今日の人口学研究所のセミナーは関心に近い報告で興味深かったです。今回の彼の報告はSFに載った「選抜度の高い大学を卒業している黒人のコールバック率は選抜度の低い大学卒の白人と大差ない」というかなりショッキングな論文からインサイトを踏まえています。今回のフォーカスは短大と増加するfor profit collegesおよびその人種差でした。
アメリカでは(最近減っていますが)for-profit型の大学が増えています。2000年から2012年のpostsecondary educationに進学する人の増加割合のおよそ4割がfor-profit大学への進学によって説明されているくらいです(Deming et al. 2016)。また、短大進学者は2000年から2010年の10年間で30%増えており、短大の増加にfor profitが寄与していることが推察されます。さらに高等教育のアクセスには人種差があり、四大進学者にくらべると、コミカレ進学者に黒人が多いことが指摘されています。そのため、two yearのfor-profit collegesは度々マイノリティをターゲットにしています(参考のCM)。結果的に、associate degreeをとっている人口の人種差は大きく縮小しており、黒人層は白人層とほぼ同程度いるらしいです。for-profit collegesは入学が非常に簡単ですが、その分授業料は高くなります。普通の短大に行く方がだいぶ安く、out-stateの四大に行くくらいの費用がかかります。したがって、学生ローンで破産するケースも多く、社会問題になっているのが現状です。何重にもアメリカっぽい話ですね。
こういった背景を元に、今日のトークでは短大に絞ったフィールド実験を行なっています。具体的には、短大の中で、for-profitはnon-profitの学校に比べて、労働市場の評価が同じなのか、低いのか、それに人種との交互作用はあるのか、というものです。デザインはこの手の研究の王道であるCVを使ったコールバック。for-profitとnon-profitは実在の大学を使用していて、特にfor-profitはUniversity of PhoenixとStrayer Universityに限定しており、オンラインの大学は除いていました(オンラインだからという理由で差別される可能性を排除したいためらしいです)。
分析の結果(1)non-profitの方がfor-profitよりもコールバック率が高い、(2)白人よりも黒人の方がコールバック率が高い、(3)ただしこの人種差はfor-profitのみで確認されることがわかりました(その後の追加の分析は省略)。このトークはかなりアメリカのコミカレやfor profit大学の文脈に寄っているので、なかなか他の国ではどうだろうと考えにくいかもしれませんが、大学の異質性が生じるメカニズム自体は、例えば日本でも検討できるかもしれません。アメリカのfor-profit collegesは日本だとボーダーフリー(あるいはFラン)大学に近いとしましょう。ここで、我々がメディアなどを通じ「Fラン大学」というカテゴリをdevalueしているかもしれませんし、またはFラン大学とされる大学名は他の大学と同様、あるいは架空の大学と大差ないかもしれません(ソース:Educational Authority in the ‘‘Open Door’’ Marketplace、コミカレもfor profitも架空の大学とコールバック変わらないとすれば、シグナリング理論とはなんぞや…みたいになってきますね…)。
ちなみに、この研究では、CVには人種を(当たり前ですが)書く欄はなく、その代わり人種と関連する名前を使っていました。彼の別の実験の論文では、9割以上の回答者が、ある人種を連想させるような名前を、当該の人種にカテゴライズしていたので妥当性はあるようなのですが、これ、すでにある人種の差別を再生産しているのでは?という気もします。ただ、racial discriminationを実験するにはこれがgold standardと言っていたので、この手の論文ではよく使われているのでしょう。個人的には、あくまで人種というのは個人のアイデンティティとして聞かれたものを使用した方がいいと思うのですが、この手のコールバック実験では難しいのはわかります。
ちなみに、報告は公開されているので(仕事が早い)、気になる方はご覧になってみてはいかがでしょうか。WPを読もうとしたのですがリンク切れでした。
No comments:
Post a Comment