October 4, 2018

人口学セミナー第5回文献レビュー(寿命)

文献の長さがまちまちなので、まとめてレビューします。

Friesによれば、diseaseモデルにおいては、死は病気を伴うものであり、病気にならなければ死ぬことはないという考えがある。しかし、Friesはこの考えを否定する。余命の伸長が確認されても、100歳以上まで生きる人の数に大きな変化はないからだ。寿命に限りがあるという理論的な根拠として、筆者は細胞レベルにおいては、細胞の分裂する回数には限りがあるという説、有機体レベルでは、人の器官は相互に依存しているホメオタシスであるという考えがあり、若い時には、人間の器官のfunctional capacityは生きていく水準の4-10倍ほどあるというが、こうした器官の「蓄え」は加齢とともに線形に減少し、次第にホメオタシスを維持できなくなるために、病気でなくとも自然死することはあるという。

平均寿命は伸びているが、それは主として新生児の死亡率の減少によって説明されており、40歳以降の平均余命の増加の寄与分は少ないという。したがって、0歳時の人口を母集団とみなして生存確率のカーブを描くと、筆者の想定では寿命は決まっているため、生存確率は徐々に長方形のようになるという。

こうした長寿化の中で、今後死因として増えていくのはchronic diseaseといったもので、acute diseaseは減少していることを筆者は指摘している。そのために、長寿化とともにchronic diseaseと関連するような障害や、quality of lifeの低下、あるいは治療(cure)から延命(postponement)などが問題になるとする。

Friesでは寿命がfixされていることが強調されているが、OeppenとVaupelの論文では、タイトルにあるように、平均余命のタガが外れていることが指摘されている。特に、1990年代になってから、80歳以降の死亡率が減少しており、今後も余命は伸びることが予想されている。

こうした余命の議論をする際には、病の治療が関わってくるが、これに関してRoseはSick individualsとsick populationsという言葉を対比させながら、二つのアプローチを紹介している。一つ目の個人アプローチの具体的としては、ケースコントロール法が挙げられている。この手法では、ある個人が病気になりやすいリスクファクターを持っているかを特定することに焦点が置かれる。またこの手法は、対象とする集団内において、リスクにされされているかに異質性があることが前提とされている(But to identify the causal agent by the traditional case-control and cohort methods will be unsuccessful if there are not sufficient differences in exposure within the study population at the time of the study)。

二つ目のpopulationアプローチでは、先の個人アプローチが「なぜこのケースが高血圧を持っているのか」ではなく「なぜこの集団において高血圧の人が多いのか」が問題になる。そのため、このアプローチでは集団間の比較がメインとなり、平均値の差が重要になる。

病因研究における二つのアプローチの対比は、予防の文脈においても同様に議論できる。前者の個人アプローチはハイリスクアプローチと言い換えられており、予防においてこの手法の持つ利点は
・介入が問題を持つ個人に行われる
・患者と医者の双方にとってモチベーションがある。
・リソースの使用に対するコストが少ない。
・ベネフィット対リスクの比が好ましい。

であるとする。反対に、この手法のデメリットとしては患者をスクリーニングすることが難しい点や、あくまで患者を治療するため原因自体に介入できるわけではないこと、個人や集団にとってのポテンシャルに弱いこと(将来起こる病気については予測できない、少ないリスクを持つ大多数の人が、大きなリスクを持つ少数の人よりも病因を生じさせてしまう)が挙げられる。

一方で、populationアプローチの利点として、根本的な介入ができる点(伝統的な公衆衛生的な方法では、ある集団にmass environmental controlを試みること、現代的には、あまり成功しないが、society's norm of behaviorを変えることだとする)、集団にとってのポテンシャルも大きい点、そして行動学的に適切である点(一旦処置が社会的に受け入れられれば、個人を説得する必要はない)が挙げられる。その一方で、デメリットとして、個人に対する便益が少ない、患者と医者のモチベーションが低い、そしてベネフィット対リスクの比が少ないことが挙げられる。

こうした疫学的な介入によって死亡率が減少していく減少を病因のパターンの変化に注目して説明するのがOmranのepidemiologic transitionであるとされる。この理論では、転換のスピードなどで各国にいくつかのバリエーションがあり、早期に転換を達成したclassical/western model, 急速に転換を達成をしたaccelarated model、及び遅れて転換を達成しつつあるdelayed modelの三つに分かれる。転換自体は、感染症の流行(pandemic of infections)が疾患の変性(degenerative)や人間自身によって生み出されるような病気が主因になっていく。また、こうした変化が顕著なのは子どもや女性であるとする。

Oeppen, J. and Vaupel, J. (2002) Broken limits to life expectancy? Science 296 : 1029-31.
Fries, J.F. (1980). Aging, natural death, and the compression of morbidity. New England Journal of Medicine 303: 130-135.
Rose, G. (1985) Sick individuals and sick populations. International journal of epidemiology, 30(3), 427-432. Reprinted in 2001.
Omran, A.R. (1971).The epidemiologic transition: A theory of the epidemiology of population change. Milbank Memorial Fund Quarterly 49:501-538. Reprinted 2005.

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