April 24, 2019

日本で社会学の博士号を取った若手研究者のポスドクに対するアプローチ

これから日本で博士号とって3年くらいポスドクを考えてる人は、ぜひその期間を海外での研究生活に使って欲しいと思っている。英語で将来的に論文を書きたいと考えている研究者には、特に考えて欲しい。今回の記事は、いくつかの項目に分けて、どのようなポスドク経験をするのが個人的に良いと考えているかをまとめたものである。

どこに行くか?
どこの国・機関にするかは最初に考えるところだろう。色々と選択肢があると思うが、私の研究分野(階層論、人口学、家族、労働、教育etc)では、新しい研究は常にアメリカにあるため、まずはアメリカの研究機関でフィットする所を探して欲しい。

アメリカの大学の中で、関心の近い研究者が多く集まって海外からのポスドクもピアとして受け入れてくれるような研究所に行くつもりで選ぶのがいいと思う。ポスドクはすでに博士号を取った一人前の研究者という扱いを受ける。これから専門を決める博士課程の学生は様々なサブフィールドの中から自分の研究したい分野を決定するため、大学院プログラムごとにどこに行くべきかを考えるが、すでに専門が決まっているポスドクの場合には、学部(社会学なら社会学部)でみていても、9割のファカルティとは関心が被らないだろう。他の人とコラボしたいというマインドを持っているならば、どの人のところに行くかではなく、どの研究所に行くかで考えた方がいいだろう。その大学の研究所がどういうクラスターを強みとして持っていて、どれくらいの頻度で外部の研究者を招いたセミナーをやっていて、どれくらい研究所のメンバーと一緒に研究するカルチャーがあるのかは非常に大事な要素だと思う。

もちろん、オフィスをもらって一人で集中的に研究するのでもいいのかもしれない。しかし、ポスドクの目的は一人前の研究者となってから、今後の共同研究者を見つけたり、博論での専門分野を軸に視野を広げることにあるので、あくまで基本的な関心は近く、自分の中心的なトピックからは多少派生している研究をしている人がアクティブな状態でいる機関を選ぶのがいいだろう。アメリカの社会学部も、その中は非常に多様なので、学部が主催するセミナーはあまり関心が近くないことのほうが多い(そういうセミナーに出席することも重要ではある)。そういう意味では、大学の研究所にコミットする方がメリットが多いと考える。

弊学でファカルティやポスドク、学生がどのように研究活動しているかを1年間観察して思うのは、博士課程の学生と違い、授業に出る必要のない(出てもいい、というか出ることを勧める)ポスドクは、極端な話ではあるが、メンター以外誰とも知り合う必要はない。このような性格上、孤立しやすいポジションだからこそ、海外からのポスドクでも他の同僚・学生に紹介してくれるメンターが必要であるし、メンバーの交流が盛んな研究所に行く方がいい。

どれくらい行くか?
学振PDは採用期間の半分(1.5年)の海外での研究期間での研究を認めているのであまり現実的ではないかもしれないが、個人的には1年と言わず、2年、3年ほどいた方がいいと考えている。もしメンターを含む同僚との共同研究のチャンスを伺う場合には、1年は短すぎるからだ。最初の3ヶ月くらいは環境に慣れるのでおおよそ時間が過ぎる。メンター以外に知り合ったファカルティの教員や研究者と軽く自分の関心を話すのを繰り返していれば、それくらいの時間はあっという間に過ぎてしまう。

私の一年目は(当たり前だが)コースワークと並行だったので非常に遅々としたものだったが、渡米後すぐ今の指導教員と一緒に研究を始めても、まだ論文は投稿には至っていない。他のポスドク1年目の人も似たような印象を持っている。つまるところ、最低2年は同じところにいなければ、成果らしい成果を出すことは難しいのではないかと考えている。

共同研究は意図的に誘うこともあれば、会話の中で非意図的に生まれることもあるが、いずれにしてもあってすぐ研究をスタートすることは稀なので、論文を書き始めることには季節が変わっている。その頃には学会報告の締め切りが近づくこともあるので、とりあえずアブストを作って一安心、みたいになる時期かもしれない。そうやっているうちに半年くらい経っている。ポスドクは研究しかしなくていいので、それから半年あれば論文は書き上げられるかもしれないが、メンターは基本的に激務なので、1年以内に論文を投稿できる段階まで持っていければかなり速いペースだろう。

実際には、1年のサイクルで学会があるので、学会報告を終えてカラフルペーパーを済ませ、投稿先を考える段階に入る。そうやっているうちに2年目になるものだ。

長く時間を過ごすことのメリットは直的な論文執筆にとどまらない。上記のようにファカルティの教員や研究者と時間を過ごしていれば、2年目になる頃には、研究所のセミナーでの報告を誘われるかもしれない。報告すれば多くの人が自分の研究を知ってくれるだろう。研究というのは、人と知り合い、研究の話して、アドバイスをしたり、時にはアドバイスをしたり、論文を一緒に書いたり、書いた論文にコメントをもらったり報告したり、そこで新しい人に知り合ったり、これらの繰り返しである。

研究以外に何をするか?
ポスドク期間は論文執筆に勤しむのもいいかもしれないが、自分の視野を広げる活動は色々とある。個人的には、知り合いを作るという意味でも、大学院の議論中心のセミナーを聴講するのを勧めたい。2学期間履修した人口学の文献購読セミナーは一番印象に残っていて、人口に対する考えがガラッと変わった。計量的なアプローチの研究者は多かれ少なかれ人口を対象にしているので、このような授業は必ず役に立つだろう。サブスタンスだけではなく、メソッドに焦点を当てたセミナーや、授業を履修するのもいいだろう。

余談だが、人口学セミナーを履修した代償として、今では研究所のセミナーで人種や移民について報告する経済学者の報告の半分くらい、分析のフレーミングが差別的な想定をしていて受け入れられなくなってしまった。社会学者も人種を独立変数にして分析をするが、社会学的には人種は個人の特性という性格以上に、もっと歴史的な、文脈的な意味を含んでいるので、それらを無視して人種の格差を議論しようとすると、結果の解釈が非常に個人の行動ベースのものになり、変数の関係の背後にある構造的な背景を見逃すことになってしまう。この辺りは経済学と社会学の考え方の違いでもあり、社会学でもそういった文脈を一切無視した研究者もいるので簡単に割り切れるものではないが、こういった視点は個人的には非常に大切だと思う。したがって、人口学の文献購読は人口学のふりして社会学的な認識を養う機会だった。

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