昨日からPAAでテキサス州のオースティンに入っています。日頃のコースワークから解放されてかなりテンションが高いです。今日は学会前に開催されているワークショップに参加してきました。トピックは社会ゲノミクスです。個人の遺伝子情報を取得する金銭的なコストが劇的に減ったこともあり、ゲノムを使った分析はこの10年で飛躍的に(本当に飛躍的に)発展しています。以前、オックスフォードで開かれた院生カンファレンスのイベントの一環でこのテーマの話を聞いてから関心を持ち、読書会やマディソンにゲノムの人がきたら積極的にあって話を聞くようにしてきました。
今回は1日と短いですが朝から夕方までの短期集中のセミナーで分析ソフトを使ったでもまで含められていたので、思い切って参加してみました。結論から言うと、表面的に接してきた社会ゲノミクスについて、かなり深く理解できるようになったと思います。
今回のセミナーで改めて重要だなと思った点は、遺伝子によって説明される特性の違いは、あくまで集団内のばらつきを説明するために用いるものであり、集団間の比較に用いてはいけないと言うものでした。人口学などの社会科学分野で関心のある特性、例えば身長などは、あくまで集団レベルにおいて遺伝子との関連がわかるものであり、それはheritabilityとして定義されます。heritabilityはあくまで集団の中でどれだけ遺伝子が特性のばらつきを説明するかと言う指標なので、集団間の身長の差を遺伝に帰することは誤りだと言うことです。これは、かなり重要な指摘だなと思いました。例えば、私たちはある集団間(例えば日本人とアメリカ人)の特性の違い(身長)がどれだけ遺伝的な要因によって説明できるか、と考えてしまうかもしれませんが、遺伝によって説明される集団レベルの特徴は、飽くまで集団内の分散を説明するものなので、平均値で集団間で差があったとしてもそれぞれの集団においてheritabilityが説明する度合いは同じであるかもしれないからです。
講師の一人のFelixさんは以前イギリスでお会いしていたこともあったので、話は重複しているところもありましたが、もう一人の講師であるRobbeeさんの研究は非常に刺激的でした。彼の研究は遺伝によって教育年数がどれだけ説明できるのか、と言うものでしたが、GWASの研究の話を進める中で、ある表現型(例えば喫煙行動と飲酒行動)がどれだけ遺伝子的要因を共有しているかというgenetic correrationの研究を紹介してくれました。彼自身は遺伝子が表現型が出る前にpre-determinedされていると言う想定に対しては距離を置いていましたが、このgenetic correlationを非異性愛行動とウェルビーイングの関係に応用した最新の研究を紹介してくれました。これが非常に面白かったです。データベースとして使用したのはイギリスのBritish cohort studyとアメリカの23andmeですが、これらのデータは対象とするコーホートが異なり、ある種の時代差をつかむことができます。非異性愛行動をする人はそうでない人に比べてメンタルヘルスや主観的健康感が低いと言う結果があったのですが、これらの変数を予測する遺伝的要因を特定した後で、その両者の相関をみたところ、古いコーホートを対象にしたBCSでは遺伝を介した相関は負、つまり非異性愛行動の人はヘルスが低いと言う関係があったのですが、新しいコーホートを対象にした23andmeでは遺伝を関した関連が正になっていることがわかったとのことです。これは、近年のコーホートでは非異性愛行動をする人が必ずしもヘルスを悪化させるわけではないと言うことで、時代的な変化を反映しているものと理解されていました。
午後の授業はplinkというターミナル上で走らせるGWAS専用のソフトウェアを使ってポリジェニックスコアを求めたり、そのスコアを回帰分析に投入するまでの一連の作業がカバーされたので、時間的に少しきつかったところはありますが、非常に勉強になりました。他にも、GWASからポリジェニックスコアへの変換の考え方についても理解が深まり、有意義なワークショップとなりました。
No comments:
Post a Comment