April 10, 2022

PAA2022を終えて(文献メモ)

3日間にわたってアトランタで開催された、アメリカ人口学会。久しぶりの対面で、直接人と話すことの大切さを感じた。例えば、自分が行こうと思っていたセッション以外にも、友達に誘われて行ったセッションの報告が面白かったり、ご飯を食べながら見逃したセッションの面白い報告について聞いたり。それ以外にも、セッションが終わったあとのsmall talkで意見交換したり、やっぱり論文、報告だけからはわからないニュアンスみたいなものが、会話からだと吸収できる。

そうした点を踏まえて、いくつか印象に残った報告と、それを踏まえて読まなくてはいけない文献の列挙。

[同類婚]

同類婚の発表では、ウィスコンシンの友人だったNoahがChristineらと進めている、Schwartz and Mare 2005のアップデート、Eight decades of educational assortative matingが印象に残った。特に、2010年代には学歴同類婚は多少弱くなっていること、人種別にみるとこの傾向は白人で顕著な一方、アジア系とヒスパニックでは同類婚が増えている点が興味深かった。アップデートがメインの目的ということで、graduate degreeはBAとまとめられていたが、人種別の結果を見るとおそらく大学院は別にした方がいいだろう。これとは別に、人種別のgraduate degreeの割合がどれくらいなのか、気になった。

Status exchange theoryを経験的にアップデートするために、Xie and Dong AJSで提案されたlog-linearにかわるExchange indexを中国の地位と美貌の交換に応用したYu Xieの報告も、面白かった。内容よりはメソッドが興味深く、AJS論文を読まなくてはいけない。

https://www.journals.uchicago.edu/doi/full/10.1086/713927

[子育て]

最近、parenting(子育て)が社会階層の形成に果たす役割に興味を持っている。親の学歴で子どもの学力が異なる話や、アメリカでアジア系が学業成績で優位に立っていることを説明するメカニズムとして、最近注目されている。ブラウン大学のJacksonさんの学歴間の子育て格差が州レベルの子育て支援によってどれだけ縮小するのかを検討した論文は面白かった。特に、子育て支援策は低学歴層の親の育児時間を増やすことで格差を縮小すると言う知見がパンチライン。ポスター報告でコロラド州立大学のHastingsさんがオンライン調査のテキストデータからデータドリブンに子育てスタイルを抽出した研究も面白かった。

ひとまず、KHPSを使って、子育てスタイルの類型化とそのパターンが子どもの年齢や親の階層によって異なるかをみてみようと思う。

アジア系との関連でいえば、子育て支援策を導入したとしても、子育てスタイルが文化的な背景に左右されている場合には反応が鈍いかもしれない。Policy shocks and cultural stickinessの話も考えていきたい。離婚との関連で子育てスタイルの関係を考えているのだが、もしかすると結婚満足度と離婚の関係も人種によって異なるかもしれない。この手の話ではセレクションによるcollider biasが常に問題になるので、その点も引き続き考える必要がある。

https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/00491241211043131#.YZWK3DfY60U.twitter

日本でも市町村レベルでは子育て支援策にばらつきがあるので、似たようなことをしてもいいかもしれない。Jacksonさんの研究はbetween statesのばらつきをみてみたが、歴史的なトレンドも気になる。

[メソッド]

人口学における因果推論のセッションが面白かった。ウィスコンシンの後輩だったAng Yuが報告してた研究では、raceやgenderといったgroup membershipをtreatmentではなく所与のものとして考えて、関心のあるtreatmentへのselectionを考えればいいのではと提案した上で、因果効果に加えてセレクションの部分を考慮した分解法を提案していて、面白かった。

これと合わせて、プリンストンの同僚だったIan Lundbergのgap closing estimandsも似たようなロジックで議論しているらしく、チェックしないといけない。

https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/00491241211055769

[教育]

偶然一緒に野球を見に行くことになったコーネルのHaowenが報告していた(といっても同じ時間帯のセッションがあり見逃した)大卒者における性別職域分離の3割が専攻の分離によって説明できるという論文は、記述的だが面白く、分解法の古典的な応用だと思った。

教育と分解でいうと、自分の遺伝と家庭環境が学校選抜度に与える影響も、セレクションを分解しているというフレーミングで攻めるのも、ありなのかもしれない(decomposing sources of effect heterogeneity )。

これは直接セッションを見て思った感想ではないが、人口学でも因果推論が主流になりつつある。一方で、人口学が従来から大切にしてきたheterogeneityを考えることも重要で、そうして頭をぐらぐらさせていると、例えば大学進学の平等化効果が、どの人口にも平等なのか(Does college level the field equally for men and women?)という、少しややこしいが面白そうな問いを考えている。

[文化]

子育てと関連するが、文化をどう定量化するかという最近の社会学の潮流もあって、人口学的変数の意味が社会によって異なる時に、それをどうやって見える形にするのかを考えている。例えば、結婚の意味が社会や社会の中の集団によって異なるかもしれない。念頭にあるのは、アメリカのアジア系における高い教育熱と子どもを家庭の最優先に置く考えである。同様に、学歴の意味が集団ごとに違うかもしれない。政治哲学でも、学歴とモラリティがアメリカでは強く結びつきつつあることが指摘されているが、そうした点も定量化したい。

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