July 18, 2018

嗅覚を通じた政治的イデオロギーによる同類結合

McDermott, R., D. Tingley, and P. K. Hatemi. 2014. “Assortative Mating on Ideology Could Operate Through Olfactory Cues.” American Journal of Political Science 58(4):997–1005. doi/pdf/10.1111/ajps.12133

遺伝関係の本を読んでいて引用されていたので読んでみた。知らないことだらけでもっと高校の時に生物勉強しておけばよかったなと、しょうもない感想を持ちます。

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政治的態度による同類婚(assortative mating)の程度は宗教の次に強く、この種の類似性は結婚以前から存在するとされ、結婚期間の長さも類似性には影響しないという。

宗教による同類婚の程度が高いのは、例えば教会などの施設を通じて出会うからであり、機会構造の影響があることが考えられる。しかし、宗教に比べれば、政治的態度にはこうした社会的な要素が弱いと筆者たちは論じる(といっても、政治的な態度についても、例えば同じ政治集会で出会うといったことを通じて同類婚が強化される側面はあるだろう)。

そこで筆者たちは、政治的態度(イデオロギー)でみた同類婚が、遺伝的・生物学的な要因によって生じている可能性を提起し、これを検証している。具体的には、筆者たちは実験によって「人は嗅覚を通じて同じ政治的イデオロギーを持つ人を魅力的に評価するのかどうか」を検証している。

はじめに、(1)嗅覚と配偶者選択については、臭いは免疫応答性(immunocompetent、正常な免疫反応を引き起こす能力を持っていること)や社会的適合性(social compatibility)などのシグナルになることが先行研究によって指摘されており、配偶者選択や生殖にとっては重要な要素となる。嗅覚の情報処理の役割を担う嗅球(olfactory bulb)は扁桃体における情動の喚起と関係する部分や海馬と直接繋がっており、視覚や聴覚よりも聴覚による学習速度に有利な位置を与えている。

嗅覚情報を通じて相手への魅力が喚起される説明としては、魅力を感じる人の主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex, MHC)が評価する側にとって相補性を持つため、というものがある。MHCは免疫反応に必要なタンパクの遺伝子情報を含む遺伝子領域とされ、ヒトは遺伝子型(genotype)によって媒介される形で身体の臭いからMHCペプチドを評価する能力をもっている。ただし、MHCによる説明は、臭いと魅力がつながる一つのメカニズムに過ぎない。

次に、(2)嗅覚と政治的イデオロギーに関しては、以下のような説明がされる。まず、臭いは疾患の回避、不正行為の検知(cheater detection)、外集団からの防御などの見込みを最大化することに寄与する。こうした要素は政治的イデオロギーを構成すると考えられ、例えば嫌悪感覚(disgust sensitivity)が政治的に保守的な態度と結びつくとされ、結果的には中絶や同性愛に関する嫌悪感とつながる。

ここまでは、臭いと魅力、及び嗅覚と政治的な態度の関連が指摘されてきたが、本稿の問いである、(3)嗅覚を通じて、ヒトは同じ政治的態度の人を好むのかを検討するためには、政治的態度が魅力と結びつく必要がある。

この嗅覚によって政治的イデオロギーと同類結合が結びつくメカニズムに関しては、筆者たちは進化的な説明をしているように読める。つまり、進化的に適合的な選択をするために、ヒトは政治的態度が近しい人を好ましいと評価するというのだ。はじめに挙げられているのが子どもの養育(再生産)である。このような過程を説明するものとして、子孫は自分とは異なる性の親(息子であれば母親)の、配偶者を獲得するようなテンプレートとして用いられるような表現型(phenotype)のメンタルモデルを真似する点が挙げられている。つまり、親から子どもへ嗅覚選好が移転することによって、配偶者選択に嫌悪感のような社会的態度と関係する臭いが要素として入り込んでくるという。あるいは、価値観が似た者同士の親の関係は良好に持続するとされ、子どもの養育にとってもプラスであるとされるため、再生産上の成功を最大化するために、価値観の近い相手を臭いから無意識に選択している可能性も指摘されている。

こういった先行研究をもとにして、筆者たちは18歳から40歳の146人の男女を対象に、以下のような実験を行う。21人の男女は政治的にリベラルか保守の両極に位置する人で、評価される側(ターゲット)として、プロトコルに従って自分の臭いを摂取される。残りの125人は、ガラス瓶に摂取された21人のターゲットの臭いをランダムにかぎ、魅力を判定する。分析の結果、イデオロギーが近い場合、評価者はターゲットの臭いをより魅力的に評価することがわかった。ただし、イデオロギーの一致・類似によって説明される魅力評価の分散はわずかなものである。したがって、筆者たちは、臭いを通じて政治的な態度が近しい人を好むメカニズムはあるが、それは政治的態度による同類婚を説明する要素の一つに過ぎないと結論づける。



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