今学期のティーチングが(ほぼ)終わり、他の仕事も佳境に入りつつあります。というわけで、気持ち的に余裕が出たので抜けていた3月後半くらいからの近況を少しまとめてみます。
今学期の前半は経済社会学と国際移動の授業を受けていて、とても勉強になった一方、三時間のセミナーを週に二つは少しoverkillでした。後半は授業がなく、ティーチングと研究に集中できたので気持ち的にも多少余裕があったのかなと思います。
ティーチング
ティーチングは火曜に1コマ、水曜に1コマでイントロの社会学を教えていました。いわゆる101です。前半の記録はブログにつけていて、当時はかなり悩みながら取り組んでいたことがわかります。後半は多少力の抜き方がわかってきたというか、自分なりの型みたいなものを見つけられたので、週を追うごとに疲れずにできるようになってきました。
とはいえ一番大きかったのは、生徒がちゃんと授業に参加してくれて、一定の信頼関係が築けたことなのかなと思います。最初は、自分の英語を聞き取ってくれるのか、留学生の自分がアメリカの社会学を教えてて変に思われないのか、そういった不安がありストレスのもとでしたが、徐々になくなっていきました。
ほぼ専門外のトピックが基本なので、毎週教科書やレクチャーを読みながら、自分も勉強になることが多い授業でした。社会学はカバーする範囲が本当に広いなと思います。広いが故にあえて避けることができていたテーマも教えなくてはならなくなり、にっちもさっちもいかなくなり意を決して勉強してみると、意外と面白かったりして、食わず嫌いはよくないなと思いました。多少教えることに対する自信はつきましたが、やはり将来的には自分の専門とする内容を教えたいなと思います。
日曜夜から月曜にかけて授業用意をして、火曜水曜はティーチングを優先、木曜から土曜は研究日、そういう一週間でした。大体、水曜or木曜に半休、日曜に半休といった感じのスケジュールです。
研究(メイン)
今学期のメインの課題は、博論のprospectus(プロポーザル)を提出することでした。学期が始まった当初は、何にするかほとんど考えておらず、授業で忙しかったこともあり、棚に上げていたのが実際でした。ところがある時、今あるペーパーを一つの傘の下にまとめれば、一見異なる二つの論文が一つの博論にまとまることに気づきました。二つとも原稿はできているので、いきなり2/3が大まかには完成状態になり、自分でも驚く事態に。王道の博論の書き方は、文献を読み込んで、一つの大きな問いを立て、それを三つの論文で確かめていく、というのが理想なのかもしれません。しかし自分の場合は、いくつかの関連するテーマを国もデータも異なるデザインで進めているので、自分のような人間にはこういう形の博論もありなのかなと考えています。
博論に対して良い意味で「あきらめ」ることができたのは、博論後にやりたいテーマが見つかり、それは本にしたいと思うようになったこともあります。このテーマは実際に調査したほうがいいので、博論にするには時間がかかりすぎると思い、ポスドクから就職後に進めたいと考えています。
2/3ができつつある博論ですが、残り一章を考えなくてはいけません。それが4月に取り組んでいたことでした。先々週の指導教員との面談で、この博論第3章について相談した時に(いつものように)big pictureを考えようと言われ、毎度のようにびっぐぴくちゃーって何やねんと思いつつ3日考え続け、まあこれかなというのを考えるに至りました。
日本で受けてきた教育だと、論文におけるリサーチクエスチョンが先行研究から論理的に導き出されるものであれば、「問いの大きさ」いかんはあまり重要ではなかった気がします(本を書くタイプの院生は違うのかもしれませんが)。しかしこちらでは、既にあるデータを使った論文を書く場合でも、「問いの大きさ」をかなり重視する傾向にある気がします。同じデータで、似たような分析をしても、どういう文脈に乗せるかで見え方が異なるというのは興味深い現象です。
問題は、big pictureを示せと言われるものの、その示し方は教えてくれないことです。自分で考えなくてはいけません。もしかしたら、先生や研究室によっては、こういうテーマはどう?と教えてくれることもあるのかもしれませんが、私のアドバイザー然り、周りの先生は学生が考えたアイデアに対して非常に役に立つフィードバックはくれますが、それらをまとめて、新しい問いに昇華していく作業は、学生の手に委ねられています。自分で問いとそのオリジナリティを考える過程は孤独で、正直あまり好きではないのですが、逐一人に共有できない試行(思考)の連続がなければ、最初には思いも寄らない問いは生まれてこないのかな、そういう気もします。
そういうわけで、まだ博論最終章については思案中なのですが、ひとまず大枠はできたので安心はしているところです。これを5月にディフェンスするか、秋にするかで悩んでいます。
研究(サイド)
副業的な研究は、いくつか成果として出ています。
(1)まず、7年前(!)にRAとして始めた地熱の論文が、Environmental Politicsに掲載されます。この論文では、結局シンプルに温泉が多い地域では地熱発電の開発が行われにくいことを示したのですが、タイミングよく再生可能エネルギーの話が盛り上がっているので、多少注目してくれる人がいるのかなと期待しています。
(2)次に、依頼論文として書いた性別職域分離と職業スキルに関する論文も採択され、8月に日本数理社会学会が発行する「理論と方法」という雑誌に載ります。一応筆頭著者ですが、私が書いたというよりも、共著者二人の力量あっての論文になっています。(3)及び、原稿自体は昨年末に書いたのですが、数理社会学事典に掲載されるチャプター二つも、編者のコメントを待つ段階のようです。
(4)指導教員と進めてきたCovid-19とwell-beingの男女格差の論文については、JILPTでのワークショップで報告後、本日Princeton Club of Japanでも報告し、いいコメントをもらえました。5月末に原稿を提出し、年内に慶應大学出版会から出される本の一章として収録される予定です。スピンオフで、英語の論文も書くことになりましたが、私は博論に集中したいのでリードオーサーからはおりました。途中から学部生の力も借りて、いいコラボができています。
やや本業よりなテーマだと、(5)Springerから出る学歴同類婚の本は現在査読中です。この本ではトップジャーナルに掲載するのは色々な観点から難しいけど、英語圏のオーディエンスに読まれて欲しいことを書いています。
(6)学歴同類婚と不平等の論文は現在鋭意執筆中です。5月にプリンストンの人口学研究所で報告予定。
(7)専攻の男女分離に関しても二つ書いており、そのうち一つは締め切りが近いので仕上げなくてはいけません。
(8)ゲノムの論文は三本書いていて、うち一本はRRを再投稿、もう一本はASA/RC28で報告(博論の一部になります)、もう一本は他の二つが終わってから取り組むことにしています。
(9)きょうだい順位による同類婚の論文は共著者(アドバイザー)の編集待ち。
(10)Covid-19とネイティブアメリカンのペーパーは現在査読中で、来月のアメリカ人口学会(PAA)で報告予定(私は第二著者)。
(11)日本における婚姻上の地位と健康に関する論文は、こちらもPAAで報告予定(筆頭著者)。今日practice talkがあり、いいアドバイスをもらいました。
(12?)博論後にやりたいテーマは高校生の進路選択が男女で分岐するメカニズム、とくに進学校の学生を対象にした進路調査なのですが、ひとまず既存のデータでわかることを確かめようと思っていたところ、渡りに船で東大社研から良さげなデータが公開されることを知り、使用申請を出しました。及び社研の課題公募研究会に申請書を出し、研究会を組織する予定です。こういった日本の定例研究会には3年ほど参加できなかったので、久々の「日本復帰」になります。面白い結果が出ることを見越して、研究助成、日本の学会での報告などを検討しています。
その他サービス
・最近、査読が月一で入るようになりました。AJS, JMFといった、なぜ私?みたいなジャーナルから依頼が来ることもあり、驚きます。
・指導教員が進めるREADI (Research on East Asian Demography and Inequality)の学生セミナーのオーガナイザーを引き続き担当しています。今学期は定例のセミナーに加えて、先生二人を読んでprofessional developmentセミナーを開催しました。
・インフォーマルですが、学部生の卒論を一本みました。その卒論からインスピレーションを得て博論後の研究テーマを考えたので、感謝しています。
トレーニング
5月にUCバークレーである形式人口学ワークショップにアクセプトされました。尊敬する人口学の先輩たちが揃ってお勧めしているので、すごく楽しみです。
夏にある社会ゲノミクスのサマースクールにも応募中で、こちらは結果待ちです。これとは別に、日本にいる同年代の研究者・院生の人との社会ゲノミクスの勉強会に参加させてもらっていて、毎回勉強になります。
その他
・ワクチンを打ちました。JJです。
・車の免許をとるとる詐欺をしてますが、面倒くさくてまだとってません。やはり、必要に駆られないと動けない人間のようです。
・同じ理由でtax returnもまだ始めてません。
・日本教育社会学会に入会しました。博論後はSoc of Edに舵を切ろうかと画策中で、必然的に入ることになります。
・日本の学会費は全て納めたと思います(日本社会学会、家族社会学会、数理社会学会、日本人口学会、日本教育社会学会)。ASA/PAA/RC28も学会参加と合わせてメンバーシップを更新しました。正直いうと、日本の学会で報告できるチャンスは人口学会を除くと学事歴的に不可能なので、入っている意味が短期的には見出せないのですが、どの学会もお世話になっていたこともあり、そのままずるずる入り続けてしまっています。常勤になると年会費も上がるので、ある程度選別するかもしれません。
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