October 19, 2023

掃き溜めに鶴

 自分の大学メールアドレスのスパムフォルダーに入るメールは、大体2種類に分けられる。一つがデタラメの(中には本物もあるのかもしれないが)学会やジャーナル投稿のお知らせ。昔は札幌で開催されるよくわからない公衆衛生の学会のお知らせが来ていた。もう一つが、存在しない公募のお知らせ。中にはAcademic job postings at Socioloxyのように、タイトルでスパムであることを教えてくれるので、からかわれているのか、真面目に騙そうとしているのか、よくわからなくなる。この論文を元に本を出版しませんかというお誘いも、100%デタラメ。というか基本的に、この業界にいると知っている人からの紹介じゃないものは、極端に信用が薄いと思われる。

ただ稀に、違う大学の人から来る初めてのメールはスパムフォルダに入っていることがあるので、一応数日に一回はチェックする癖をつけている。ジョブマーケットに入ってからは、ジョブマ関連のメールが偶にスパムに来ることがあり、毎日チェックするようになった。

そういう意味では、今日のスパムフォルダは、さながら掃き溜めに鶴、スパムフォルダに嬉しいお知らせだった。自分の研究分野ではヨーロッパのハブである某大学、というか隠す必要もないので書くとナッフィールドカレッジのPrize Postdocのショートリストに入ったので、面接に呼びたい、というメールが届いていた。

出願したときに心のなかで声がかかるといいなとは思っていたが、実際に連絡が来ると嬉しい。条件は3年で、何もobligationはない。自分の好きな研究をすればいいだけ。給料はポスドク+イギリスなので低いが、オックスフォードに3年身を置けるのは、今後の研究を考える上でも、この上なく幸せなことだと思う。自分が憧れる大学は3つあり、一つがウィスコンシン、一つがミシガン、そして最後がオックスフォード。ウィスコンシンは一年いたし、ミシガンもサマースクールなどで多少の機関滞在していたことがあるので、あとはオックスフォードに滞在したいと常々思っていた。

研究面で言えば、ナッフィールドカレッジは社会階層研究の中心であるし、オックスフォードには日本研究所もある。最近は人口学研究所もできた。世界的にも稀な、自分のやりたい研究が全てできる場所だ。

そんな心躍るお知らせがスパムフォルダに入っていたのだから、皮肉である。ジョブマにいる人は、毎日スパムフォルダをチェックしなくてはいけない。

その後すぐ、こちらもスパムに入っていたが、某南部にあるD大学のポリシースクールからレターリクエストの連絡。selected applicantsと書いてあったので、long listに入っているのかもしれない。もっとも、今年はAPを3人も雇おうとしているので、普通よりはリストのサイズも大きいだろう。自分もその恩恵に預かれたのかもしれない。アメリカの大学から次の選考に進んだという連絡が来たのはこれが初めてだったので、こちらも嬉しかった。

ひとまずこれで連絡があったのは、香港(ジョブトーク)、シンガポール(ジョブトーク)、カナダ(ロングリスト)、イギリス(ポスドクショートリスト)、そしてアメリカ(ロングリスト?)の5つ。うまく地域的にもばらけた。アメリカの大学院に出願したあとの回顧で、アメリカのPhDを取っていると世界中で就活できるみたいなことを、実感もなく馬鹿の一つ覚えみたいに言っていたことがあるが、その効用をひしひしと感じている。


October 8, 2023

アメリカの大学は遅い

 先日あったインタビューの結果、現地でのフライアウトに呼ばれることになりました。まだいつになるか決まっていませんが、長距離の移動になるので時差ぼけなどに気をつけねばなりません。それともう一つ、噂段階ですがジョブトークに呼ばれる?みたいな話を聞きました。北米の某大学のロングリストには残っているようで、そこは人口学者を雇うと公募資料には書いてあり、フィットもよく期待しています。中西部の同じく人口学者を公募していた大学からは御祈りメールがきました。ファカルティの先生からメールが来て出願してねと催促されたので期待していたのですが、人口学+環境問題について研究しているという若干奇妙な公募で、そのままだとあまり応募が少ないことを懸念したからだと思っています。書類で落とされたということは、おそらくその奇妙な公募内容にフィットする人が結構応募してきたのでしょう。巡り合わせなので仕方ありません。

それ以外の大学からは、ほとんど連絡がきていません。この月曜にようやくこの資料が足りてないから急いで出してみたいなメールをもらったくらいなので、9月半ばに締め切った公募も10月になってようやくスタートというところが珍しくないのかもしれません。アメリカの大学のポストの方が相対的に応募の数は多いので、選考プロセスが遅くなるのはよくわかります。アジアの大学が早いのは、応募の数が少ないこともあるでしょうけど、それよりもアメリカの大学より早く動かないと人が取られてしまうという危惧の方が大きいのではないかと思っています。

というわけで、ぼちぼちジョブトークの用意をしなくてはいけません。

October 2, 2023

オンライン面接

 今日は夜九時半からとある大学の一次面接がオンラインでありました(A大学としましょう)。この面接で印象が良ければ、おそらく対面のジョブトークに呼ばれます。面接にいたのは4人の先生、一人が社会学ではない先生でした。20分と聞いていたので、なんとなく前半は研究、後半はティーチング、余った時間で僕から何か質問という流れをイメージしていたら、予想通りの順序になりました。

最初に、うちの大学に就職するとしたら、どういう研究をしたいかという質問。早速予想していない質問から来ましたが、おそらく大学に来ることをイメージできているかの探りを入れたかったのかなと思います。A大学にはアジアの研究をしている人が多いので、そこをプッシュしました(し、それは本心です)。研究に関しては、意外としっかりペーパーを読まれていたという印象です。最後に書きますが、書き上げて1年以上経っている論文を情熱的に語るスキルは結構大切な気がします。君の論文読んでこういうこと思ったんだけど、どう思うかなみたいな質問をもらって、少し戸惑いましたが、返答は一応納得してもらえたような気がします。

次のティーチング関連の質問は少しやらかした感じ。最初に聞かれたのが、統計の授業を教えることになると思うけど、統計が得意な人もいれば苦手な人もいる生徒に対して、どのようにアプローチしていくか、という質問。統計の授業を教えたことがないので、実経験がないのも良くなかったかもしれませんが、全く予想していなかった質問だったのでテンパりました。ひとまず、自分は数式が得意ではないし、社会科学の授業であれば大切なのは実社会の問題からツールとしての統計を学ぶという順序だと思うという(それ自体は本当に思っているけれど何故か突発的に出た)考えを開陳しましたが、その後が続かず、確固たるteaching philosophyを持っていないと思われたかもしれません。後から振り返ると、学生同士で一緒に問題を解かせるとか、いろんな言い方があったように思います。普段からあまりティーチングについて考えていないことが仇になりました。この辺り、ティーチング量の多い州立大出身の院生の方が分があるかもしれません。もちろん、普段からこういうことを考えられていない自分がよくないのですが。

最後に、自分から聞きたいことはないかというコーナー。正直にアメリカから離れることへの懸念と、それをどのように克服してきたのかという質問をしました。ある先生の心に火をつけてしまったみたいで、2分くらいその人の経験をシェアしてもらって勉強になったのですが、自分が話すべきという面接の本来の目的からは少々外れてしまったかもしれません(まあそれくらい核心をつく質問だったのかもしれず、逆に印象には残ったかもしれません。zoomのミーティングタイトルが9-11時になっていたので、おそらく自分の前に一つ面接があったのだと思うのですが、あの熱量からは、前のインタビューではそういう質問はなかったのかなと思います)。もう一つ、自分の研究関心を踏まえて、どのような研究機関やアカデミックなコミュニティの存在に気づいておくべきかという質問をしました。

基本的に、ネガティブに聞こえるリスクを承知の上で、自分がその大学に就職したとしたら正直に気になる点を正直に話す戦略を取ったのですが、表面的な質問をするよりは、良かったかもしれません。大学内外のリソースとして何があるかという逆質問に対して、A大学の近くにあるB大学のこのセンターは君と同じ関心の人がたくさんいるよと言われ、自分はさすがに違う大学の話をするのはアレかなと思って自分から話題にはしなかったのですが、なるほど、そうくるかと思って、今年はB大学は誰も雇ってないんですよね(笑)みたいなノリで返答したら、苦笑いぎみで少しウケました。雰囲気的にそれくらいはぶっちゃけて話せる空気は感じたので、意外とうまく行ったといえば行ったのかもしれません。

感想としては、ライティングサンプルが意外と読まれていることに驚きました。「論文の知見で驚いたことは?」みたいなことを聞かれたのですが、正直3年前に分析が終わって2年前に投稿して1年前に出版された論文に対して、そこまで自分はライブ感を持って語れないというのが正直なところです(が面接では、すごくエキサイティングな雰囲気で知見を語る自分がいて、我ながら滑稽でした)。自分の論文を審査者が読むように批判的に読み込んでみる必要があるなと、今後に向けて反省になりました。

総じてサポーティブな雰囲気の中で最初の面接を経験することができて、とてもいい勉強になりました。

October 1, 2023

就活の途中経過

 9月初めから公募資料を順次提出していって、9月は合計で述べ53校に出願しました。内訳で言うと、アシプロのポジションが50で、ポスドクは3つです(ポスドクの公募は11-12月に本格化します)。地理的に見ると、アメリカがほとんどですが、イギリスと香港の大学にそれぞれ2つ、あとはカナダ、シンガポール、オーストラリアの大学にそれぞれ1つ出しています。

10月以降も締め切りはあるのですが、10月締切の大学についても、おおよそめぼしいところには出願してしまったので、これからはポスドク向けの公募資料の準備に入ることになります。おそらく残り15くらいは出せそうなので、これから出るのも含めて70くらいの大学に出願することになると思います。指導教員に聞いたら、彼の時もそれくらい出していたようです。僕の周りで本格的に就活をしている人に聞いても、大体60から80くらいのレンジに収まるので、ちょうど真ん中くらいかなと思います。公募書類と並行して、ジョブトークの用意をする必要があります。

就活をしてみて、思ったことが二つあります。一つが、自分が出せる公募が意外と少ないという点です。大学院の初めに噂で聞いてたのは、家族は学部の授業でよく教えられるので需要がある、したがって家族社会学を専門にしていると働き口には困らない、という話でした。そういう話を鵜呑みにして自分はのほほんと好きな研究ばかりしていたのですが、蓋を開けてみると家族社会学者を雇いたいと公募資料に明示的に挙げている大学はかなり少なかったです。

逆に公募でよく見かけるトピックはどれかというと、犯罪学、人種、健康になります。アメリカの社会学メジャートピックはこれかと言うくらい、感覚的には出てくる公募の5分の2くらいがこのどれかに当てはまる気がします。もし自分が「収監が人種の健康格差に与える影響」みたいな研究をしていたら、出せる公募は倍近くになったんじゃないか、そんな風に思いさえします。

よく研究者のタイプを従属変数型独立変数型で分ける考えがあります。従属変数型というのは、従属変数Yを説明することに関心がある人で、例えば「世代間の格差が維持されるのはなぜか」、「少子化が起こっているのはなぜか」、そんなアウトカムベースの研究を進める人たちを指します。これに対して、独立変数型の研究者は、特定の原因Xが複数のアウトカムYに与える影響に注目する研究者で、例えば収監が人種格差に与える影響は、健康もあるし、所得もあるし、家族関係もあります。もちろん、二つの性格どちらも満たす研究者もいて、例えば住宅からの強制立退(eviction)や人種による居住分離は、原因も重要ですし、その帰結も重要です。

何が言いたいかというと、自分はどちらかというと従属変数型の研究者で、例えば同類婚のトレンドが国ごとに違うのはなぜか、あるいは日本で難関大学に進む女性が少ないのはなぜか、そういう研究をしてきたのですが、そうすると従属変数にフィットしない公募には出せないし、就活を見据えてそうやすやすと関心を置くアウトカムをあれこれ変えることもできないのです。

ところが、独立変数型の研究者であれば、Yを複数設定できます。収監の例で言えば、犯罪学はもちろん、人種の所得格差であれば人種に関する研究者の公募にも出せ、健康格差であれば健康の酵母にも出せます。従属変数型の研究者に比べて、独立変数型の研究者はアウトカムを増やすことへのハードルが低いので、就活では従属変数型の研究者よりも出せる公募の数が多くなる気がしました。

もう一つが、アメリカの大学の公募の多さに改めて驚かされました。他の国と違うのは、小規模な私立大学がたくさんある点で、こういった大学は名門リベラルアーツカレッジの場合もあれば、地元の学生がいくような本当に小さな大学もあります。それに加えて、アイビーリーグやカリフォルニア大学システムのような研究大学、それとティーチングメインの州立大学の3種類があり、研究大学であれば研究に集中できそうなのですが、他の大学だとどうしてもティーチングが多めになる感じがします。

この点、地理的には離れますが、香港やシンガポールの大学は、アメリカの研究大学よりも少ない授業負担で、待遇もそれ以上に良い場合が多いので、アメリカから離れると言う、その一点を除けば、魅力的な選択肢なのかもしれません。特に、アシプロの最初の時期をそうした大学で過ごすというのは、戦略としてはありなのかもしれないなと思い始めました。現実問題として、香港やシンガポールの研究大学とアメリカのティーチングメインの大学を比べると、前者の方が研究はしやすいだろうと思います(ということを、ASAで香港の大学のリクルーターの先生に言われてグラっときました)。

少なくとも社会学では、アジアの大学は、アメリカの大学に人がとられることを見越しているからか、あるいは単にアメリカの大学よりも応募が少ないからなのか、早めに動いてきます。香港やシンガポールの大学はアメリカの研究大学とおおよそ同じスケジュールで公募を締め切っているのですが、先んじてこれらの大学からコンタクトがありました。早速、明日1件オンラインの面接があり、結果次第で10月中にジョブトークが現地であるようです。他の大学のジョブトークにも呼んでもらえそうで、ひとまずアプリケーションは呼んでもらえてることに安心しました。

順調に言った時の不安を今からする必要はないのですが、過去の例ではあまりにも順調に行きすぎると、アメリカの大学の結果が出る前に決断をする必要もあるようで、難しい状況に直面する可能性もあります。