Chapter1 "The analytical tradition in sociology" in Hedström, Peter, 2005. Dissecting the Social. On the Principles of Analytical Sociology. Cambridge University Press.
第一章では,分析社会学がとる四つのアプローチについて解説されている.
・ 説明 explanation
・ 分解と抽象化 dissection and abstraction
・ 正確さと明確さ precision and clarity
・ 行為 action
具体的には,分析社会学は(1) 記述よりも説明を重視し,特に統計的な連関ではなくメカニズム的な説明を志向する.(2) タイトルのとおり,複雑な社会現象を分解し,構成体(constituent entity)の中から,最も本質的な要素と考えられるものに焦点を当てる.これは,重要性の低い者を抽象化することと同義である.しかし,あくまでも現実に生じているメカニズムに着目するのであり,分析社会学は分析的実在論 analytical realismの立場をとる.(3) 不確かな解釈を導くような曖昧な定義をすることはしない.たとえ小さな違いであっても結果に大きな差をもたらすような場合に関しても,明確さと正確さは重要である.(4) 複雑な現象を分解するとき,社会学的な問いにおいて中心となるのは社会システムにおけるアクターであり,アクターの行為である.説明的な社会学理論には,行為の理論が根本的に必要である.
加えて,第一章では社会学における分析的な伝統について言及している.登場するのは,初期にはWeberとTocqueville,
中期にはParsonsとMerton、後期にはElster, Boudon, Shelling, Colemanである.これら現代の社会学者である四人の貢献が述べられる.Elsterは分析社会学の「哲学的な基盤」を用意したとされ,行為に基礎をおいた説明の論理を,合理性、社会規範,感情との関係から探求していった.合理的選択の伝統の上にたつ研究の多くが道具主義instrumentalism的な傾向にある一方で,Elsterはあくまで現実に生じる事象の説明に焦点を当てていた.BoudonもElsterと同じように,行為に基礎を置く説明の重要性を説いていたが,Elsterが分析哲学や行動経済学に依拠していたのに対して,Boudonは古典的な社会学との対話から理論を発展させていた.彼は,行為から社会的な帰結が生じるgenerative modelの重要性を,ミクロ-マクロリンクの枠組みを用いて説く.自身を「不貞な経済学者 an errant economist 」と称したShellingもミクロ-マクロリンクに関する業績で知られる.彼は,個人の相互作用から社会的な帰結が生じる過程を,居住の分離を例にMicromotives and
macrobehaviourで見事に示した.最後に,Colemanもマクロな社会現象を,同じレベルのマクロな要因から説明するのではなく,個人の行為に立ち返って現象の発生を記述するアプローチを採用した.また,彼は理論と計量分析のリンクについても論考を残している.
恐らく,分析社会学の一つのミソは下線部「あくまで現実に生じる事象の説明に焦点を当て」ることにある。Hedströmに与えたElsterの影響は小さくないように思われ,となるとスカンジナビアにおける合理的選択理論の伝統が,分析社会学の誕生においては鍵になってくるかもしれない.
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