村上あかね ,2001. “90年代における既婚女性の就業と収入格差.” ソシオロジ 46(2):37–55.
この時期にしては比較的珍しい社会学者による女性の就業と世帯収入格差の関係について考察した論文。データはSSM1995。分析方針はOppenheimer によっている。夫を職業8分類から作成した4カテゴリ、妻を従業上の地位からフルタイム、パートタイム、自営、無職の4カテゴリに分け、夫婦類型(及び後半は年齢別に)に基づいて妻の収入が世帯の収入格差に及ぼす影響について考察している。
夫婦類型の分布を示した後(4.1、ちなみに4節はこの小節しかない)、5節からの分析で、(1)夫婦類型別の妻夫の収入中央値と妻の収入比、次に(2)夫婦合算の世帯収入を夫の職業内・職業間で比較している。分析結果は、妻が有職である夫の年収は無職の妻の夫の年収より低い傾向にあることを示している。ただし、妻有職によって前者の世帯のほうが世帯年収は高くなる傾向にある。
6節ではこれまでの分析を年齢別にみている。分析結果は、夫の職業別に見た時、妻の就業が世帯年収に及ぼす影響は20-30代で大きく、40-50代では小さくなることがわかった。20-30代の中における妻が有職である夫の年収と無職である妻の夫の年収の格差は40-50代よりも小さいということから著者は「全体サンプルにおいて成立している「ダグラス=有沢の法則」が若い世代において弱くなっている傾向」を指摘するが(45)、この解釈は疑問が残る。確かに、ダグラス=有沢法則が年齢を通じて貫徹しているとして、40-50代を基準として20-30代を比べた時、妻が働いていることと夫の収入の関係は弱い。しかし、この傾向は要するに、夫の収入に比べて妻の収入は年齢の効果を受けにくい、つまり、夫の収入は加齢とともに増加していく傾向にあるが、妻の収入にはそうした傾向は見られないということを反映していると考えたほうが自然ではないだろうか。と、考えていくと、ダグラス=有沢法則は年齢のことを考慮していたのだろうかという疑問が生じる。
分析の範囲は超えているが、論文では20-30代で見られた女性内部が今後維持・拡大していく可能性について触れている。この点について引用されている原・盛山(1999)でも言及があったことは忘れていた(一応線は引いていたようだ)。原・盛山(1999)では、女性においては男性以上に(短大・)大卒かどうかによるライフチャンスの格差が大きいとの指摘がある(182-183)。すなわち、男性に比べて女性のほうが学歴による世帯年収の格差が大きい。女性にとっては自分の学歴によってどのような(収入を持つ)夫と結婚するかの確率も変わってくるため、単に個人収入を見るだけでは無職層の高学歴妻の優位を判別できないとする。現在はどうなっているのか、今後の検討が待たれる。
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