他の国は知らないが、アメリカではどこもかしこも推薦状がものをいう。就職の時の推薦状はどこの国でもあるだろうが、大学・大学院の入試から、はたまた学部のサマープログラムまで、選抜あるところに推薦状あり、推薦状がなければ選抜ができない、と言っても過言ではないだろう。
私も例に漏れず、アメリカの大学院に応募した時から現在に至るまで、日米の指導教員を筆頭に、もう何通もの推薦状をお願いしていた。お願いする側は、最初は緊張してお願いをするが(特に締め切り数日前に推薦状が必要とわかった時なんかは、とくに)、一度相手から承諾があれば特にすることはない。大学院出願の時には、出願した大学10校近くに加え、奨学金の推薦状までお願いしたものだから、先生方にも相当なご負担を強いたと記憶しているが、当人は推薦状に全く関与しないので、推薦状の中で何が起こっているのか、知る由もないのである。
そんな感じでお願いするばかりだった推薦状というモノを、とうとう反対の側から眺める機会がやってきてしまった。推薦状を書いてくれないかとお願いされたのです。
先学期教えていた(といってもTAのセクションだが)現代日本社会論の授業を受講していた学部生からだった。パンデミック下で直近で取った授業は全てオンラインになってしまったこともあり、セクションで一緒だった私以外、接した教員がいなかったのかもしれないが、最初とあるプログラムに出願するのでReferenceになってくれないかとお願いされた時には、正直、少し心躍った(聞き取りやすいとは言えない英語の私の授業をしっかり聞いてくれただけでも感謝なのに!)。
当初はreferenceになるだけで何もアクションは要らないということだったが、実は、推薦状を書かないといけないことがわかった、という連絡が来たのが昨日、締め切りは来週の月曜。
私も学生の時によくやってた(今も学生だが)、締め切り直前になって推薦状が必要とわかる、あの、あかんパターンである。
最初一度も書いたことのない推薦状を、英語で、来週の月曜まで、そんなんむりむりと喉から出る寸前だったが、自分もそうやって指導教員を何度もヒヤリとさせてきた経験があるので、もうこれは恩返しだと思って(誰への?)すんなりとokした。
とは言っても、問題は推薦状の書き方なんぞ露ほども習ったことがなかったので、何を書けばいいのか全くわからなかったのである。推薦状をお願いしても、その中身は見れないhonor codeめいたものがあるので、今までお願いしてきた推薦状の数は多くても、どうやって推薦状を書けばいいのかは知識が全くなかったのだった。
そのことを正直に指導教員に相談したところ、テンプレートを送ってくれた、ありがたい。「まあ、普通asst profからやけどね、推薦状書くのは」みたいなコメント付きで。
確かに、周りの大学院生で、推薦状を書いたなんて人は、聞いたことがない(単に話題に上がらないので知らないだけかもしれない)。ただ、プリンストンはティーチングを補助する学生をTAとは言わずにpreceptor(ニュアンスが伝わらないけど、教師)と呼び、いわゆる他大学のTAセッションよりも、学生がセッションを自分の判断でデザインする余地が高いような気がする(ちなみに、授業を教える教授もセッションに参加する、つまり教授もpreceptorの一人)。そのことが影響してか、プリンストンの学部のプログラムでは、履修した授業の教授だけでなく、preceptorにも、推薦状をお願いしてもいいことになっている。なので、大学院生で推薦状書いちゃったわーなんて言いふらしているのは、プリンストン仕草のひとつかもしれない。
テンプレートをもらってみたはいいものの、たかが推薦状を一通書く作業が、こんなに時間のかかるものだとは思わなかった。テンプレとしては、1.学生の一般的な評価(授業などの成績)、2.学生との関係性(授業をとったのであれば、その授業の説明)、3.特筆すべき事項(アカデミック、今回は学期最後のペーパーがいかに示唆に満ちたものだったのかについて)、4.特筆すべき事項(非アカデミック)だった。普段なら、まあこれくらいでいいかと思えるものを書いても、ちょっと大袈裟かもしれないが、他人の人生がかかっているので、もうちょっとプッシュしよう、もうちょっとと時間が経過していくのである。自分より他人のために時間をかけてしまう人間の利他性が、よく出る瞬間かもしれない。
正直にいうと、授業もリモートだったし、いっても1学期の付き合いだったので、そこまで深いことは書けない。ジェネリックなことよりも、パーソナルなことが書けると、強い推薦状になるらしい。そのためには、学生側も常日頃から推薦状をお願いする人とコンタクトを取ることが求められるし、そういうのが「自然に」できるのが、高等教育における階層の再生産に寄与しているのでは、という研究もあるくらいであり。アメリカでは教授との緊密な関係性は重要なのだなと、推薦状を書いて改めて学んだ。
学んだものの、自分が明日から教授たちと緊密なコンタクトを取るかと言われると、そんなことはないだろう、きっと。
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