August 18, 2014

移民家族の世代関係・文化伝達の理論

Schnell, Philipp. 2013. Transmission von Partnerpräferenzen bei muslimischen Familien in Österreich in Weiss, H., P. Schnell, and G. Ates. 2013. Zwischen Den Generationen. Springer VS.

Weiss et al. (2013)は欧州において移民のプロセスに対して世代関係がどのような影響を与えるかを検討している。その中で、Philipp Schnellがオーストリアにおけるムスリム系家族を対象に、子どもの配偶者選好に対する親と友人のネットワークの影響力を検討している。この章、そしてこの本に限らず、現在の西ヨーロッパでは、移民第二世代が同じ宗教・エスニシティを持つ人をパートナーとするかどうかが移民の社会統合の必要性が検討される中で重要なテーマになっている事が読み取れた。この論文もそれについて扱ったもので、トルコ出身のムスリム系移民を対象としている。計量分析の結果、親が宗教的に熱心である、調査対象となった移民第二世代の子どもの宗教心の自己評価が高い場合に、同じムスリムとのEndogamy(同族婚)を選好する事が分かった。その一方で、親の学歴が高い、また本人の友人ネットワークに占める非ムスリム系の割合が高いことはEndogamyを志向しない効果が示唆されていた。ネットワークの同質性(似た者同士が繋がりあうという意味で、この現象はHomophilyと呼ばれる)と配偶者選択の関係が指摘されているのが興味深い。当たり前のように聞こえるかもしれないが、ムスリム系のネットワークの中にいると同じムスリム系の人と結婚したいという志向を持つようになる。現実には、あるパートナーと結婚したいから,その人と似た境遇にある人と繋がりあうというのは考えにくく,親の学歴や自らの宗教心等を多変量解析によって統制していることも踏まえると、ネットワークが配偶者選択に与える影響は独立のものである事が分かる。また、Schnellの著作を検索したところ、彼は近くトルコ系移民第二世代がスウェーデン、オーストリア、フランスでどのような教育達成をしているかについての国際比較研究の本を出版する予定である事が分かった(Educational mobility of second-generation Turks. Cross-national perspectives. Amsterdam University Press.)。


Mchitarjan and Reisenzein (2013). The Importance of the Culture of Origin in Immigrant Families: Empirical Findings and their Explanation by the Theory of Cultural Transmission in Minorities. in Geisen at al.  Migration, Familie Und Gesellschaft. Springer VS.

Geisen at al.  (2014)ではドイツとその周辺諸国における移民の家族について検討している。その中で興味深かったのは、Mchitarjan and Reisenzeinによる、移民家族における文化の伝達(kulturtransimission)の重要性を指摘した論文だった。この論文では、はじめに移民家族における文化の重要性を裏付ける知見を以下のようにまとめている。まず第一に、非移民の家族よりも移民の家族の方が、親から子への価値観や規範等の文化がスムーズに伝達されている。第二に、移民世代だけではなく第二世代以降についても自らのエスニシティをアイデンティティとして強く保持する、ないしは出生国とエスニシティの両方をアイデンティティとして持ち、出身文化のアイデンティティを持つことと生活満足度やストレスを持たない事が有為に関連している、第三に、こうした自身による認識以外に、親の出身国の文化を伴うアイデンティティは言語の使用、家庭内における宗教教育、そして配偶者の選好の形で現れるという。第四に、そうしたアイデンティティ形成については親の影響力が大きい事、第五に、そうした移民世代が出身文化を放棄し移民国の文化に同化することが統合にとっての必要条件ではない事(例えば、移民としてのアイデンティティを持っている事がフランスを祖国として認識する事の障害とはならない事例が紹介されている。)
このように先行研究をまとめた上で、筆者らはこうした知見を理論化しようとする。彼らによれば、これまでのそうした理論化は行われてきたが、特に第一、第二、そして第五の点に関しては驚くべき結果として解釈される事が多く、その理論からはしばしば逸脱した例として認識されてきた事を指摘する。特に、素朴な同化理論(移民してきたものは第二世代以降、移民国の文化に適応するという説)が批判されており、また出身文化と移民国の文化の両方を持つbiculturalなアイデンティティを持っていたとしても、なぜ出身文化を保持する傾向にあるのかについては同化理論に加えて、トランスナショナリズムの理論もこれに答えていないという。その上で筆者らはマイノリティだけではなくマジョリティをも視野にいれ両者の相互作用から教育による文化伝達の重要性を主張する。具体的には、公的・私的領域におけるマイノリティの教育活動とマジョリティの価値観を代表する教育政策をアクターとして考え、その二つが互いにそれぞれの文化を伝達しようとする動機に着目した理論を提示する。この理論の興味深いのは、文化伝達の動機を意識的なものではなく、対立する集団の文化に対する脅威や疑念によって生じるという複数の集団の相互作用の中に位置づけている点にある。そして、この理論が経験的な知見に最も整合的と主張する。ちなみにこの文化伝達の理論を提唱したのはブルデューらしい。

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