつては有業が当たり前だったが、近年むしろ出産離職が増えている。

2. 子どものケア役割
保育園の利用など、伝統的な考え方が薄れているとはいえ、「母親が働いているのであれば、母親以外の育児も当然のものとして受け止める」北京、ソウルよりも、日本では「母親の手による育児」の礼賛、あるいはこだわりが強いと受け取れる。
父親の育児役割は日本が高いが、時間は短い
<中国>年齢と共に女性の就業率が下がっていく傾向にあるため、中年女性に孫の面倒を見る時間的な余裕が出ている。

3. グローバル化と不安定雇用(労働市場の変化)
<韓国>・非正規の増加 ・結婚・出産の遅延
(仮説)夫婦分業を前提(10章)→相対的な男女の賃金の低下→夫婦分業が不可能になる急速な賃金構造変化、2000年以降の急速な少子高齢化
<日本>永瀬2002 雇用の非正規化が日本に置いても男女の結婚を遅延させ、家族形成を遅延させていく計量分析
<中国>高い成長率→労働市場の変化は非婚を促進しないが、出産遅延という形で現れている。
<図3-5>

4. 不安定雇用と夫婦の意識
<日本・韓国>女性の収入は男性の収入を補助するものと思われているが、雇用の不安定化が日韓の若者の意識を変化させている
ダグラス・有沢の第一法則:夫の世帯年収が低い世帯ほど妻が家計補助として働く
日韓で支持、中国では支持されず
日韓で増える非正規+「少なくとも子どもが小さいうちは母親が仕事を持たずに家にいるのが望ましい」へのどういう→出産以後の就業継続困難

5. 子育てがしにくい国、東アジア
・少子化については、経済発展とともに不可避に進行するという考え(Bumpass1990)が支配的but最近は女性が働ける環境が出来ていない先進国ほど少子かが深刻(Morgan 2003)

要約
尾崎裕子・山谷真名 (2008) 「婚姻意識と性別役割意識」 篠塚英子・永瀬伸子編著 『少子化とエコノミー パネル調査で描く東アジア』 作品社 pp.91-112

・北京・ソウル・日本における婚姻、性役割、及び男女の地位の分析
 →<婚姻意識>「北京では、独身でいることのメリットが低く、結婚がするべきものという皆婚意識が強い」「ソウルでは、結婚と経済的側面の結びつきが強いということも分かる。」
  <性別役割意識>「北京でもソウルでも『夫は仕事、女性は家庭』という狭義の性別役割意識は依然として強いことがわかった」「共働き家庭が多い北京においても、『夫妻ともに仕事をし、家事は等分』したり、あるいは夫が主に家事を担当している夫妻は少なく、『稼得役割は主に夫、家事役割は主に妻』や『夫妻とも仕事をし、家事は妻』という夫妻は多かった」
一見するとエコノミストに矛盾?
中国は社会主義時代に男女平等の考えを押しつけたが、伝統的な規範がまだ残っていることを示すと言えそう。
高学歴化によって男女不平等に否定的見解を持つ女性が増えてきたことは指摘できるだろう。
・独身のメリット
・中国では生涯独身に否定的
・韓国では離婚に対して男女の見解分かれる
・北京ではスウェーデンよりみずからの社会が男女平等と考えているが、高学歴層になると、学歴が高くなるにつれて、<男性優遇>と考える傾向にある。

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