January 8, 2023

今年の抱負?(という名の現時点でのto-do list)

書くまで気づきませんでしたが、昨年は抱負を書いていなかったようです。歳を取るにつれて、仕事のスパンが綺麗に1年で切れることが少ないことに気づいてきたからかもしれません。

とはいえ、年単位の目標もあるはずで、今年の私に関しては、ジョブマーケットに入って就活をするので、そこで納得いく成果を得ることが最大の目標になります。というわけで、新年の抱負というよりは、現時点での短期から中期のto do listみたいになりますが、つらつら(主に何をしなくてはいけないか忘れがちな)自分のために書いておきます。

書き終えてからふと、自分もだんだん職業研究者になってきたのかもしれないと思いました。研究をしていて楽しい場面もあるのですが、研究のサイズが大きくなると事務的な仕事だったり人との関係によって生じる仕事も増えてきます。研究へのモチベーションを失わずに、楽しく、健康に過ごしていきたいですね。

0. 昨年の振り返り

あまり振り返る暇もなかったので、簡単に昨年印象に残った出来事を思い返してみると、やはり一番大きいのは、人口学のトップジャーナル(Demography)に単著を出せたことだと思います。注目度も違って、何人かの研究者から直接問い合わせが来たりしました。ジョブ魔に向けてもpositive signalだと思っています。

目立ったrecognitionとしては、上の論文がASAのSociology of Population Section Student Paper AwardのHonorable Mentionに選ばれました。それと、性別職域分離に関する論文が日本人口学会の優秀論文賞を受賞しました。プリンストン大学からは、Harold W. Dodds Honorific Fellowshipというcompetitive fellowshipを頂きました。

研究面では、やはり夏のインタビュー調査が思い出に残っています。高校生の人に直接話を伺うのは、蒙が啓かれる経験の連続でした。この調査が発端となって、いくつもの研究アイデアが出てきて、今自分の首を絞めています。なお、この調査は村田学術研究財団からの助成があって可能になりました。研究の暫定的な結果を学会だけでなく、関学や上智の研究会で報告できたのもよい思い出です。

9月に日本教育社会学会で研究成果の一部を報告していたところ、学会に参加されていた朝日新聞の記者の方からメールを頂き、後日取材を受けたものが記事になりました。自宅には当日の朝日新聞が5部、新聞のまま届いたのが思い出に残っています。

2月には、ひょんなことから中公の編集者の方と繋がり、新書を書く運びになりました。ちょっと停滞気味ですが、再開したいと思っています。

共同研究の関係で、東京財団政策研究所との関わりも始まりました。日本滞在中の研究場所確保問題が、多少解決してきた感じがします。

最後に一つ思い出に残っているのは、プリンストンで博論コミティにも入ってもらっているYu Xie教授と個人的な関係を築き始めたことです。教授は自分の分野で世界のトップにいる人で、セミナーでのコメントも毎回鋭く、自分にとっては雲の上にいる存在だったのですが、色々あって彼がプリンストンの大学院生を集めて主宰している階層論に関するセミナー(日本で言うところのゼミに近い感じ)のオーガナイザーの仕事を始めました。これまではセミナーで軽く挨拶するくらいだったのですが、一緒に関わる機会が増えたことで、話す機会も増えました。人間的に幼い自分の弱いところをきちんと指摘してもらえたりして、指導教員がサバティカルで不在の間、とてもお世話になりました。

1. 就職活動

2023年度からプリンストン大学の6年生になります。社会学の標準的には、6年目でジョブマーケットなので、私もその慣習に従っています。ただ、プリンストンの居心地がよいのと、ファンディングもなくはなさそうなので、最近は(え、就活ってめんどくない?…と思って)7年目もありかなと思い始めています。ひとまずマーケットには出ますが(イギリス人の友人に、I will be on the market next yearといったら、それ売春みたいなニュアンスがあると言われたので、誤解を招きたくない人はきちんとjob marketといったほうがいいかもしれません)、APについては自分が就職したいと思うところだけを出していくつもりです(もちろん、来年どういうポジションが出るかにもよります)。うまくAPのマーケットがwork outしなかった場合には、アメリカやイギリスのポスドク、あるいはアジアや日本のポジションも考える可能性があります。

一応、先述の通り人口学のトップジャーナルに単著を出したので、CV的には不利にはならないと思いますが、自分が就職したいと思う大学については、それで大きな差はつかないだろうと思っています。今年中にトップジャーナルへのR&Rをもう1つ、できればもう2つくらい欲しいのが正直なところです。友人からは僕は本数があるから大丈夫みたいに冷やかされたりしますが、量は自分が就職したいと思うような大学ではほとんど意味を成さないと予想されるので、トップジャーナルへのポテンシャルがある論文に時間を割く必要があると考えています。ただ、トップジャーナルに載るような論文にしか時間を使わないのも、自分のポリシーに反するところはあるので、そのあたりはいい塩梅を目指していきたいです。

はぐらかして書いていますが、「自分が就職したいと思うような大学」というのは意外と一言で書くのが難しいところがあります。シンプルに言えば、人口学と社会階層の研究が強いアメリカの社会学部で、自分が尊敬している研究者が複数在籍している大学になります。できれば、というところでいえば(実質的に前述の条件でソートするとほぼこの条件は満たされますが)大学院のプログラムもcompetitiveな場所になります。もっと欲を言えば、日本研究が強くて、日本への直行便があるような空港に近く、アジア系のグロサリーがあって、できれば大都市に近いところ、みたいな条件をあげて選り好みをすると10個くらいしかないわけですが、就活でそんな悠長なことは言ってられないので、実質的には自分にとってのdream schoolへの5年以内の就職可能性ができるだけ高い大学、になると思います。1年目のマーケットでいきなり自分にとって理想の大学に就職する可能性は低く、プリンストンの先生からは初職のマーケットは5年スパンで考えるべきと言われました。最初に仕事につく大学が自分にとって理想ではなくとも、次に理想の場所に移れるための環境としてよいかどうかが、隠れた出願基準になっています。逆に言えば、そうしたところに行くチャンスを(プリンストンに残るよりも)高めることができるのであれば、世界中どの大学も考慮してもいいと思っています。

2. 研究
研究は博士後を見据えた難関大進学のジェンダー差に関するプロジェクトを昨年はじめました。最近は、それ関連の仕事が多いです。ひとまず、査読中のものも含めて現在進行中のプロジェクトを羅列しておきますと、

難関大進学のジェンダー差
  1. Meritocracy trap (夏に行ったインタビューの分析)単著
  2. Exam-retaking as a source of gender stratification (ベネッセのデータを使った浪人の論文、1と組み合わせてJMPになるかも、リジェクト後棚上げ)単著
  3. 進学校に在籍する高校生の進路選択の男女差(インタビューの概要と簡単な分析、査読中)共著
  4. 公立男女別学校からみる進路指導の変容(学校文化と進路指導の変化の関係、投稿予定)共著
  5. 国公立大学における女子学生比率と難易度の関係(査読中)共著、第一著者
  6. Why few women apply to selective colleges in Japan: Experimental approach(サーベイ実験を用いて子どもの大学受験に対する親の考えが子どもの性別で異なるかを検証、本実験前)共著、第一著者
  7. Exam retaking and family formation outcomes(浪人した場合に女性だけ結婚が遅くなるのはなぜなのか、学会アブスト)共著
  8. Vocational aspiration as a source of gender segregation(男女の手に職志向と進路選択の関係、学会アブスト)共著
  9. 難関大学に進学する女性が少ないのはなぜか?(二次分析研究会の報告書で棚上げ状態、リフレーミングして投稿したい)
  10. 進学校を対象にした学校パネル調査(企画段階、申請書を書き上げる)
  11. 進学校を卒業した男女への追跡調査(昨年のインタビュー調査のフォローアップ、申請書を書いている)
  12. 高校から大学への移行過程に関するマクロデータのハーモナイゼーション(企画段階、来年度より始めたい)
家族人口学
  1. Testing Marriage Market Mismatch Hypothesis: Experimental Approach(サーベイ実験のフレームワークでミスマッチ仮説の検証、パイロット前)共著、第一著者
  2. Exploring Asian Americans' Family Stability(アジア系の離婚率はなぜ低いのか、PAAで発表)共著、第一著者
  3. Revisiting the Relationship between Marriage and Health in Japan(結婚への健康のセレクションの再検証、長いこと棚上げ)共著、第一著者
  4. Family Norms and Declining First Marriage Rates(きょうだい構成の変化と結婚率の関係、投稿中)共著、第一著者
  5. Long-term Consequences of Early Career Disadvantage on Fertility(正規・非正規の間の結婚と出生格差、投稿中)共著、責任著者
  6. 人口動態調査を用いた国際移民と家族形成の分析(データ申請段階)共著
日本の子育て格差(来年度、東大社研の二次分析研究会をオーガナイズする予定で、そこで扱う研究)
  1. 母親の地域移動効果の再検証(都会に住んだ経験のある母親は教育期待に対する女子バイアスが少ないという仮説の再検証、分析途中)単著
  2. Private Supplementary Education as Parenting Outsourcing(塾利用と母親のワークライフバランス、学会アブスト)単著
社会ゲノミクス
  1. Horizontal Educational Stratification through a Genetic Lens(ゲノムデータを使った教育の質的階層性と社会移動の分析、投稿前)共著、第一著者
  2. Demography of Genetic Ancestry(遺伝子データを使った人種と格差の人口学的分析、分析中)共著、第一著者
  3. Education GWAS in Japan(genequest社とのコラボ、ゲノムデータを使った教育年数と遺伝の関連)共著
新書
  • 日本の家族格差に関する新書を2月くらいにオファーいただいて書き進めていたのですが、2章書いて棚上げ状態、今年のうちに脱稿したいと考えています。
その他、頼まれ仕事(優先順位は低め)
  1. 地熱
  2. 低体重出生と宗教
  3. Gender Differences in the Impact of the COVID-19 Pandemic on Psychological Well-being
と大体25くらいのプロジェクトに関わっています(その中には調査企画段階のものもあるので、実際に論文単位にブレークダウンできているものは20ちょっと)。これらを数年かけて終わらせるのが目標です。今年中に出るものもあれば、3−4年かかるものもあると思います。

3. その他
  • 学会発表:今年は以下の学会に行こうと思っています。行き過ぎなのは自覚しています。
    • 3月 AAS(アジア学会、ボストン)
    • 4月 PAA(ニューオーリンズ)
    • 5月 RC28 Spring Meeting (パリ)
    • 6月 日本人口学会(名古屋)
    • 6月 ISA World Congress(メルボルン)
    • 7月 READI conference(東京)
    • 8月 RC28 Summer Meeting(アナーバー)
    • 8月 ASA(フィラデルフィア)
    • 9月 日本家族社会学会(神戸)
    • 9月 日本教育社会学会(弘前)
  • トーク
    • 1月 東京大学(zoom)
    • 3月 ミシガン大学
  • ティーチング
    • 6月 都内某私立大学(留学生向けのサマーセッションで4回ほど講義)
    • 6月 プリンストン大学サマースクール(東京で開催されるセミナーでゲスト講義)
  • その他サービス
    • Graduate Student Government Representative(就職する友人に代わって大学院自治会への社会学部の代表業務)
    • READI Student/postdoc Seminar Co-organizer (東アジアにおける社会階層と人口に関するオンラインセミナーのオーガナイズ)
    • Princeton Stratification Seminar Co-organizer(社会階層論セミナーのオーガナイズ)
    • PAA/ASA Japan Dinner Co-organizer
      • アメリカの日本研究者と日本の研究者をつなぐことはライフワークにしていきたいので、その一環です。やりがいは感じます。
    • アメリカの社会学博士課程に出願できる人のリクルート
      • エージェント業務をやっているわけではないのですが、最近はポテンシャルがあると思った人には「アメリカの大学院のほうが向いていると思うので検討してみないか」とはっきり言うことにしました。自分の判断は間違っているかもしれませんが、自分なりにその人のキャリアを考えて少し積極的な態度に変わっています(以前は、そこまで行ったほうがよいとまでは言ってませんでした)
  • 査読
    • 2020年までは2本くらいだったのですが、2021年は5本、2022年は6本担当して、結構負担に感じ始めました。今年は年はじめの1週間ですでに2つ依頼が来ました(どちらも査読することにしました)。基本的に自分が将来出してもいいと思える雑誌の依頼しか受けないようにしていますが、それでも負担感はあります。昔はただの義務感でやっていたのですが、最近は色々忙しくてゆっくり論文を読む時間も取れなくなってきているので、こういう拘束力のある手段でインプットできる機会は、それなりにありがたいと思っています。多分、今年は10本くらいやるのかなという気がしています。

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