May 6, 2022

博士課程4年目の振り返り

 プリンストンは春学期が終わりつつあります。私も残り1週間で色々ラップアップして、来週金曜の便で日本に帰ります。1ヶ月ほどいるのですが、半分以上は神戸に滞在して免許合宿をしてたりするので、関西方面でお時間ある方がいたらお茶に誘ってください。


タイミング的にちょうどいいので、アメリカ4年目を振り返っておきたいと思います。4年目と言いつつ、プリンストンでフルに対面の1年を過ごすのはこれが初めてでした(1年目はマディソン、2年目は春学期の後半からパンデミック、去年はずっとオンライン)。入団してすぐトレードされたけど、ずっと怪我がちでようやく初めてフルシーズン完走できた野球選手みたいな気分です。


一言でいえば、4年目は楽しく、日本時代も含めて大学院に入ってから1番充実してました。時間的にも、体力的にも余裕があって、自分のしたい研究を毎日できています。そしてとても忙しいです。個人的には二つのターニングポイントがありました。それらに触れながら、4年目を振り返ってみます。


一つ目は自分が尊敬する教授からアドバイスを定期的にもらえるようになったことです。彼は、私の専門にする社会階層研究では存命中の人物では紛れもなく世界でトップの研究者で、昔から尊敬してました。実は学部生だった頃に、相関に進んで今はなきAIKOMを使って彼が当時在籍していたミシガン大学に交換留学にいき、そこで1年指導を受けてレターを書いてもらって学部卒でアメリカへ…みたいな野望を抱いていた時期があったのですが、高山ゼミに入ってからみるみる成績が落ち、なくなく?文学部社会学専修に進んだ経緯があります。奇遇なことに、そうして日本の大学院に入り渡米が遅れたこともあって私は指導教員の移籍と合わせてプリンストンに移れましたし、彼もミシガンからプリンストンに移り、今は一緒に研究することができています。


もともと挨拶程度はする感じだったのですが、明らかに自分は彼からすると同僚の指導学生といった扱いで、さらにいうと彼は私の指導教員の指導教員でもあるので、あくまで指導教員を通じて話す仲に過ぎませんでした。自分にとっては偉大すぎる研究者であることもあって、個人的に話す機会をなかなか見つけられずにいました。転機があったのは、彼がリードして今年から社会階層研究のセミナーを開いてくれてからでした。院生がアーリーステージの研究を報告するゼミのような場で、何度も参加するようになると、彼を前にしても自分の言いたいことを緊張せずに言えるようになりました。


1ヶ月ほど前にウィスコンシンの時から秘めていたアイデアを具体的な形にして報告したところ(このアイデアを発表しようと思ったのも、指導教員を同じ同僚の研究に触発されたからだったので、やはり面と向かって自分の考えを話す機会は大切だなと思いました)、思いの外、高い評価をもらえて、彼がそのアイデアを違う集団(アジア系アメリカ人)に応用したらいいといってくれてから、指導教員も交えて3人で共同研究がスタートしました。そこから数日の頻度で分析した結果をメールで共有すると、基本的には短文で「引き続き頑張れ」みたいな返信で終わるのですが、たまに少し長めに彼の考えを共有してくれたり、セミナーの後に話したり、4月にあった学会の前後で車で一緒に移動することになった時には彼の研究に対する考え方の一端に触れることができて、本当に学ぶことが多かったです。バッググラウンド的にも自分のロールモデルと言えるところが多く、彼と1対1で気さくに話せる仲になれたのは、今学期1番の出来事でした。


彼の具体的な教えの一つは、アーリーステージの研究を同僚に報告して、そこから率直なフィードバックをもらうというものでした。その方が軌道修正が簡単だからです。そんなの当たり前じゃないかという感じもしますが、やはり人前で発表するとなると、人はoverprepareしてしまいます。自分が駒場・本郷で経験したのは「完璧」なものを見せるカルチャーだったので、なかなか「中途半端(英語では生焼け half-bakedといったり)」なアイデアを報告するというのは勇気が必要でした。社会階層セミナーは発表する側もコメントする側も敷居は低く、かつ率直に議論できるように、アーリーステージの研究をみんながどこかで共有して、できるだけ定期的に参加することを勧めていて、彼なりにそういう場所をデザインしたいのだなという意図が見えました。


この教えを体で学んだところもあり、今学期は指導教員と定期的に話す機会をかなり増やしました。これはスタンフォードにいる社会学の友人からのアドバイス(彼女は毎週指導教員と1時間面談しているようで、流石に自分はそこまではまだできていないのですが)にも影響されています。できたものを見せるだけならメッセージでもいいのですが、アイデアを話すのはやはり対面がいいです。そうやって研究の早い段階からシニアの教員のお墨付きをもらえると、これは面白い、重要だという言葉が後押しになってその後の研究にもポジティブなフィードバックがある気がしています。そうやってひたすらアイデアだけが増えて全く実になっていないのですが、2年後に卒業するまでにはどうにか目処をつけたいと思っています。


上と少し似ていますが、もう一つのターニングポイントは自分の研究が間違っていないという「承認」をもらえたことでした。大きなものは二つ。一つは人口学のトップジャーナルに投稿した論文がR&Rをもらったことです。英語では初めての単著で自分が一番好きな論文でもあります。2020年から2021年の半ばまで社会学のトップジャーナルに立て続けにリジェクトされて自信を失くしかけていたのですが、自分が一番好きなジャーナルの一つから朗報をもらって、とてもラッキーでした。最初は信じられなかったのですが、コメントをよく読み、改稿について考えるうちにこれは現実なんだと思うようになりました。不思議なもので、今までの辛かったリバイズの経験とは打って変わって、改稿のアイデアはどんどん出てくるし、何より机に向かう時間、ずっと集中できていました。このジャーナルに載せると、冗談じゃなく自分の人生がいい方向に変わるので、そういうハラハラ感というか、未来を自分の手で変えようとしている感覚が、そういうハイテンションな5日間を呼んだのかもしれません。とても貴重で、かつ楽しい時間でした。


もう一つは先日書きましたが、プリンストンのcompetitive fellowshipをもらえたことです。これはどちらかというと自分の業績というよりは指導教員とメンターの先生が強いレターを書いてくれたからだと思うのですが、2019年にプリンストンに来てからどうしても「よそから来た誰か」というラベリングを自分が拭えなかったので、大学院から認めてもらえたのは安心しました。


研究は孤独で、ストレスがかかるのが常なのですが、同僚から励まされたり、こういった承認をもらえたことで、乱高下はありつつもメンタルの方も比較的調子がよかった一年でした。とはいえ、メンタルを安定させないといけないのは自分の昔からの課題でもあります。


研究についても色々アップデートはあるのですが、やってることが多過ぎて一つにまとめるのはまたの機会があればにしたいと思います。

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