アメリカの大学院生活も6年目を迎えました。今年度で卒業する見込みです。卒業するということは、就活をしなければなりません。正確には、アメリカではまず就活をして、就職先が決まってから博論を仕上げる段階に入るイメージです。次につく仕事がない状態で路頭に迷うことは避けたいですからね。
就職市場のことを、英語では job marketと言います。「就活中なう」のことはon the job marketと言います。したがって私は、現在進行系で on the job marketです。ちなみに、アメリカでは略して on the marketみたいにいうときもありますが、イギリス人の友達に、それって売春婦みたいと言われたので、もしかすると時と場合によっては略さないほうが誤解を招かず、適切かもしれません。
ジョブマの準備を本格的に始めてからまだ1ヶ月程度ですが、すでにstressed outしています。アメリカの博士課程の出願のときに比べても、ストレスは大きい気がします。正確には、大学院出願とは全く別の種類のストレスがあります。
ジョブマ関連のストレスの主要因は、その不透明性です。いつ、どこの大学で、どのポストが募集されるのか、わかりません。もちろん、噂レベルで今年XX大学がYYの公募出すみたいだよみたいな話は回ってきますが、私はすでに自分と相性の良い公募の噂が2つ、結局実現せずに終わりましたので、淡い期待は持たないのが吉だなと思います。これに対して、大学院の出願は、どこに出せるかどうかで悩むことはないので、その意味ではだいぶ精神的に楽な気がします。
ジョブマになくて大学院出願にあるストレスは、切迫感というか、その時その時でやれGREやらねば、やれTOEFL受けねば、やれ推薦状書いてもらわねば、みたいなステップが多いところかもしれません。それは裏を返すと、出願中にまだ自分の手で変えられる部分が大きいことを意味していると思います。これに対して、ジョブマでは、基本的に自分の手で変えられる部分がほぼありません。一般的に、今のアメリカの社会学の就活で必要な出願書類は以下のようになっています。
- Cover letter(自分という候補者の要約という感じ。自分は書類の中では一番時間かけて作ってます)
- Research statement(研究計画、今こういう研究してて、これが成果として出てて、これからこれをしたいですみたいな資料)
- Teaching statement(授業計画、今までどういう授業のTAをして、自分が教えるとなったらこういう授業したいですみたいな資料)
- Diversity statement(自分がいかに大学や学部の多様性に貢献できるかを書く資料)
- Writing sample(既刊・未刊を問わず、論文3本が多いが1-2本も珍しくない。単著でも共著でもいいが、できれば単著がよい)
- CV(履歴書)
- Recommendation letter(推薦状、基本3通)
- (Sample Syllabi)リベラルアーツカレッジは必要なこともある
この中で、最も大切なもの(だと自分が考える)は、(推薦状の次、あるいは同じくらいに)CVだろうと思います。CVは博士課程のうちに出した成果のまとめで、今更何かを加えることはできません。推薦状、誰にお願いしようかみたいな焦りも、博論コミティに入っている先生になるため、基本ないはずです。
そういう意味では、ジョブマの結果は、ジョブマが始まる前には、おおよそ決している感もあります。研究計画(research statement)やteaching statement, diversity statementといったstatement系の資料も提出を求められますが、正直、statementで何の差がつくかはわかりません。言い換えると、CV上で出た差を埋めるくらいの一発逆転が他のstatementでできるようには思いません。もちろん、だからといって手を抜いてもいいわけではないのが現実で、正直どれくらい時間をかけてstatementを書けばいいのか、皆目検討がつきません。私が感じるジョブマのもう一つのストレスはこれです。徒労感というか、そこまでサブスタンティブに意味のない(というと怒られるかもしれませんが)書類を書かざる得ないところです。
もう一つのストレスは、自分が出せる公募の少なさです。アメリカのジョブマーケットは、基本的にASA(アメリカ社会学会)のjob bankというところにポストされます。毎日、新しい公募があるかを見ているのですが、自分が出せそうな公募は、正味4分の1くらいです。自分が出せるのはassistant professorないしpostdocのポジションですが、前者の場合、公募の種類は大きく分けてオープンサーチ(どの研究テーマの人でもOK, Open to All Specialty Areas)か、特定のトピック・手法を専門にしている人の二つがあります。前者のようなサーチは少なく、あってもUCバークリーみたいな手に届かなさそうなトップスクールか、ティーチングメインの大学だったりします。
多くの大学は、今年はこういう分野の人を採用したい、という方針があり、それを公募の際に書いておきます。それは恐らくアメリカの社会学のトレンドを反映していると思うのですが、ASA job bankで見ている限り、公募で言及される多いテーマ(=人気のテーマ)は順に(1)race、(2)climate、(3)computational science、それともともと多いですがhealthとcriminal justice(後者はraceとの関係がかなり近い)あたりです。トピックで要約してしまうと、「ビッグデータを使ってハリケーン・カトリーナが白人と黒人の健康格差に与える影響」みたいなことを研究していると、体験では出せる公募の数が3倍くらいに増える気がします(笑)。一応、人口学者を公募している大学も3つくらいあって、現実的にはそのあたりで勝負できるのかなと思うのですが、他のポストは自分と相性が良くても、競争が激しいところが多いので(例:計量社会学)、いまいち自分でもいい勝負できるかも?とは思えないのが実際です。
今までとうとうとアメリカのジョブマの愚痴?を書いてきましたが、それでも日本のジョブマよりもいいと思えるところはあって(例:大学が求める提出資料が基本統一されている、締切はASA後の9-10月に集中)、日本で就活をしていたら、ストレスを抱えていたかもしれません。
ジョブマが終わるまでに、このブログにアメリカの社会学ジョブマ事情をまとめてみたいと思います。
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