February 12, 2017

ICPSR2016に参加して

来る前の経験を踏まえ、今後ICPSR行こうと考えている人に聞かれた時に困らないようにメモ。問い合わせがきたので少し書き換えまして再掲します。

コース
 ICPSRのページにも書いてありますし、国内協議会を経て申請すれば講習会(?)で教えられるとは思いますが、サマープログラムは(1)2時間のアサインメントが課されるワークショップと(2)特に課題のないレクチャーの二種類があります。ワークショップの方が実用的、応用的な内容で、レクチャーは応用的な講座をとるときの基礎の振り返りに近いです。

 授業料を支払う時にどのコースをとるか登録する必要がありますが、登録したコースは常に変えられますし、現地に来てしまえば(単位を取ろうとするとちゃんと変更届を出しておく必要がありますが)どのコースに出ているかをチェックしている人はいません。コースの先生も、名簿などを持っているわけではなく(持っているのかもしれないがチェックしていない)、授業の初めの方にgoogle groupsなどに登録させられたり、ミシガン大のはCToolsというシステムをつかって、サイトに登録したアドレスにアラートが来る形で、授業の課題などが共有されます。ベテランの先生はCToolsを使わず、図書館にある本を借りるか本屋で買ってください、というスタンスなので、長年ICPSRで授業している先生(例えばMike Berbaum先生とか)の場合とそうでない先生の場合で、授業の仕方は異なるかもしれません。

 ちなみに、サマープログラムの初日の午前中はregistrationの時間になっていて、Last nameごとに登録の時間が割り振られているが、どの時間に行っても大丈夫です。その辺りは割と適当なので、あまり気にする必要はありません。

 タイミングは違いましたが、履修した授業のアサインメントは三つでした。およそ週に一回、週末などに課題をこなす時期がやってきます。今振り返ると、最初の課題が一番難しかったかもしれません。後半の課題の方が自分のデータを用いて分析してみるなど、自由度の高いものになり、実際授業を履修したのも、自分の持っているデータでこういう分析がしたい、というのが背景にあったので、やりやすかった部分があります。最初の課題は、まだ授業がどういう方向に進むのかよくわからない中で、全体を俯瞰するような課題が出てきたので、後から振り返るとあの課題はこういう意味があったんだなというのがわかってきます。予想していたよりも、課題をこなさないで授業だけ聞く人も結構多く、自分は特に単位は必要なかったのですが、せっかく履修したので、、、と思って修論の時間など犠牲にしながら課題に取り組んでいました。後々になってペイがあるのかなと思います(希望的観測)。

 また、受講生によってはコースの特定の部分だけ知りたいという人がいて、そういう人は授業の一部しか出ないこともままあります。自分みたいな人間はもったいない精神で興味が薄くても全部出ようとしてしまうのですが、取捨選択して授業を履修している学生がちらほらいるのは印象的でした。基本的によほどのことがない限り前提知識がなくても履修できる流れにはなっていますが、すでにそのコースの内容を触っている人は質問も鋭かったし、あとは私が履修した授業ではよく行列と代数を使っていたので、そういうのを使わずに統計を勉強してきた人にはやや辛いかもしれません。同時期にレクチャーでmatrix algebraの授業が開かれていて、そちらで代数と行列の勉強ができたのはよかったなと思います。

住居
 自分は昨年参加した人の勧めに従ってICC(非大学の機関で、自治寮の管理をしている組織。Inter-Cooperative Councilの略)が提供する大学院生専用(とはいっても、ICPSR期間中はICPSRに参加している中国人の学部生もいたので、ケースバイケース)の寮(Baker)に入りました。ICPSRのページにもあるように、又貸し(sublet)や他の寮など、いろいろ選択肢はありますが、ICCの利点のひとつは食事が共同購入されているので(north campusのICCは寮費が高い代わりに食事まで提供されるらしい)一人ではスーパーで買いにくい食材を使用することができる点、そして寮なので寮生と交流ができる点が挙げられると思います。

 ICCへの申請には特にICPSRが絡むことはない、期間中は登録する時にICPSRのメンバーであることを述べる欄にチェックしておくと、ICPSR価格で入寮できます(2016年は586ドル)。申請するタイミングにもよりますが、早くに申請すれば返信は早いらしいです。自分は1ヶ月前に申請したのですが、最終的に入寮が認められたのは渡航の1週間前だったのでかなり焦りました。手続きとしては、早い者勝ちなので早くに申請するに越したことはないですが、特に競争が激しいわけでもなく、1ヶ月前に申請した時でも部屋に余裕はありました。さらにいえば、セッション開始後に他の寮から移ってきた人もいました。ミシガン大学はcentralとnorth、二つのキャンパスがあり、サマープログラムは前者で開催されるので、central周辺の部屋を見つけておくと徒歩で通うことができます。ミシガン大学周辺の治安は予想以上に良かったので、夜11、12時になってもあまり危険な感じはしませんでした。ただし、大学近くに住むことのデメリットは、近くにスーパーがないことだろうと思います。大学関係者向けの住宅はnorthに供給されていることもあり、north周辺、あるいはバスで20分乗って郊外にあるMeijerに行くなどしないと大型のスーパーにはアクセスできません。north campusには大学が無料のバスを運行してくれています。

ICPSRに参加して良かったこと(授業以外)
 サマースクールのよさは、単に授業受けて学ぶ、以外にも、新しい人と知り合ったり、最初意図していたものとは違う出会いにめぐり合うこともあるかと思います。以下、ざっと挙げておきました。

・(予想以上に)世界各国の院生と会えました。アメリカの学生が多いかと思っていましたが、もちろんマジョリティーはアメリカの学生でしたが(さらにいうと政治学の院生)、アメリカの大学院に入る留学生も多いし、カナダ、ヨーロッパ、そしてアジアから予想以上に多くの学生が参加していて、各国の研究事情についていろいろと話をすることができたのはよかったです。

・分野の多様性。社会学が大多数かと思っていましたが、政治学も同じくらい多い(と最初に書いていた時は思いましたが、徐々に政治学の方がずいぶんマジョリティなのではないかと思い始めました)。その次にコミュニケーションや教育、公衆衛生など。仲良くなったインド人はミズーリのジャーナリズム・スクールで教えていたり、同じ寮の韓国の留学生はアメリカで国際関係を勉強していたりします。自分の分野を英語で他分野の人に説明するのは意外と難しく、良い練習になるし、他の分野のアメリカ留学事情などを聞けるのは結構面白かったです。Swedish instituteに在籍して、階層論をやっているスウェーデンの院生にも会えたのは貴重でした。

・授業外のイベント:ICPSRはいろいろとソーシャルなイベントを開いてくれます(初日にオフィス周辺でパーティ、他に二週に一度ピクニックが開かれます。ただし、ピクニックといっても近所の公園でBBQを楽しむものです(しかも自分たちが焼くわけではなく、焼いた肉が出てくる形式)。他にも、臨時でICPSRデータアーカイブにあるデータのワークショップを開いてくれました。参加した臨時のワークショップは中国の清時代の戸籍を使った多世代の(歴史人口学的な)分析に関するもので、自分と関心の近い人がインストラクターとしてきてくれたりと、予期せぬ出会いに恵まれることがあり、貴重でした。この手のサマースクールにはありがちですが、FBなどで幾つかソーシャルグループができるので、どれか一つに入っておくと週末の飲み会などに参加できます。大学街ということもあって、飲み屋は結構あるので、プログラムの後半は楽しめました。アナーバーにも一応クラブはあるので、そういう気分転換の方法もあります。

予想と反していたこと
・意外と忙しい:授業の課題やリーディングを真面目にこなしていると、意外と1日の余裕がありません。まず、授業2時間のワークショップを2つとり、さらに1時間のレクチャーをとると5時間持って行かれます。課題をこなすのは真面目にやれば2-3時間はかかり、これに修論やGREをやろうとすると、1日はあっという間に破綻するということを事前に予想できず、日本から結構な量の課題を持ってきてしまいました。これは反省点。まあ、そのうち全部まともにはこなせないと悟り、やや手を抜き始めます。本気でサマープログラムに参加したいのであれば、日本から何も仕事を持ってこない方が良いでしょう。

その他
 アナーバーに来るとまず思うのは、なんでこの人たちみんなミシガン大学のMが入ったTシャツきてるんだろう。。。というところではないでしょうか。大学近辺の店でも服やら雑貨やらMのデザインを施しているものが多いので、最初は驚き、そのうち幻滅し、最後には慣れてしまいます。アナーバーから大学を引くとほとんど何も残らないというのもあるのでしょうが、この町はミシガン大学がアイデンティティみたいなところがあるなと思います。なかなか日本にはないパターンかもしれません。

 アナーバーは人口の数だけ木があるとも言われるくらい自然豊かな街で、東京などではなかなかお目にかかれない動物に出会えます。まず、大学近辺を散策すると、リス(おそらく)がいたるところに溢れているのに気づくと思います。それだけでも驚くのですが、夜になると普通にホタルがいます。こういう可愛げのある動物ならいいのですが、寮にはコウモリが侵襲してきたりと、この辺りは東京にいるとなかなか想像がつきません。大学以外には豊かな自然くらいしかないのですが、道も広く、緑に囲まれたキャンパスは研究環境としてはよいかもしれません。

 私は、今回のサマープログラムには東大友の会(Friends of UTokyo, Inc.)から参加費の支援を受けました。国内協議会の分と合わせると、負担額はほぼゼロにすることができ、助成には本当に感謝する次第です。自腹だと、授業料が1セッション2500ドル(2セッション参加だとやすくなります)、これに1ヶ月の宿代、食費、航空券代など考えると、およそ40-50万円が1ヶ月の相場かなと思います。なかなか高いです。アメリカの院生はPhDや教員の場合には、多くが何かしらの支援を大学なり、フェローシップから受けている印象を持ちましたが、修士の学生は自腹で来ている人が多いと思いました。この手のサマースクールへの奨学金も幾つかあるので、金銭的な面で不安を抱えている人には、助成をいくつか探してみることをお勧めします。

 総合的には、サマープログラムには満足しています。1ヶ月は少し間延びするかなと思いますが、2週間だと得られない体験もあるので、色の出し方としてはこれでいいのかもしれません。一つ挙げるとすれば、授業を平日毎日2時間やるのは結構追いつくのに苦労するので、中日を設けるであったり、月曜火曜でやる授業と木曜金曜でやる授業を分けたりするといった方法は検討されてもいいかもしれません。また参加できればいいですね。

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