8月18日から21日までの4日間、フィラデルフィアで開催されたアメリカ社会学会(ASA)に参加してきた。コロナ禍を経て去年初めて参加した時には、そのサイズ感に圧倒されたのだが、就活中の身として参加した今年は、去年とはまた一味違った学会となった。
リクルーターと会って話すと何がいいのか?
アメリカの社会学は、経済学のように学会で最初のスクリーニングがあるわけではないので、就活中でも学会で誰かと会う必要はない。ただ、社会学の公募は9月から10月締切のところが多く、多くの学部がASAが運営するJob Bankのページに、学会前に公募情報を出している。その締切を意識しながら、サーチコミティーの人たちは、公募に出して欲しい人には声をかけてミーティングを設定することもあるし、あるいは逆に就活をしている側から、サーチコミティーの人たちと会えないかとミーティングを設定することがある。
自分は直前まで、リクルーターや公募を出している学部の人と話す必要性がよく理解できなかったのだが、実際に話してみると、「オープンとは書いてあるけど実は計量の人が欲しい」「今こういう授業をしてくれる人を募集しているから、teaching statementで自分が教えたいと思う授業に具体的にこう書くといい」みたいな情報を教えてくれる実利的なメリットはある。
実は会っても意味はない?
とはいっても、別にそういうtipsみたいなことを書いたからと言って、ジョブトークに呼ばれる確率が上がるかというと、そういうわけでもない気がする。オープンだけど実は計量と書いてあっても、別に今から質の人が量にスイッチすることもできないわけだし、こういう授業を教えたいという希望が真剣に考慮されるのは、ティーチングがメインの大学だけなのではないかと思う。このように実利的な情報だけを目当てにするのであれば、リクルーターの人と逐一あって話す必要はないのかもしれない。
自分もメンターから言われたが、この時点で就活の書類を中身を大きく変えることはできない。就活の大部分は、1ヶ月前にある学会の時点では、自分でコントロールできる部分はほとんどない。小手先でどうにかなるものでもないのであれば、別に学会でリクルーターの人と話しても、そこまで大きな違いにはならないだろう。
それでも会う方がいいのかも、しれない
それでも、リクルーター、あるいは公募をしている学部のファカルティと話すことで、名前を覚えてもらえる、cvを見てもらえる、そうやって何かしらポジティブな印象を残すことは、悪いことでもないだろうと思う。メンタル的にも、CVをみて、お世辞でもcompetitiveだよと言われれば、慰め程度にしかならないかもしれないが、全く戦えないわけではないと思えるだろう。というわけで、会ったら会ったで、得るものもあるのだと思った。
個人的にリクルーターや同じ学部にいる人とあって良かったと振り返って思うのは、就活の場面で話されるセリフというか、話し方、スクリプトみたいなものを直接肌で学習できた点だった。就活をしている人間としてのdispositionをつけるというか、ある程度話をスムーズに進めるためには、頭の中にセリフを入れておいた方がいい。例えば、自分が研究している内容を簡単にまとめて紹介して、その後に公募を出している学部に就職したらどういうことができそうかみたいな(流石にそこまでは言わなくてもいいかもしれないが)ことは、会話の中では出てくるので、その場で考えるよりは、ある程度セリフみたいに頭に入れておくことで、緊張せず話せるはずだ。初めて会うファカルティと、1対1で面談しても気まずくない空気を作れる、スモールトーク力を磨くとでも言えばいいのだろうか。
あとは気持ちを切り替えて、就活を有名な先生と簡単に会える機会と考えるといいかもしれない。目の前にいたら恐れ多くて話しかけられないような先生にでも、就活のことで伺いたいことがあるのですが、と言えば、割とサクッとミーティングに応じてくれる。そして、あくまで雇う人-雇われる人という関係性はあるが、「学生」ではなく、将来「同僚」になるかもしれない人として、対等にみて話してもらえる気がする。そういうことを書きながら学会中の面談を振り返ると、あまり就活の話ばかりせずに、もう少し研究内容について話す時間を作ってから就活の話をした方がよかったかもしれない。結局、人を雇う時には研究業績のようなメトリック的な部分も大事だが、決め手は「この人と同僚になっていいと思うか」だと思うので、その点は忘れない方がよい。
ところで、私はどうしたのか
今回は、4月にあったPAA(アメリカ人口学会)でもリーチアウトしてくれた某中西部の州立大の人が公募が出たことを直前にメールしてくれたので、再び話した。脈アリ?なのかもしれないが、ちょっと公募が特殊で、書類上の特殊性に騙されずに出してほしいという念押しをしてくれたので、おそらく自分以外にも複数、リーチアウトしているだろうと思う。他にも、報告したセッションの討論者の人が所属する大学が、計量社会学者を公募していたので、セッション後に時間を作ってもらって話した。オーガナイザーの人が所属する大学も、人口学者を公募しているので話そうかと思ったが、すでにプリンストンにトークに来てもらった時に話したこともあって、流れた。ただ、一応もう一回話そうかなと思う。そのほか、個人的に気になっている大学(UCLA、OSU、HKUST)の人とも話した。合計すると6名くらいになるが、果たしてこれが多いのか少ないのかはわからない。
ネットワーキングあれこれ
とりあえず、初めて会う人と就活というコンテクストで話すのはとても気苦労するので、できることなら事前に知り合いになってた方がストレスは少ないだろうと思った。あとは、直前になってこういう公募が出てるよ、みたいな情報があるので、ネットワークは広く持っておくこと、およびその時に公募を出している学部の先生を紹介してくれるような指導教員やメンターを持つことが肝要だなと思った。
もちろん、そういうコネ目当てで人と知り合うことほど滑稽なこともないので、面倒見の良い先生に指導してもらい、最初は学会などでそういう人と一緒に行動しながら、人を紹介してもらう、そして次はそこで知り合った人の友達や同僚を知る、みたいな感じで少しずつ、オープンマインドな姿勢で人と知り合いことが大切だなと思う。
あとはASAのセクションは必ずセクションごとのレセプションを開催しているので、そこに足を運んで、地道に新しい人と話をすることが大切。学会は旧友と会うところでもあるが、知り合いと話しているばかりだけではなく、自然に生じた新しい人との出会いは大切にした方がいい(旧友と話していたら、その友達や同僚と知り合いになることも多いが)。あるいは、ASAのセクションによっては、学生とファカルティをマッチングするようなメンター・メンティーイベントを企画しているところもあるので、そういうのを利用することも大切だろう。
とはいっても、一番大切なのは、ちゃんと定期的に参加する学会をいくつか持ち、そこで(できる限り口頭報告のセッションで)報告して、司会や討論者、質問してくれた人、同じパネルの報告者と知り合いになることだ。我々はあくまで研究者なので、研究が面白くないと話したいと思ってもらえない。面白い研究をして、その途中経過をしっかり学会で報告すること、そうすれば自然と人は集まってくるだろう。
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