March 6, 2018

DemSem: Jackelyn Hwang (March 6, 2018)

ウィスコンシン大学マディソン校の社会学部は、伝統的に社会階層論と人口学、及び両者を混ぜたような研究が非常に盛んです(*1)。

社会学部のファカルティにいる先生や大学院生は、学部に加えて大学の持つ研究所に所属し、そこで専門的な研究を進めています。人口学が強いマディソンの持つ、他の大学ではあまり見られない特徴の一つとして、人口学系の研究所が二つあることがあげられます。

一つ目がCDE(Center for Demography and Ecology)で、昔からある研究所です。もう一つが1999年と比較的最近にできたCDHA(Center for Demography of Health and Aging)という機関で、両者は姉妹組織とされています。前者はNICHD(National Institute of Child Health and Human Development)から助成を受けている一方、後者はNIA(National Instituted of Aging)から助成を受けています。

助成先は違いますが、社会学部にいる人口学系の研究者の多くが所属している事実は変わりません。社会学部の院生は、どちらかの機関のPA(Project Assistant)になることも多いようです。

前置きが長くなりましたが、CDEは毎週、Demography Seminar、略してDemSemというセミナーを開いています。全米、あるいは世界の他の大学から人口学の最先端の研究をしている研究者を招き、研究報告をしてもらっています。他の社会学プログラムの例に漏れず、院生はこの授業を履修(Soc 997)することで、単位がもらえたりもします。

3月6日の報告者はスタンフォード大学のJackelyn Hwangさんでした。2015年にハーバードでPhDを修了された若手の方です。博論は公開されていますが、指導教員はSampsonさんだったようです。

報告タイトルはUnequal Displacementというもので、ジェントリフィケーションに関する新しいデータを用いて2000年代以降のフィラデルフィアを対象に(1)ジェントリフィケーションが生じる地域に、誰が移動してくるのか(2)ジェントリフィケーションが生じた地域の人は移動しやすいのか、またどのような地域の人が移動しやすいのか、及び(3)移動した人はどのような地域に移動するのか、またどのような地域の人が移動しやすいのかを検討していました。データで攻める系の論文ですね。

いくつか面白かった、気になった点について、ざっくばらんにまとめておきます。

・ジェントリフィケーションの定義
Hwangさんが最初に説明されていたのが、ジェントリフィケーションの定義は多様だということでした。その中でも、彼女の一連の研究における定義はもっとも古典的ということで、所得の低い地域が所得の低い人の流入(及び低所得者の流出)によって平均所得の高い地域になる現象を指すようです。注意点として述べていたのは、彼女の研究では人種の変容、つまり黒人が多く住んでいた地域が白人(非黒人?)が多い地域に変容することをもってジェントリフィケーションとする定義もあるようなのですが,それは除くということでした。人種が絡んでくるのが、アメリカの都市におけるジェントリフィケーションのユニークな点だと思いました。

・ジェントリフィケーションの種類
本報告では、地区の平均収入に着目するという定義をした上で、ジェントリフィケーションの動的なプロセスに着目して二種類のジェントリフィケーションが提示されます。一つがgentrifiableという、ジェントリフィケーションが可能になる地域、すなわち時点tにおいてフィラデルフィア全体の収入中央値よりも、自身の収入中央値が低い地区です。もう一つが、gentrifyingという、t-1時点でgentrifiableな場合にt時点に平均収入を上昇させている地区です。ジェントリフィケーションという概念自体が、時間的な視点を含んでいることがわかります。

・SESのプロキシ
使用しているデータ(ニューヨーク連邦準備銀行(Federal Reserve Bank of New York)がもっている、クレジットカードかつ社会保障番号(Social Security Number)を持っている個人を対象としたConsumer Credit Panelの5%サンプル)には、人種や通常用いられるSESに使える変数がなかったため、分析ではクレジットカードの信用度スコア(Equifax risk score)を用いています。よくわかりませんが、Equifaxという信用調査会社がクレジットの履歴?などから、その人の信用度を測定しているようです(怖い...)。このスコア自体は破産リスクとして理解されますが、SESと関連、つまりスコアが高い人は所得が高い傾向にあり、低い人は貧困層の人が多いらしく、おおよそプロキシとして機能するということでした。もちろん、本当に貧しい人は、そもそもこのデータにいない(カードを持っていない、番号を持っていない)ことは、データの限界であると述べておられました。

・分析の結果
まず、誰が流入するのか(Move in)の分析は、信用度の低い人(SESの低い人)はNon-gentrifyingのエリアに移動しやすいと言うことで、これは要するに地価が上昇しているような地域には移動しにくいということとして理解できるようです。
次に、誰が流出するのか(Move out)の分析は、SESやOrigin(もといた地域がジェントリフィケーションが進行しているかどうか)と流出には関連がないことがわかりました。
最後に、流出先を区別した分析では、非黒人が多いジェントリフィケーションが進んでいる地域出身の低いSESの人は、他のグループの低いSESの人に比べて有意にNon-gentrifiableな地域(ジェントリフィケーションが進行する条件を満たさないので、貧しい地域ではないということです)、あるいは犯罪率や人口に占める大卒者率が高い、質の高い地域に移動することがわかりました。この辺りになると、なぜ移動元と移動先に関連があるのか、話がややこしくなってきて、詳細まで説明を追うことはできませんでした(反省)。

若干、一つの論文にクエスチョンを詰め込みすぎなのかなあ、と思った節もなくはないのですが、個人の詳細な移動履歴がわかり、かつジェントリフィケーションが拡大した2000年代以降のトレンドを捉えたデータは他にないそうなので、非常に貴重な研究だと思いました。毎週、こうした研究を聴くことができるのはよいですね。

写真:DemSemが開かれているSewell Social Science Building

(*1)例として、US Newsが4年ごとに更新する社会学大学院ランキングでは、総合ランキングとは別にサブフィールドごとのランキングも示しています。両方とも、アメリカの社会学部の先生による評価のため、reputationの側面が強いですが、2017年のランキングによると、ウィスコンシン大学マディソン校は社会階層論で1位、人口社会学で2位となっています。


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